第二百三十九話◆:東の受難
第二百三十九話
東家にたどりついた俺はチャイムを鳴らす。すぐさま返事があるわけでもないようで、ふと、門を見上げた。
「でけぇな」
何度見たってこの門が馬鹿みたいに大きいことには変わりない。たぶん、ロボットが出動するぐらいの幅があるのではないだろうか。庭の中央にある噴水が縦に割れて、そこからごごごごーってそんな感じに出現するとか。
『はい、どなたでしょうか』
ロボットが地平線の彼方に飛んで行ったところでようやく俺のチャイムに気がついたらしい。声をかけられたのでどうこたえるべきかと一瞬だけ悩んだが本名を告げた。偽名を名乗ったところでアやましまれて終わりだろうし。
「雨乃零一ってもんだ。此処にいる風花ってお手伝いに会いたい」
『…………』
少しの間、何か悩んでいる声が聞こえてきた。偽物ではないかという声まで聞こえてくる。九割が他偽物だろうという声が聞こえてきたのでイライラしつつ、ちょっと大きめの声を出した。
「言っておくが、本物だぞ」
『失礼しました………今、本人をそちらに向かわせます』
そう言われて俺は門の前に立ち尽くすことになった。三分ほどだっただろうか………体感時間的には結構かかった気がする。
「お久しぶりですね、零一様」
「ああ、そうだな」
いつもと変わらぬ涼しい表情。ま、少しぐらいは嬉しそうって感じもするんだがな。
「用事はすんだのか」
「いえ、まだです」
「そっか、じゃあまだ帰ってこないのか」
「…………それはちょっと、難しいかもしれません」
しばしの間、困ったような表情を見せる。
「は、どういうことだよ」
「それよりも………」
どういったら伝わるのだろうか、風花は何かを悩んでいるようだ。
「零一様の妹様が会いたがっております」
「俺にか」
「はい」
そういえば、妹いたらしいな。全然、そんなこと知らなかったんだが。それを言うなら兄貴もいたということ自体が不思議だな。顔が似ていたのがちょっとショックだった。まぁ、向こうも俺の顔を見てなんだかショックを受けていたようだから………血の繋がっている兄弟と言うのは本当のようだったが。
「俺は会いたくないね。今更、妹だって言われても信じられねぇ………というか、いまだに東家の子供ってこと自体が非日常だと感じる」
「では、わたくしがいることも非日常だということでしょうか」
「それは…………」
きっと、俺が困ることを予期して質問してきたのだろうな。黒のワンピースに白のエプロン姿の風花をじっと見ていたが、いつものように涼しい笑顔だ。全く、相変わらず何を考えているのかはっきりとわからない相手だな。
「会っていただけないでしょうか」
「へぇへぇ、わかった、わかりましたよ。会えばいいんだろ」
「ありがとうございます」
慇懃に頭を下げる風花を見て思い出す。そうだ、こいつは東の人間だったんだと………。俺のお手伝いだが、それもあくまで東から言われてこっちにいるだけで………。
「…………」
「どうかなさいましたか」
「いや、何も」
やめだやめだ。俺は風花と一緒に生活をしてきたんだ。風花がたとえ、東の言葉で動いていようと、俺がどうこう口を出す必要もない。
「こちらでございます」
当初の目的がすり替わっていることに俺は気付くこともなく、風花の案内に従って屋敷の中へと入っていくのであった。
最近、コメディーにてラブコメが減ってきましたね。純粋に笑えるようなものがあるってことです。一時期は掃いて捨てるほどありましたから。まぁ、そこの生き残りですが。初めて小説書いて、感想をもらった時のうれしさ、あれは言葉では言い表せないものですね。ふと、思ったのですが言葉では言い表せないうれしさってところですでに言葉で言い表しているような気がしてなりません。ふっ、気のせいですね。さて、今回からまたはじまりました長編。完結編の予定ですので、覚悟お願いします。最後に、この小説がハッピーエンドで終わるか否か、いまだに判別不明ですのであしからず。八月二十日金曜、十九時三十分雨月。