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第二百三十三話◆:未来の過去に起こった雨乃零一殺人事件 Ⅷ

第二百三十三話

 朝食を食べ、剣と満を見送った俺は一人東グループの屋敷を目指していた。不謹慎かと思いつつ、風花の成長ぶりを想像してしまう。どんな感じになっているのだろうか。

「待った、それ以上動かないで下さい」

 そんな時、後ろから声をかけられた。聞いた声だ、そして、一人の人物が頭に浮かんだ。

「朱莉か」

「………あたりです。一体なぜ、あなたが此処にいるんですか」

 後ろを振り向こうとしたのだが、そのまま動かないで下さいと背中に何かを突き付けられた。

「朱莉、お前ここ数日俺をつけ狙ってないか」

「あいにく、零一君と会ったのは六年前が最後ですね、あえて嬉しいですよ。いろいろと聞きたいことがありましたから」

 一体何を突き付けられているのか、考えてみる………円形で固形のようだ。鉛玉をぶっ放す鉄砲ではないだろうか。

「俺はこの前お前に会ったばかりだけどな」

「は、何を意味のわからないことを言っているのですか………それに、なんだか成長していない気がしますが何かに巻き込まれたんですか」

「俺さ、過去から来たんだわ。一緒にあの山で不思議体験した朱莉ならわかってくれるんじゃないのか」

「………なるほど、過去からきた………そうですね、あんな不可思議な事を体験していれば過去から来てもおかしくない………それにこっちの零一君は正常のようです」

 円形の固形物は俺の背中に興味を失ったようで離れて行った。それと同時に、俺は後ろを向いた。

「さて、先ほど零一君に突き付けていたのはどちらでしょうか」

 そこにいたのはこりゃまた偉く成長したもんだなと言うべき胸を持ったきれいな女性が右手にはうみゃい棒、左手には真っ白なちくわを持っているのだった。

「………硬かったからうみゃい棒か」

「ぶっぶー、正解はこっちです」

 頬に突き付けられたちくわは非常に硬いものだった。



――――――――



 懐かしのファミレスでお冷を飲みながら俺はため息をつくのだった。

「しっかし、朱莉は行方不明中だって満から聞いてたぜ」

「ああ、まぁ、そうですね。今も警察に追われている身ですから」

 お冷を口に含みながら朱莉はそういうが、俺は不思議でならなかった。

「なんで逃げてるんだよ」

「前科がありますから他の容疑者とは扱い違うと思いますよ」

「前科………ああ、なるほど」

 警察の御厄介になっているのは知っていたがまさかここで足をひっぱる事柄になるとはな。

「で、お前も刺したって言うのか」

「お前もってことは他の人にはあったようですね」

「ああ、ちょうどこれから風花に会いに行く途中だった」

「なるほど、あたしは最後のほうですか」

「ま、そうなるな」

 お冷を完全に飲んだ朱莉はため息をついた。

「刺したくなかったんですが、刺しましたよ。気がついたら、零一君が倒れていたんです」

「………衝動的ってことか」

「ええ、その通りです」

 苦々しげにそういう朱莉。どうも嘘はついていないようだ。

「動機は何なんだ」

「動機は…………」

 俺のほうをしばらく見ていたのだが、そっぽを向いた。

「嘘をつかれて、傷つけられて………さらに、そのあとでその嘘自体が嘘だった事に気づかされましたよ。全く、零一君のくせにあたしに嘘をつくなんて………うっ」

 そういって少しの間泣いていた。

「おいおい、あそこで別れ話でもやってるのかね」

 暇そうなおっさんたちがそんな話をしていた。

「すいません、ちょっと久しぶりに話せて嬉しかったんです」

「そっか、そりゃそうだわな」

 故人と話すなんてそうそうない。まぁ、俺自体は死んではいないのだが、朱莉たちからしてみればそうなのだろう。

「で、今逃げてるって言っているけど大丈夫なのか」

「ええ、アストが助けてくれていますから」

 アスト………ああ、A.S.Tか。

「大丈夫なのかよ」

「アストの特別部隊長ですからね、あたしは。それと、ちょっととある人物を探しているんです」

「とある人物って誰だ」

「それは教えられませんよ」

 そういって朱莉は立ち上がった。

「さ、行きますよ」

「行くってどこにだ」

「当然東グループの屋敷ですよ。風花さんに会いたいって言っていたじゃないですか」

「ああ、そうだったな」

 なるほど、A.S.Tに所属しているから話もスムーズに行くってわけか。

「風花にはたまに会っているのか」

「いえそれほど会いはしませんよ。所属している場所が違いますし、裏方に回ることが多くなっていますから」

「裏方………どういうことだ」

「当主となった洋一郎さんの御子息の教育係となっているんです。それほど、あの事件は東にとって影響が大きかった………そういうことです」

 俺には容疑者を教育係につける兄貴の心がわからないね。



―――――――――



「多分、みなさん零一君がいるってことを知ったら面倒なことをすると思います」

「具体的にどういったことだ」

「尋問………でしょうね」

 さぁ、かつ丼食って楽になれとかそんなことを言われるのかとかんがえてしまった。体験したことないのでさっぱりわからないのだがこんなものだろう。

「だから、ここで待っていてください。連れてきますから」

 朱莉は屋敷から五百メートルほど離れた場所に俺を置いて行ってしまった。手持無沙汰になるのだが、改めて考えることにする。

「さぁて、誰が俺を………ん」

 どうも、この前と言って自分の存在をアピールしたい輩がいるらしい。朱莉の向かった反対方向から誰かの視線を感じた。

「誰だ、あんた」

 電柱に人影を見たような気がしたが、人の気配は消えた。何やらきらりと光る何かが落ちていたので拾い上げるとそれは刃渡りの長いナイフだった。

「………でぃ………らいとって読むのか」

 刃の峰の部分に『de-light』と彫られている。確か、意味は歓喜とか………だったか。誰かの落とし物にしては物騒すぎる。

「零一君、連れてきましたよ」

「え、ああ………」

 ナイフをどうしたものかと思いつつ、その場において振り返った。

「………本当に、零一様とは違う、零一様なのですね」

 懐かしそうな目で俺を眺め、涙を流していた。喜びなのか、哀しみなのか………俺には理解できないものだった。

「じゃ、風花さん、あたしは仕事に戻るんで零一君とどこかで一緒に話していてください」

「かしこまりました………零一様、行きましょう」

「ああ」

 朱莉は俺の後ろに………きっと、ナイフに目を向けていたのだと思う。何かを知っていそうなその表情を不思議に思いつつ、俺は風花の後を追ったのだった。


さて、いよいよヒロインたちすべてが出尽くしてきていますが、何やら気になる人影が………。零一にかせられている滞在期間も順調に減りつつあり、次回もこれは見逃せないと一応、言っておきましょう。まぁ、全員が一度に出てくるなんてない………とは言い切れませんが、零一が調べていくうえで一つの結論に到達するのはまちがいないでしょう。その事実が真実ではない可能性もあり得ます。ま、作者のやる気がいきなりゼロになればこの小説も行き先不明で爆破される可能性もありますが。八月三日火曜、二十二時三十三分。

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