第二百四十三話◆:消えぬ悩みと監視者Aさん
第二百四十三話
「朱莉様、コーヒーです」
「あ、どうも」
「んで、朱莉は一体どうした。別れたばっかりだろ」
「ひどい事言いますね~」
「いや、事実だろ」
あれから竜斗は帰った。何やら、考えているようだったが………変な行動に出なけりゃいいんだけどな。
そして、その後朱莉がやってきたのである。てっきり何か忘れ物でもしたのだろうかと思いきや、まるでキャンプでもする装備を背負ってきたのである。
「朱莉、山でも登るのか」
「いえ、クライミングというより、あたしはトレッキング派ですけどね………」
「じゃ、その道具は何だよ」
「ここに住むための道具ですよ」
俺は、漫画や小説みたいに『そうか』と言った後に『って、ええええっ』とかいう人間ではない。
「なんでだよ。此処は俺のアパートだぞ」
ピンと人差し指を立てて朱莉は言うのだった。
「風花さんが東家を出たため、零一君の監視を受け継いだんですよ」
「なるほど………でも、朱莉はまだA.S.Tじゃないだろ」
そうなんですよね~、そう言った後に笑うのだった。
「入隊試験のようなものだそうですよ。あ、零一君の監視に加えて、風花さんの監視も命じられています」
「俺らに言っていいのかよ」
「もちろん、言っていいから言ったまでです。あたしの役目は監視ですから」
いまいち何を考えているのかわからない相手だが………気を許さないほうがよさそうだ。
「まぁ、朱莉の事は放っておくことにして………」
「じゃ、家探ししてきます」
「こら、此処にいろっての」
後ろから朱莉をしっかりと押さえつけて風花のほうへと首を動かす。
「なんで東家を出てきたんだ」
そっぽを向いて答えてくれるような感じじゃなかった。無理に聞きだすというのも面倒だし、嫌だが………よし、こうなったら奥の手だ。
「答えてくれたら飴をあげるぞ~」
「…………」
「…………」
場がなごむことはなかった。
――――――――
お風呂に入っている風花は既にお手伝いではないため、俺は朱莉と一緒に食器を片づけている。
「ふと、思うことがあるんですが」
「何だよ」
少しの間、朱莉は思案しているようだったが食器を流しに置いて言うのだった。
「零一君がしっかりとした判断を下せばいいんじゃないんでしょうか」
「俺がしっかりとした判断………なんだ、俺のせいだって言いたいのかよ」
「それはまぁ、そうでしょう。無論、零一君自身、家族がいたこと自体驚きでしょうし、面倒なことに巻き込まれているのも事実です」
「そりゃまぁ、そうだな」
かなり面倒なことになっているのは否定できないし、状況把握しにくくなっているのも事実だ。
「妹さんがいやがらせを行うのも………」
「ちょっとまて」
「なんですか」
とぼけたような表情がこれまた可愛い………じゃなくて、だ。
「俺の妹が元凶なのか」
「信じられないですか」
「いや、そうだろうと言うぜ………全く、あの女は何がしたいんだ」
ため息をついて考えてみるも、答えは出てこない。
「それなりに、謳歌していたんじゃないんでしょうかね」
「何をだよ」
「人生を、とでもいいますか」
それだけじゃわからんぞ。そういうと朱莉は話し始めた。
「それまで、彼女は東の後継ぎだと思っていたのですが、二人も兄貴が現れました。邪魔以外の何物でもありませんよ」
「そりゃあ、そうだろうな」
自分が絶対に手に入れるものが知らない相手にとられるのだから、イライラするのは間違いないだろうな。
「長男は権利を放棄しましたが、次男のほうへと権利は移った」
「俺ってことか」
「そうですね、大変です」
「他人事だと思ってよ………」
「東に関係する人間なので他人事ではないですが………いっそのこと、権利を渡してしまえば全て丸く収まると思いますがどうでしょうか」
「そうなんだけどな、いろいろと俺にもあるんだよ」
「風花さんとの約束ですか」
「………まぁな」
風花は言った。俺が権利を放棄すれば自分の部下たちは路頭に迷うと。
「風花さんの言った出鱈目とは考えなかったんですか」
「ははは、元来人を疑うと言う言葉を知らないやさしくていい性格なのよ、俺は」
「自己分析に難あり、ですね」
「ともかく、可能性を放棄してまで他人の生活を脅かすのはどうかと思うぜ」
「零一君がいいなら、あたしはそれでいいんですけどね」
その後は特に話をすることもなく、何事もなく朝を迎えるのだった。
24時間テレビだそうですね、まぁ、見ませんが。さて、今回で二百四十三話。まだまだ、東家のごたごたは収まりません。どこもそんな感じでしょうけどね。そして、新たに監視者となった朱莉。最近出番のないあの人たちも次回、たくさん出てくる予定です。人数多くなるとやっぱり固有に話を作ってあげないといけませんね。話としては東の話で終わりかな、そう思ってます。いい加減、『ブラックレーベル・どろどろ関係の末の悲劇。零一、地上のもつれの末に行方不明』をやりたいんですけどね。なかなかいきません。あとがき書いていたら日付、変わっちゃいました。それでは、次回また、会いましょう。八月二十九日日曜、零時二分。