第二百二十六話◆:未来の過去に起こった雨乃零一殺人事件 Ⅰ
今回の話以降、随所に若干暗めの表現があるかもしれませんのでそういったものを敬遠される方は一塁見送りをお願いします。
第二百二十六話
「よかった………本当によかった」
「で、君は全く記憶がないんだね」
「え、ええ、一体何が起こったのか………」
春休みになってから一週間後、俺は警察官に保護された。理由はさっぱりわからなかったがどうやら行方不明になっていたそうである。保護者としてやってきていたのは風花で、俺を抱きしめて泣いていた。
泣きたいのは俺だったりするのだが、言っても誰も信じてくれない俺だけに起った説明するには難しい現象だったりする。
―――――――
明日から春休み、今日で一年生は終わりである。留年なんてやるもんじゃないな。無駄に一年間過ごしたとは言わないが、勉学的に言えばもったいない事をやってしまったということである。
「じゃ、行ってくるわ」
「いってらっしゃいませ」
最近の風景と言えばこれ。俺は風花に挨拶をしてアパートを出て扉を閉める。バタンと言う音が聞こえて視界が暗転したかと思うと俺の目の前にはきれいに整備されたコンクリートの駐車場があったのだ。
「おろ」
俺の記憶によると砂利の敷かれた簡素な駐車場がそこにあるだけでコンクリなんてなかったはずだ。風花に聞いてみようとして後ろを見るとさらに驚く羽目になった。
「え」
信じられない、先ほどまでいた場所が一切なくなっていた。そこにあったのは出来たばかりの駐車場。
「は、え、何だこれ」
説明しがたい状況に陥り、俺の脳内は混乱していた。ただ、近くには花束が置かれており、此処で何があったのか察することが出来た。
ともかく、此処にいてもいい事は起こりそうになかったので学校へと向かうことにした。一体、何が起こっているのだろうか。
―――――――
学校へとついて自分の下駄箱を見る。だが、そこには既に別の靴が収まっていた。
「へ」
不思議に思いつつ、そいつの靴をどかそうか、どうしようかと考えている途中で後ろからどこかで聞いたような声がしてきた。
「え………れ、零一か」
「お、満じゃねぇか。なんだ、スーツなんか着てよ」
そこにいたのはちょいと老けた(大人びた)感じのする満だった。実に不思議そうな眼で………いや、変なものを見る目で俺を見ている。
「お前、俺を珍獣か何かを見るような目でみるんじゃねぇよ。それよりなんでスーツなんだよ。二年生はスーツを着て登校して来いって言われてんのか」
「えっと、君は本当に零一か」
「何わけのわかんねぇ事言ってんだ。俺が零一以外何だって言うんだよ」
ははぁ、さては剣に殴られまくっておかしくなっちまったか。かわいそうに、四月から受験生なのになぁ。
満は近づいてきて俺の肩をつかんだ。
「ちょっと、来てくれ」
「は、なんだよ。HRと書いてホームルームと読む、朝の恒例行事が始まるだろ」
「いいからっ、来てくれ」
そういって俺は腕を掴まれて職員室へと連れて行かれてしまった。一体、何なんだよ。
職員室に入った満を他の先生たち(知らない教師だらけである)は挨拶していた。
「おはようございます、吉田先生」
「おはようございます」
「吉田先生、そっちの生徒は」
「ああ、ちょっと用事があるようで連れてきたんです。腕つかまれて話があるって」
いや、お前が俺の腕を掴んでるぞ。誰が見てもお前が用事あるから連れてきたんだろうってわかるだろ。
「大変ですね、教育実習生も」
「ええ、まぁ」
そういって職員室を通過した。その先にあるのは教職員準備室。名ばかりで、私物などが置かれている場所だ。え、なんでこんなことを知っているのかって調べたからだ。
「で、こんなところに連れてきて何の用だよ。というか、教育実習生ってなんだ。お前、先生にでもなるつもりか」
「えっと………あった」
俺の話など聞いていないようで、とある新聞を見つけてきた。
「これ、読んでよ」
「ああ………えっと、『小説家、雨月(仮名)さんが自転車走行中警察官に職務質問されたのち、補導される』。それがどうかしたのか」
「違う、こっちだよ」
指差した先にあった記事を俺は読み始める。
「…………『三月二十八日、羽津高校三年生の雨乃零一さん(18)が何者かに刺されて死んでいるのが発見された。八か所刺されており…………』…………はぁっ、何だこれ。おい、いたずらにしちゃ手の込んだ………」
日付を見て驚いた。俺からすると来年の今日だ。
「君が死んでから五年、経ってる。君、一体ぜんたい何者なんだい」
そう言われて俺は首をかしげた。え、俺って何者なんだろうか。
書いてて思いました、ああ、この話は絶対に長くなるぞと。これ、一週間内で犯人までいけるんですかねぇ。すごく不安なのですが逃げれないように投稿しました。まさに背水の陣で挑む覚悟です。いや、本当誰が犯人なのか………って、わかっちゃいそうですけどね。経過を楽しむということでここは一つ、寛大な処置をお願いします。では、また次回。打ち切らないように頑張ります。七月二十八日水曜、二十二時十八分雨月。