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第二百三十五話◆:未来の過去に起こった雨乃零一殺人事件 END

第二百三十五話

「おい、起きろ」

 誰かが乱暴に俺の頭を蹴飛ばした。まぁ、思い切り蹴飛ばしていたら今日も隣で寝ている(なぜか、満もこの部屋で寝ている)剣にぶつかっていただろう。

「ん、誰だよ………」

 相手は俺の胸倉をつかみ、そのまま持ち上げ、自分の顔まで持っていく。焦点の合わなかった視界の真ん中に、いつも鏡で見ているような顔があった。

「俺だよ、俺。いつも鏡で見てるだろ………ま、今の俺のほうがいい男だけどな」

 右頬に大きな切り傷を持った男………そう、そいつの名前は雨乃零一で間違いないはずだった。



――――――――――



「未来の俺は誰かに殺されていたんだろ」

 あたりは暗闇に包まれている商店街一角の自動販売機。光明はそれだけであり、月も沈んで消えている。

「ま、そうだが………刺すプロは刺されるプロでないといけないんだよ」

 黒いコートを着た俺はブラックコーヒーを飲んでいる。ちなみに、俺が飲んでいるものはカフェオレだ。

「で、誰に刺されたんだよ」

 刺された本人に聞くのが一番手っ取り早い。それは間違いないことだった。そして、俺は耳を疑った。



「八人全員だ」



「は」

「ま、そうするように仕向けたのは俺だ。そういう意味ではこの事件の犯人は俺だな」

 飲み終えた缶を適当に放り投げる。しかし、その空き缶はみごとにリサイクルボックスの中へと入った。

「意味が分からねぇよ」

「あいにく、この事件の真相を探ろうとしている奴に教えようとはおもわねぇよ」

 そういう相手に俺はあきれるのだった。

「あんたは未来の俺だろ」

「俺は俺で、お前はお前だ………」

 懐から何かを取り出し、俺に渡す。

「これは………」

 あの時落ちていたナイフだった。しかし、あれは朱莉の手に渡ったのではないのだろうか。

「俺を刺したのは八人全員………しかし、最初っから俺の事を殺してやろうと思っていたのは一人だけだ。恨みのこもった一撃、俺が素人だったら絶対に昇天していただろうな」

 面白そうに唇をゆがめ、俺は笑っている。

「理解出来ねぇな」

「するな、お前はまだガキだからな」

「刺されるようになった動機は何だよ」

 しばらく何か考えているようだったが実に嬉しそうにしゃべり始めたのだった。

「女絡みだ」

「は」

「くっくっく、そうだろうな。お前じゃわからねぇだろうけど………最終的には俺の頑張りもあって九つ股やってたんだわ…ま、それも本当に一時期の話だ。全てに決着をつけるためと、一人の女を選んだ結果………後半のほうが理由は大きいか」

 そういうと俺に背中を向ける。

「おい、俺はまだ話終わってねぇぞ」

「あ~、いちいちうるせぇ野郎だな。結構俺の存在をにおわせていたって言うのに気付けねぇお前もお前だ。お前、こっちの世界じゃ狙われて危ないぜ」

 俺の事を付けていたのはこいつだったのか………という疑問も持ったのだが、狙われて危ないとはどういうことだろうか。

 闇にとけて行く俺に追いすがる………が、背後を取られていた。

「過去の俺はモテてなかった………が、今でも八人全員、俺の事を好きなんだろうな。しかし、俺はもういない。嫁に会いに行かなきゃならんから外国に行くからな。お前、さっさと自分の時代に帰ったほうがいいんじゃないのか。八人にまた、襲われるかもしれないぜ」

 いまだに持っていたナイフを取り上げられると今度こそ、いなくなった。

「八人に狙われるってどういうこった………」

 むしゃくしゃしながら空き缶を放り投げたが、うまく入ることはなかった。

 それから、満の家に戻った。あれから三十分程度しかたっていない。合鍵を使って中に入ったのだが………

「つ、剣」

「零一先輩、どこに行っていたのですか」

 パジャマ姿の剣が立っていた。未来の俺が言っていたことも重なってなんだか怖く見えた。

「ちょ、ちょっと外に出てただけだ」

「何故」

「それは………その、俺に会いたいって人がいたから」

 その言葉を口にした瞬間、あたりの温度が急激に下がった気がしてならなかった。

「へぇ、どういった人ですか」

 こちらに一歩、足を踏み出した剣。俺は一歩、足を後ろのほうへと動かしていた。

「だ、誰だっていいだろ」

「確かに、そうかもしれませんが………気になるんですよ。言ってませんでしたっけ。私は零一先輩の事が好きだったんですよ」

「そうかい、だけどそりゃ、未来の俺だろ。俺はあんたの知っている零一じゃないぜ」

 剣はまた一歩、こっちに足を踏み出していた。

「だから、なんですか。顔もそっくり、言動もほとんど一緒です………」

 満が起きてきてくれるのを期待したが、どうも、これは逃げたほうがいいのではないかと考え付いた。

「あ、えっとだな、剣。俺、そろそろ過去に帰れると思うんだわ今まで世話になったって満に言っておいてくれないかな」

「…………一方的ですね、また、逃げるんですか。零一先輩………思えば、零一先輩に最後にあったあの日…………」

 何が怖いって、剣の目がうつろになりかけているところだろうか。これ以上は耐えられないと思い、俺はその場から逃げ出した。



―――――――



「それからな、俺は………って、なんだか信じていないような顔をしているな」

 当然、あれから様々な体験をしていたのだが聞き手がちゃんと聞いてくれていなければ話していても面白くない。

「いえ、そんなことはありませんよ」

 まぁ、聞いてくれているのは風花だけなのだが仕方がない。

「零一様、話の腰を折るようなことを言うかもしれませんが…………この一週間、家出をなさっていたということで構いませんね」

「いや、だから過去に行っていたんだって」

「そうであるのならば、真っ先に自分が帰るべき場所を探すのが普通ではないのでしょうか」

「…………」

 そ、そりゃそうかもしれないな。

「ともかく、今日から春休みの間、ずっと勉強会を実施しましょう。教科書が零一様の帰りをずっと待っておりましたから」

「…………」

 こうして、俺の身に起った不思議体験は幕を閉じた。もちろん、もっと様々なことが起こったのだがそれをもう、語ることはないかもしれない。


え、何だか適当な終わり方だったと思うんですか。何を言っているのですか、これ、全部書いてしまうと色々と問題になりそうだったので此処が終わらせどころだろうということで終わらせたんですよ。ええ、だって………この後零一は世にも恐ろしい体験をしつつ、未来からの脱出を試みるんですからね。満は、いい人でした。さて、次回からはとうとう、いや、やっと二年生になった雨乃零一の戦いが始まります。

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