第二百四十一話◆:零一の嗜好、背後には新たな問題点
第二百四十一話
即決なんてめったにないことで、俺に与えられた猶予は一週間だった。ともかく、一週間は佳奈にも、妹の麻妃にも、どうするとも伝えていなかったりする。答えは決まっているのだが、それを告げようとしたら麻妃から『一週間後に聞きます』と拒否されたのである。
「それはそれは、非常に難しい問題にあたっているのですね、零一君は」
「まぁな………しかし、俺が話すよりも先に朱莉が相談に乗ってくれるとは夢にも思わなかったぜ」
朝から俺のアパートには朱莉がやってきており、緑茶をすすっていた。まだ四月後半だというのに、暑くなってきているのは地球温暖化のせいだろうか。
「すでに答えを決めている零一君が何を言ってるんですか」
「ありゃ、ばれたか」
「ばれますよ、何年コンビ組んでいるんですか」
最近は朱莉と一緒に何かを探したりしていないのだが、いまだにコンビを組んでいることになっているらしい。組んだことのないコンビ、いつか………お笑い界に向かうのかもしれないな。
「大体、悩んでいる人間がそんなすっきりとした表情をしているわけがありません」
「ははは、そりゃそうか」
「そうです」
こほん、朱莉はひとつ咳をしてから俺に微笑みかけた。
「零一君、これから一緒に外に出かけませんか」
「ああ、別にいいぜ。久しぶりに何か依頼が入ったのか」
「依頼………まぁ、依頼と言えば依頼ですね」
笑いながらそういう朱莉を少しだけ怪しいと思いつつ、今更行かないなんて言えないので俺はさっさと支度をすることにしたのだった。
――――――――
俺が依頼だということで連れてこられたのは駅前のデパート。市長がさまざまなところを誘致した結果、駅前にいろいろな店が立ち並んでいると言っていい。商店街もあるにはあるのだが、学校の向こう側にあるため、客取りなどが起こっていないというある意味不思議な現象が起こっている。デパートはちょっと遠いので商店街で終わらせようと言う人が多いのが原因だろうか。
まぁ、学生とかは商店街より駅前にいることが多い。羽津高校は遠いところからの生徒も少なからずいるのが原因のひとつだろう。
「それで、デパートまでやってきて何をするんだよ」
「零一君に今年の水着を選んでもらおうと思いまして」
「………は」
なんだかとても聞き捨てならない………いや、なんだ、まぁ、その。
「水着を選べってか」
「はい」
「誰に」
「零一君に」
「誰の」
「あたしのですよ」
じゃあ、とびっきり露出の高いものを………じゃなくて、だ。
「朱莉は今年、受験生じゃないのか」
「いえ、就職先はアストですから」
A.S.T………東スペシャルチームが就職先って一体、こいつはどんな脳みそを所有しているのだろうか。
「いいじゃないですか、ちゃんと見せてあげますから。あ、それとも夏までの楽しみにしていましたか」
「そりゃそうだ………こほんっ、あるわけないだろ。別に楽しみになんてしてないぜ」
「え~本当ですか」
「ほ、本当に決まってるだろ。俺が嘘ついたことあるか」
「じゃ、これが今回が初めての嘘かもしれませんね」
「なわけないだろっ」
「さ、水着売り場はこっちですよ」
なんだかかなりからかわれている気がしたのだが、そろそろ周りの目が痛くなってきた。嫉妬のような、馬鹿を見るような目のような………俺は逃げるように水着売り場に移動したのだった。
「さ、より取り見取りですよ。好きなものを選んでくださいね」
「俺が着るわけじゃないだろ」
「そりゃあ、そうですよ。零一君が女装しても吐くだけです」
「………そらそうだ」
想像しただけでも怖気がするわ。
ともかく、今は朱莉の水着を選ばないとな。
「選ぶんなら、真面目に選ぶぜ」
「はい、お願いしますね」
さて、どういったのが似合うか………スクール水着なんて着せても意味ないし………やっぱり、ビキニか。
「黒のビキニがお気に入りですか」
「べ、別に俺が着るわけじゃないから何でもいいだろ」
「しっかりとつかんで放さないところが説得力ありますね」
「うるさいなっ」
じゃ、試着してきますねと本当に黒ビキニを持って試着室へと朱莉は消えていった。
「はぁ………」
なんだか、約一週間後に結構重要な選択肢を突き付けられている奴の行動とは思えねぇな。
「あれ、雨乃じゃない」
「…………」
そして、不幸とは………列をなしてやってくるものらしい。
何故だか、やばいと思いながら俺は知り合いのいる声のほうを向くのだった。
次回、『水着売り場の純白パレオが真っ赤に染まる…どきっ、女だらけの水着ショー』をお送りします。本当かどうかはわからないのはいつものことですけどね。というか、本当に零一は何をしているんだ………。八月二十二日、日曜、二十二時二十一分雨月。