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第二百二十八話◆:未来の過去に起こった雨乃零一殺人事件 Ⅲ

第二百二十八話

「れ、零一………」

 白いワンピース姿で少し汚れていた。ちゃんと着替えているのだろうか、それに髪は伸ばし放題だ…………しかし、後ろ姿は中学生と言う雰囲気はどこにもなく、ああ、これが大人の女ってやつかぁとちょっとだけ、ほんのちょっとだけどきっとしたもんだからそのドキドキを悟られないようにいたって平静を装ってさわやかに挨拶をすることにした。

「よ、元気か」

「………ご、ごめんね、零一………ごめん、ごめんね………私が刺したの」

 佳奈はそう言ってその場に座り込んで泣き始めてしまったのだ。

「おい、自白し始めたぞ」

 満のほうを見てそう言ったのだが、予想はしてましたみたいな顔をして言うのだった。

「ああ、言い忘れてたけど事件後に彼女が自首してきたんだけどどうも、言ってることがめちゃくちゃで………話によると事件前に君とけんかしてたからちょっとまぁ、精神的に病んでるんじゃないかな。その点では佳奈ちゃんが一番犯人から遠いかも」

 いまだに俺に謝っている佳奈を見ていて慰めたほうがいいと結論付ける。

「まぁ、俺は死んでないから気にするなって言ったらおかしいか………ちょっと話を聞いてほしい」

「話………って何」

「事件があったとき、どこにいたのかな」

 満がそういう。しかし、佳奈は取り乱しているようで叫ぶように言った。

「だから、私が零一を刺したのっ」

「動機とか、あるだろ」

「刺したかったから刺したのよっ」

 やれやれ、これじゃ話にならないな。満に顔を向けてみるも、首をすくめられる。

「ともかくさ、この零一はあの零一じゃないから気にしないでいいって」

「あの零一ってどの零一だ」

「死んじゃった零一のほうだよ。ま、でも今日は帰ったほうがいいかもね」

「そうだなぁ………」

 いまだに泣きやまずに謝っている佳奈を見てどうすることもできないと判断。下手に触れたら何が起こるか想像もつかない。

 玄関へと向かう俺たちに佳奈はついてきた。

「ご、ごめんね。落ち着いたら電話するから」

「いいって。だけどよ、あんまり家に閉じこもるのもいけないと思うぜ。たまには日の光を浴びろよ。結構可愛くなってんだからよ」

「…………」

 冗談で言ったつもりだったのだがすごく無表情でじっと見られた。

「ん、どうかしたのか」

「ううん、何も。じゃあね」

 玄関は音を立てて閉められ、俺と満は外にいた。

「何だか、怖かったな」

「そうだねぇ、すごく無表情になってたね」

 二人してさっさと車に乗り込んで逃げるように佳奈の家を後にした。

「で、これからどうするんだい」

「そりゃ、全員に話を聞きに行くのが常道だろ。次は笹川当たりが妥当だろうな」

「妥当って………ま、わかったよ。家がわからないから道案内は任せるよ」

「おう、任せとけ」

 こうして、佳奈の家から笹川の家へと向かうことにしたのだった。



――――――――



 笹川の家には本当に久しぶりにやってきたのだが数匹の猫が走っていってしまった。

「そういえば、真先輩っているのか」

「いや、どうだろうね。海外に行くってメールが来たんだ。それからは連絡してもつながらなくてね」

 真先輩に話を聞けたらよかったのだろうが、とりあえず今は笹川だ。チャイムを押して数秒、声が聞こえてきた。

『はい………』

 なんとなーく、暗い声だったが笹川のものだということがわかった。

「れ………」

「吉田満なんだけど、覚えてるかな」

 おいおい、なんで俺に名前を言わせないんだよっと睨むとさっきみたいになったらどうするんだいという視線が返ってきた。

「あのさ、ちょっと話を聞きたいんだけどいいかな」

『ごめん、これからお墓参りに行かないといけないから』

「あ、そうなんだ。よければ送っていくけど」

「笹川、墓参りって誰のだ」

『…………あなた、誰』

 そんな冷たい声が返ってきてちょっとショックだったのだが満は諦めたようにため息をついた。

「雨乃零一だぷー」

『零一は………わたしが殺したわ』

 俺の一切のボケが通用していないことにああ、やっぱりここは俺の住んでいる世界じゃないんだなぁと再認識されつつも、真面目に満に言うのだった。

「おい、犯人が二人に増えたぜ」

「厄介なところは容疑者全員が被害者、零一を刺したってところなんだよ。それで、全員滅茶苦茶なことを言うから捜査が変に難航してるってわけさ」

 そういって満はため息をついていた。

「笹川、で、誰の墓参りに行くって言うんだよ」

 静かに扉が開いて笹川と思われる人物が出てきた。喪服の女性で、一瞬………誰だ、このきれいな姉ちゃんは………と思ってしまった。

「お前、本当に笹川か」

 暗がりながらも街灯のおかげで確認することが出来る。

「そうよ、それがどうかしたの」

「はぁ、こんなにきれいになるんだな…いや、高校生の時からその、なんだ、きれいだとは思ってたんだけどなぁ」

 そういうと白い頬を朱に染めてそっぽを向いた。

「…………一応、お礼は言っておくわ、ありがとう、雨乃」

 そして、若干素直になっていようとはなぁ。言ってる俺も恥ずかしいぜ。

「これから零一のお墓に参りに行くのよ」

「へぇ、俺の…………って、マジか」

「本当よ。吉田君、連れてって」

「わかった」

 こうして、俺は生きているうちに自分の墓を参りに行くことになったのだった。いや、本当なんでこんなことが起こってるんだろうな。



―――――――――



 行ったことのない山の麓。その場所から歩いて数分の場所に霊園があった。既にあたりは真っ暗になっており、肝試しにでも来たような感じだ。こんな時間に墓参りする変な奴はおらず、霊園の貸し切り状態だった。

「いやぁ、僕は初めて君の墓に参ることになるよ。さっさと成仏してくれよ」

 そういって俺に手を合せやがった。

「お前ひどい奴だな~、親友だと思ってたのに」

「いやいや、君が死んでるって信じたくなかったからだよ」

「本当かよ~」

 いまだに自分が死んでいるなんて(俺は、死んではいない)信じられないし、制服姿とスーツ、喪服はまぁ、いいんじゃないかと思える。

 俺の墓はきれいなもので一体誰が建ててくれたのかと聞いてみるも誰も知らなかった。

「君にしてはもったいない墓だ。学校の屋上からばらまいてあげようと思ってたのに」

「よくいうぜ。でも散骨でもよかったかな」

「わたしは零一が死んだら墓参りしなきゃいけないからお墓、出来て嬉しかったわ」

 そんなことを言いながら墓の掃除を終えて手を合わせる。

「…………」

 本当に、本当に変な気分だ。何だろう、俺にとってこの墓は嘘の塊のようなものに思えて仕方がない。死者と生者、過去と未来、白と黒とか男と女………いろいろと交わってないばしょなんだよ、人間ってさ。言ってて意味がわからないのはいつものことで、俺は他の二人より先に自分の墓から目をそらした。

「さ、帰るか」

「ちょっとだけ、零一と話をさせて」

 そういって栞はほほ笑んでいた。一体、何の話だろうか。

「何だ、じゃあ満、お前は先に車に行っててくれ」

「えーなんだよそれ~」

「違うわよ、こっちの零一。雨乃は行ってていいわ」

 そういって俺に手を振った。

「はい、仲間入りだねぇ」

「嬉しそうに言うなっての」

 ともかく、故人と話したいというのならそれはそれでいい。しかしまぁ、物言わぬ石に話して何か変わるものかね。



「……………」



「あれ、今そこの木の陰に誰かいなかったか。

「はぁ、ちょっと霊園でそんな冗談はやめてくれよ」

 気のせい………だったんだろうか。いや、しかし、一人の男の影が………



――――――――



 結局、笹川の口からは『私が刺した』という情報以外得られなかった。これ以上話をしていても無駄かと思えた俺たちは笹川を自宅前に下して一旦帰ることにしたのだった。

「じゃ、何か話す気になったら電話してくれよ」

「うふふ、だからわたしが刺したのよ」

 いまいち信じられないのだが満は首をすくめるだけで月に向かってアクセルを踏んだ。

「で、だ、二人に会ったのはよかったけど何かわかったかい」

「わからねぇな。両方刺したって言ってるしよ」

「そうだよねぇ。ま、ともかく今日は僕の家に泊まりなよ」

「悪いな」

「いやいや、夜中あっちの零一に化けて出られても困るからさ」

「なんだそりゃ」

 割り当てられた部屋はなんと、仏壇がある部屋であいつは何を考えているんだと思った。まぁ、泊まらせてる側なんで文句はいえんがな。


笹川栞のご登場。これで登場したのは二人目ですね。みなさんも知っていますが、零一に残されている時間は一週間です。結果として、一週間後に警察に保護されるという運命ですね。まぁ、何事もなく一週間後には帰れるということです。そして、その中で捜査をし、やりたいことは全部やっておかないと早々未来なんていけないでしょ。いや、みなさんだって未来に行く方法はありますよ。ええ、寝ればいいんです。寝ている間に時間が経って未来になっているんですから。これって考えようによっては一種のタイムマシンですよ。七月三十日金曜、八時六分雨月。

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