第二百二十四話◆:人を見捨てる勇気と、やさしさ
第二百二十四話
授業日数も残り少なくなってきたある日の放課後、澤田と剣の二人で帰路についていた。
「澤田は部活とか入ってないんだな」
「勉強中心ですから」
俺の知り合いで部活に入っている者はかなり少なかったりする。佳奈は弓道部だったかな、そして満は告白部。卒業してしまった真先輩は廃部。笹川は図書委員会だから部活じゃねぇな。朱莉は個人的な仕事にいそしんでいるし、ニアは修行が忙しいそうだ。みんな何かしら忙しいのだろう。
「剣も入ってないよな」
「部活に入ること自体は構わないのですが縛られてしまいますからね」
「そうなのか」
あらら、一匹狼気質でもこの子はあるのかねぇ。
「そういう零一先輩も入ってませんよね」
「ああ、俺が運動しているところなんて自分でも想像できないし部活は興味ねぇな。いろいろと放課後は巻き込まれるから退屈しないし」
不良とか、猫探しとか。
「もし、俺が部活に入っていたら澤田とは会ってないだろうな」
「そうなのですか」
「ああ、朱莉っているだろ。あいつと一緒にちょっといろいろとやって………」
「零一先輩が病室にいきなり入ってきたんです」
剣が首をかしげている。そりゃそうだろうな、これだけではさっぱり判るまい。これで分かったらどれほど空気を読める子なのだろうか。というか、剣は空気を読めない自分ロードを突き進む唯我独尊なところがありそうだし。
「は」
「やっぱり説明不足だな。まぁ、俺が適任と考えられ、澤田のいる病室に行ったんだよ。友達がいないとかって聞いてたからな」
「一先輩は夏樹の友達になるためにわざわざ行ったのですか」
「そうなるな」
「会ったこともないのに………」
「そうだな、今ではなんでそんなことをしたのかよく理解できんが、まぁ、悪い子じゃないって言うのは親御さんたちから聞いていたから」
「それはしりませんでした」
澤田はそう言って俺の右手を掴んだ。
「お、どうかしたのか」
「友達になったんだから手ぐらいつなぎますよ」
「そうなのか」
「小学生の頃とかそうじゃなかったですか」
「ん~、どうだったかな。俺、友達少なかったから」
「これからもずっと友達ですよ」
「そっか、ありがとな」
「はい」
にこっと笑う澤田は可愛いもので、ああ、この子と友達になれてよかったと思えたりする。そんな時、左手にも温かい何かが触れていた。
「…………安心してください、一先輩。わたしもずっと友達ですから」
「あ、ありがとな」
「夏樹の時のようにやさしさがこもってない気がします」
「ははは、気のせい気のせい」
若干、握力が強いというか、なんというか………ともかく、剣の友達になれたこともよかった、そう思うことにしようじゃないか。
「そういえば、剣と会った時は俺、テスト間に合わなかったんだよな~」
「え、そうなのですか」
隣で驚いている澤田と剣。
「そうだそうだ。剣が道で倒れてそれを病院まで送っただろ」
「え、ええ。ちゃんと覚えていますよ」
「そっか、あの時助けなかったら俺、ちゃんと進級してたかも。いや~、今ではいい思い出だな」
そう思っていたらかなり近くで剣が怒っているようだった。
「よくないことですっ。私のせいで留年してしまったということが事実ならばあの時どうして見捨てなかったのですかっ」
「いや、だって見捨てて留年してたらそれこそ後悔するだろ。ああ、あの時助けていれば竜宮城に連れて行ってくれていたのかもしれないと」
「私は亀ではありませんっ」
「澤田、お前だって人が倒れていたら見捨てるなんて選択出来ないだろ」
この質問に対してこっくりと澤田はうなずいた。
「そうです、吉田先輩だって人が倒れていて見捨てることなんて出来ないでしょう」
「そ、それは………」
「ま、ともかく人を見捨てる人間なんて俺の友達にはいないわな」
そんな時、曲がり角を曲がってきた人物がこけて、書類をばらまいた。そして、その後ろから満が………
「さ、急がないと」
「…………」
そういって去って行った。
「あれ、あの人確か零一先輩の友達で、吉田先輩のお兄さんでしたよね」
「いや、あいつは友達じゃないよ」
「あんなの、兄貴じゃありません」
まぁ、後にぼろぼろになっていた満に聞くと、どうしてもはずせない用事があったために人を助けることが出来なかったそうだ。
何気にライバル関係にあるヒロインたち。佳奈=朱莉、夏樹=剣、ニア=栞………と、忘れていましたが竜斗=風花となっています。最近、竜斗が出すに出せない状態なので若干忘れ気味になりそうですが次回、登場予定です。ニアと栞の絡みはなさそうですが、意外と校舎裏で戦っています。この二人の戦いを本編とくっつけてしまうと戦う話に転がっていきそうなので書かないだけです。剛と柔、彼女たちの戦いに終止符が打たれる日はやってくるのでしょうか…。佳奈は最近風花にも目をつけていますがさて、零一の運命やいかに。七月二十七日、火曜、二十三時十四分雨月。