第二十三話◆:犬と始まり
第二十三話
降りしきる雨の中、俺と湯野花さんは高級住宅街へと足を伸ばした。
「うわぁ、俺まだこっち方面来たこと無かったわぁ」
「それじゃあいい機会ですね。ところで、零一君はこの町の地形とか道、ちゃんと覚えていますか」
「勿論だ」
先週の日曜日に一日かけてまわってみた。大体の道を把握している。北側に聳え立つ山方面に学校があり、それから南にかけて町が広がっている。その町の東側、裏路地辺りにはホテル街がちょっとある。勿論、深くは行っていないので詳しいところはまだわからない。
「いい返事です。それじゃあ、行きましょうか」
茶色いレンガに黒いプレートが埋め込まれている。金色の文字で書かれているものは『澤田』という文字だった。
降り続く雨はまだまだ、止んでくれそうにない。
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部屋の中に案内されると一匹の犬が目に入った。そして、視線があった。
大きなゴールデン……レトリーバーだったり、レトリーバ、レトリバー……ともかく、ゴールデンレトリバーが俺を見るなり突進して来た。
「ごはっ」
押し倒され、一瞬だけ喉に食いつかれると思ったがそうでもなかった。顔をぺろぺろされていることに気がつく。昨日、ライオンが獲物を襲うという映像がテレビであっていたせいだろう、ちょっと臆病になってしまった。
「やめなさい、なつき」
奥さんがそういってようやく引き離してくれた。ふぅ、喰われるかと思ったぜ。
「ごめんなさいね、なつきは構ってくれそうな人を見るといつもこうなの」
おほほ……やはり、高級住宅街に住んでいるだけのことはあるかもしれない。実に板についた笑い方だった。
「まぁ、いいです。それよりお話のほうを……」
また、犬と目があった。
「ごはぁっ」
「こら、なつきっ」
尻尾を千切れんばかりに振りたくって俺の上にのしかかってぺろぺろ。こいつは一体全体何がしたいんだよ……
「すみません、こっちのほうは放っておいて構いませんのであたしに詳しい事情のほうをお願いできますか」
湯野花さんはあっさりと俺を見捨てた。若干、その顔には呆れの表情が浮かんでいる。
「え、ええ……なつき、大人しくしているのよ」
ぜんぜん大人しくない犬、なつき。一応、ご主人様の声には反応したが俺に夢中のようだ。ほえることなく、にやっとわらい……そんな気がした……また俺を見る。
「……」
結局、俺が話に加わることは無く、湯野花さんが戻ってきたときに俺は上と下とをしっかりと区別させてやっていた。
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雨の中、対象者を追跡するのは結構大変である。傘はまず、邪魔になるだけなので俺と湯野花さんはレインコートを装着し、七時に旦那さんが出てくると思しき会社までやってきていた。
「……」
「……」
ばれないように右と左、各自で行動することにした。すでに俺の家には連絡がいっているので大丈夫だろう。携帯電話も電源を消している。
「お、出てきたぜ……」
出てきたのを確認し、写真を撮った。すでに、彼の周りには数人の女性がいる。ほぉ、もてる様で羨ましいな。
仕事に私情を挟むのはどうかと思ったがこの仕事、ちょっと本気でやらせてもらおう。
抜けた親知らず、見せられて肉片がついていた……生まれて初めて痛み止めを飲みましたがこれ、非常に聞きますね。さて、今回から始まった探偵の真似事。日常生活にも絡んできます。勿論、今後の零一の見の振り方にもかかわるでしょうね。それでは、また次回。今日から連続投稿がストップすると思います。二月四日木曜、九時三十九分雨月。