第二百十八話◆:お見合い(A,Y)
前回までのあらすじ:赤ん坊を連れて零一は汽車に乗る。扉が閉まったところで、あの無口な少女が階段を駆け下りてきたところが眼に映った。しかし、すでに汽車は出発していた。何事かを叫びながら追いかけてくる少女の口を見ながら零一はつぶやいた。『お・っ・ぱ・っ・ぴー……』いや、それってそろそろ流行遅れだろうと思いつつ、実際のところは『ありがとう』だった。(終)
第二百十八話
日曜日、窓の外はよく晴れているが乾燥しているみたいで落ち葉が舞っている。部屋の中なので関係ないし、どこから仕入れてきたか知らないが『湿気吐きだし君』という機械が部屋の隅に置かれている為、いたっていい環境である。ベストな環境で風花と共に朝食を食べていると壁にかかっているスーツに目が行った。
「ああ、今日だったっけ」
「お見合いですね」
淡々と事実を述べるだけの口が開いた。
「どこでやるんだよ」
場所を聞かされていないのでこれぐらいは聞いていいだろうと思って尋ねると少しの間風花は何事かを考えるかのように黙ったが、俺の目をしっかりと見て言った。
「ホテルの一室を借りて行うようです」
「ホテルねぇ」
頭の中にはベットなどが並んでいるいたって普通の部屋が浮かんだのだが実際のところは違うのだろう。丸いテーブルがたくさん並んでいて立食を行うような………。
「零一様、勘違いしているように思いますが」
「え、そうなのか」
「わたくしが説明するよりもご自分の目で確認なされたほうがきっといいでしょう。食事を終えたらすぐさま会場となる場所へ案内いたします」
さて、見合い二人目となる人物は一体どこのだれかねぇ。
―――――――
連れていかれた場所は宣言通りホテルであり、俺のような一般市民が立ちいるような場所じゃない気がしてならなかった。
「なぁ、本当にこんなところに来てよかったのか、場所、間違えてるんじゃないんだろうな」
「大丈夫です」
ただそれだけ言って俺の後ろにつき従っていた。
「零一様、一度フロントに向かいましょう。案内していただけるはずですから」
「そ、そうだな。こんなところで迷ったら笑いの種だからな」
フロントのほうへ向かうと、相手が走って俺の前までやってきた。かなり緊張しているようで目が泳いでる。
「ははははは、はじめましてっ。このホテルをご利用いただき、ありがとうございます」
「え………あ~、すみません、雨乃零一って名前で………」
「どうぞ、こちらでございますっ」
がちがちに緊張しているようだが………。
「風花、なんであんなにおっかなびっくりしてるんだ」
「それは零一様がお客様ですから。東宗家の息子に失礼があったらこのようなホテルと言えどただでは済まないと上司から言われているのでしょう」
それもそうかもしれないなぁ。そんなに影響力が強いものなのかねぇ。ま、ともかく案内してくれるというのならおとなしくついて行ったほうがいいだろう。
俺は緊張しているボーイさんの後をついていき、三分後にはとある会場についていた。
「ここでございます」
扉まで開けてもらい、俺は礼を言ってから中に入った。
中には大きくて長いテーブルが置いてあり、既に片方には客が座っていた。
「…………零一君」
「え、誰」
赤い胸元の開いたドレス(い、いい谷間だ)を纏い、目は丸く笑うとかわいいのだろうな。髪は背中に流していた。
こんな可愛い知り合い、俺の友達でいましたっけ………。
「失礼ですね、零一君。ほら、あたしですよ、あたし」
どこからか取りだした丸い眼鏡を装着するとこの前警察に御厄介になっていた女の子だということが発覚した。
「朱莉、俺のドキドキを返してくれ」
「安心してください、ちゃんと三倍返しで返してあげますから」
「三倍がっかりで返すつもりじゃないだろうな」
お互いに軽くジャブを交換したのち、俺は椅子に腰かけた。なるほど、隣に座っている男性は確かに以前見たことのある朱莉の父親だった。
「改めて自己紹介をしよう。湯野花勇気だ。君のおかげでA.S.Tの諜報部員になることが出来たよ」
「はぁ、そうですか………って、A.S.T………」
東スペシャルチーム………そういったところでも給料制度なのだろうか。まぁ、そんなことはどうでもいい。
「君が東のトップになったら間違いなくうちの娘はA.S.Tの一人になるだろうね」
「ははは、そうですか」
「零一君は高校を卒業したら進路どうするか決めているんですか」
「そうだなぁ、俺まだ高校二年生にもなってねぇから決めてないなぁ」
いつもと対して変わらない話を数分間していると風花と勇気さんが席を立った。
「じゃ、後は若い者同士任せるかな」
「………」
「………はぁ」
これって恒例なんだろうか。
雨、すごいですねぇ。あ、それとみてみんのほうに『剣』のりりしい絵がありますよ。いやぁ、あれはなかなか格好良かったです。ぜひ、一度見てくださいね。では、また次回。七月十六日金曜、十四時二分雨月。