第二百二十一話◆:家族風呂
第二百二十一話
佳奈がどこかに行ってしまったので俺はお風呂に入りに行くことにした。
しかし、大浴場がどこにあるのかさっぱりわからないので旅館の人を探すことになる。もちろん、先ほどの女将さんを見つけることが出来ればベストであろう………二月だし、身体はとっくの昔に冷え切っている。
探しているとあっさりと女将さんは見つかった………まぁ、俺らが最初にあった場所にいたわけだが。
そしてそこに、佳奈も一緒にいたりする。
「あれ、なんで佳奈がいるんだよ。お前、観光しにいったんじゃないのか」
佳奈が何かを言おうとしたその前に女将さんが口を開く。
「実はですね、ひとつ言い忘れていたことがありましたので佳奈さんに待っていただいたのです。いずれ、零一さんもここに来るだろうと佳奈さんが言ってましたから」
何やら佳奈は女将さんのほうを見ているようだが無視されている。
「実は鈴音ちゃんからは家族風呂を用意しておいてほしいといわれていましたし、この旅館は家族風呂しかありません」
「え、そうなんですか」
「ええ、そうです。使用できる時間も決まっておりますが、その分、ご家族の方と親密な時間を作ることが出来るでしょう………ささ、お二人ともこちらへどうぞ」
女将さんが断れないようなオーラを出して俺たち二人を先導するのであった。
―――――――
「ここでございます、ではごゆっくりと」
そういって姿を消してしまった女将さん。俺の隣には佳奈がいて、俺と同じく何がおこったのかわからないといったような表情だった。
「ま、まぁ、時間が決まってるなら仕方ない、入るか」
「え、ええ………」
まぁ、家族専用だからか脱衣所が同じ場所である。さっさと脱ぎ棄てようとしていたら佳奈が叩いていた。
「痛いな、何するんだよ」
「何するんだじゃないわよっ。あんた、何脱ごうとしてるのよっ」
「だって、脱衣所は服を脱ぐところだろ」
後は蝉が脱皮するところだろうか。
「中途半端な格好でいさせるなよ、俺、寒いからさっさと入りたいんだ」
「私だって寒いわよ………あっち向いてるから急いで脱いで、湯船につかっててよ」
「ああ、そうするわ」
佳奈が向こう側へ顔を動かしたときに衣類をあっという間に脱ぐ。こういうのは鍛えれば鍛えるほど時間短縮になってタイムアタックが楽しくなる………わけでもない。
「あ、佳奈、石鹸ってどこにあるか知ってるか」
「はい、これをさっき渡された………」
こっちを向いた佳奈の顔が真っ赤に染まっていった。
「あ、悪い」
タオルを腰に巻くのを忘れていた。
――――――――
佳奈はしっかりとタオルを巻きつけて髪を洗っている。俺は頬に手形を残しながら湯船につかっている。
まぁ、女将さんが言った通り、貸し切り状態なので俺と佳奈以外に客はいない。俺から少し離れた場所に佳奈も腰を下ろす。
「いい湯ね」
「そうだな~、生き返るよな」
こうやって何もかもをゆっくりするのもたまにはいいのかもしれない。
「じゃ、俺そろそろあがるわ」
「え、まだあまり時間が経ってないわよ」
「あんまり長い間入っていると頭がぼーっとなるからな」
「いいじゃない、中途半端な時間で出ると湯冷めするわよ」
立ちあがった俺に佳奈も追い付いてくる………が、滑ったようで体のバランスがゆがんだ。そのせいで手を当てて押さえていたタオルがずり落ちそうになる。
あ、危ないっ。
俺は何故だかそう思ってそのタオルを抑えてやった。
「佳奈、危なくぽろりといきそうだったな」
そんな俺の気配りに佳奈は顔を真っ赤にして叫ぶのだった。
「な、何触ってるのよっ」
俺は再び手元を見た。
「まずは………そうだな、冷静になろうぜ」
「なれるわけないでしょっ」
的確な突っ込み………俺はちゃんと佳奈が冷静だということを把握できた。
もし、夏が暑くなかったのならそれは夏ではありません。夏は暑い、暑いと苦しみながら過ごすのが楽しい過ごし方です。熱中症にかかりそうになりながらも部屋にこもってどこまで我慢が出来るか………あとで友達に自慢するのも楽しいのですが、意識がもうろうとしたときは危なかったな、そう思えます。さて、前作を読んでくれた方は知っていると思いますが小説でありながらマルチエンディングを採用しているこのシリーズ、要望あればどんなエンディングでも書こうと頑張りをみせたいと思います。もちろん、がんばりが続くかどうかはわかりません。アマチュア小説家が打ち切りをする理由の大半が飽きたからとかそんなものだと思っています。ええ、たまに飽きますよ~、前作も卒業式まで話があったんですけど急に新作が書きたくなったのでそっちを優先したら終わってしまったという経緯があります。まぁ、前作はあれはあれでよかったとたぶん、思ってます。曖昧なのは意識がもうろうとしているからかもしれません。熱中症対策、しっかりしましょうね。七月二十三日金曜、二十二時四十六分雨月。




