第二百二十話◆:家族旅行
第二百二十話
二月もそろそろ終わりだなーというときに俺は雨乃家からとある招待を受けた。まぁ、要は家族旅行へのお誘いで、ちょっと勉強に疲れていた(風花が許してくれたのが意外だ)ので一緒に行くことになったのだが仕事の忙しい達郎さんたちは急きょいけなくなった。
「………」
旅の道づれとなるのはただ一人、達郎さんと鈴音さんの愛娘である佳奈だ。風花も付いてくるかとてっきり思っていたのだがどうも他に用事があるようで実に未練がましく首を振っていたのを覚えている。
電車内で話しかけても全く反応を示さない………というか、かなり俺を睨んでいる。
「おい、何を怒ってるんだよ」
「別に怒ってなんかいないわよ」
そういう奴は全員怒っているのが常だ。まぁ、こういう時こそとげとげを抜いてあげなくてはいけない。
「おいおい、そんなに怒っていたら楽しい旅行も台無しだぞ」
「あんたが来た時点で台無しよ」
「………」
大丈夫大丈夫、怒ってないよ。俺もね、心にゆとり教育を………え、あれって終わるのか。まぁ、あれのおかげで日本の教育が下がったなんだと言われていたからなぁ。きっと、ゆとり世代は後に就職で差別を受けるに違いない。
「ま、お前が達郎さんたちと来たかったってのはわかってるつもりだ」
そういうと佳奈はぎょろっと目を動かして俺を三度睨むのだった。
「あんた、なーんにもわかっちゃいないわ」
「何がわかってないんだよ」
「そういうところがわかってないって言ってるのよっ」
ぴしゃりと言い放たれて俺はちょっと驚いた。
「見送りに来たあの風花ってやつに何が『一緒に来ないか』なのよっ。家族旅行でしょ、なんで家族じゃない奴を呼ぶのよっ」
「いや、だって一人でおいて行くのはちょっと気が引けるし………」
「東の家のお手伝いなんだからそっちに帰るでしょっ」
う、うーん、よくわからないのだが、風花を呼ぼうとしたことに問題があったらしい。
「ま、ま~、結局来たのは俺とお前なんだからいいじゃないか。二人で楽しもうぜ」
「………そうね」
二人で何をして楽しむのかはまったくもって考えていないのだが、俺は目先の事を考える人間だ。とりあえず、この御怒りをどのようないけにえをもってしても押さえなくてはいけないのである。
「ほら、見ろよ………そろそろ旅館に着くんじゃないのか」
ちょっとした看板が水田近くに立っていて、俺たちが向かう旅館の名前が刻まれていた。
「ほんとね」
佳奈もどうやらご機嫌を若干良くしたようで(まぁ、つつけば切れるだろうが)窓のほうをのぞいていた。そんな横顔を眺めながらふと思う。
「なぁ、お前ちょっと成長したか」
「え」
不思議そうな顔をした佳奈だったが、何故だか両手で胸を隠すようにしている。
「ど、どこを見て言ってるのよっ」
「いや、そっちは変わってねぇだろうけど………なんか、精神的に大人びたかなと思っただけだ」
「し、失礼ねっ。こっちも成長してるわよ」
というか、電車内でそんな変なことを言わないでよ、エッチ………と言われてしまった。いや、俺が言ったんじゃなくて勝手に勘違いした挙句の誤爆だろうに。
――――――――
「予約していた雨乃ですが………」
フロントで佳奈がそう告げるとおかみさんが出てきて俺たち二人を部屋まで案内してくれた。当然、一部屋だけである。
「夕食まではまだ時間がございますので温泉や観光をお楽しみください。では、ごゆっくりと」
おかみさんがふすまを閉めて出て行き、俺たちは文字通り二人きりとなった。
「さ~て、これからどうしようかな」
ちらりとこちらを見ながら佳奈がそういった。
「俺、風呂入ってくるわ」
「何よそれっ」
「だって、女将さんもいってたじゃんか」
何やら佳奈の意向に沿っていなかったようで怒る寸前である。
「普通は観光でしょっ」
「ん、そうなのか」
「そうなの、零一は………どうするのよ」
「だから、俺は風呂に入ってくる」
「もうっ、最悪っ」
それだけ言い残して佳奈は出て行ってしまった。やれやれ、あの年頃の娘は何を考えているのかさっぱりですな。
夏の暑さが異常だと思いつつ、冷房にあたりたい今日この頃。しかし、公共施設の冷房は強すぎです、あれは普通に寒いですからね。さて、佳奈と零一は家族旅行に行きましたが凹凸コンビではなく、凸凸コンビですのでなかなかかみ合わないですね。亀裂は広がるのか、それとも凹凸になるのか………次回、それが明らかになるのか、ならないのか、どうなのか………はっきりしないですがまぁ、気長にまってやってくださいな。感想、指摘、メッセージ、愚痴、その他何かありましたらお知らせください。ああ、それと評価に値するなと思われた方はどうぞ、ついでに評価もお願いします。七月二十一日水曜、二十三時十四分雨月。