第二百十六話◆:以前はお世話になっていた警察
前回までのあらすじ:雨音に家出少女だったならばおとなしく家に帰れと宣言した零一。雨音は泣きながら家を後にするのだった。彼女が零一の住居にやってきたように雨は降り始めており、ちょっときつく言いすぎたかと思っていると赤ん坊が目の前を二足歩行で歩いてきた。あいつ、忘れ物してるじゃねかとつぶやくも、おむつからはカカオっぽい色と得も言えぬかほりが漂ってくる。
第二百十六話
まさか見合いなんてものをすることになるなんて思っていなかったのだが、あれから笹川はいつもと何一つとして変わっていなかった。相手が接し方を変えていないので俺だけが変えるとおかしいだろうと思い、いつものように殴られる日々……まぁ、クラスが違う(既に学年が違う)のでそうしょっちゅう殴られるわけじゃあない。
笹川に見合いについて詳しく聞いたところ、どうも俺の両親が首を突っ込んでいるようで面倒なことはいちいちさせるんじゃねぇと殴りこみに行きたいのだが、そんな勇気があるわけでもないので結局は泣き寝入りである。風花に尋ねてみたところ見合いと言っても実際に結婚するわけではないようなので何故だかほっとしたのだがお見合い自体がこれで終わるとは考えにくかった。
そして、最近の日課となりつつある風花との夜のお勉強も(満が勘違いして目が血走っていたのだが気持ち悪かった)はかどっているのでなんら問題が起こるとは考えにくかったのだが生きていれば問題が山積みなのが人生のようで、新たな問題が浮上してくるのである。
――――――
住宅街を抜けたところにスーパーがあり、そこの角を曲がったところには交番がある。そこのスーパーに強盗が入る確率は非常に低いだろうと言われており、実際、そこにいるのはかなりごつい警官が二人確認できるのでここを襲う強盗は命知らずだと言っていいだろうな。
その近くを寒空、ってか、二月って一番寒い月なんじゃないかってたまに思うんだわ。マフラーをしっかり巻いて通ったある日、俺は知り合いがそこで頭を下げていたのを確認したのである。
「………ありゃ朱莉じゃねえか………」
俺と同じで追跡癖があるが、世の男子はこれほどかわいい子がストーカーならぜひとも追跡されたたいなどと言ったりするので理解不能である。そんな朱莉は再び頭を下げるのだった。
「どうも、すみません。今度からは警察に気がつかれないようスキルをあげますから」
「君ねぇ、そうじゃなくて反省して心を入れ替えてほしんだけど………住居に侵入しようとするなんて初めてじゃないか」
「いえ、どうしても知りたいことがあったというかなんというか………」
何やらもめているようで、好奇心で近づいていくと朱莉に気づかれてしまった。
「あ、友達が来たんで一緒に帰ってもいいですか」
「いいわけないだろ、君は何を考えているんだ」
「ええっ、じゃああたしが侵入したアパートの一応住居人ですんで、許してもらったらいいですか」
俺に来るようにジェスチャーをされたのでしぶしぶ交番の中へと入る。
「君、雨乃零一君かな」
「ええ、そうですけど………」
「君の住んでいるアパートにこの子がベランダ側から侵入しようとしていたところを通報されたんだ」
その後、何故だから俺が起こられる羽目になった。最近の人はしっかりと鍵をチェックしているはずだとか、隙をついて何かをしようなどとおもったりしないことだとか、平和すぎて逆につまらないなどなど………平和なことはいい事のはずなのにこの警官、何を考えているのだろうか。
「ともかく、今後はこういった迷惑が起こらないように君がしっかりと監視しておいてくれたまえよ」
「はい、すみません…」
まったく、悪いのは俺じゃないだろっ。突っ込みたい気持ちを抑えて仕方なく、朱莉を連れて交番を後にした。
「いやぁ、面倒でしたねぇ」
「お前なぁ………俺の部屋に侵入しようとしていたのかよ」
「ええ、まぁ………」
頬を掻きながら恥ずかしそうにそういう。
「乙女の恥じらいで許してくれませんか」
「許すわけないだろ」
「じゃあ、一緒に寝ますか」
「朱莉と寝たら夢の中で追いかけられそうで怖いわ」
空を飛んできたり、壁をよじ登ってきたり、影からはい出てきたりと………夢の中ではきっとどっかの超人となっていることだろう。
「最近ちょっと腕が上がってたんで大丈夫だろうと周囲の状況確認を怠っていたらあっさりと御用になっちゃいました」
ちろっと舌を出して自分の頭を小突く。
「常に周りには気を配っておかないといけないだろ。外国だったら問答無用でハチの巣にされていたかもしれないぜ」
「零一君はそんなことしませんよねぇ」
「そりゃしないだろうな」
「ともかく、一応お礼は言っておきますよ、ありがとうございました」
「一応ってなんだよ………大体なんで俺の部屋に忍び込もうとしたんだよ」
「用事がありまして」
「用事ってなんだよ」
「乙女の秘密です」
恐るべきは乙女権限だろうか……人の部屋に勝手に入ろうとした理由を教えてくれないなどと許されるのだろうか。
「勝手に入ろうとした償いとして、キスぐらいならしてあげますよ」
「別にいい、わかった、次回からは入らないようにしてくれ」
「あ、もったいないことですよぉ。これを逃したら二度とチャンスはないかもしれませんけど本当にいいんですね」
「しなくていいって」
ちょっと惜しい、いや、かなり惜しいと思っているのは誰にも言えない秘密である。
「じゃ、俺こっちだから」
「今日はあたしもおとなしく帰ります」
「いつもおとなしくしてくれてるといいんだけどな………最近は本当、静かだったから忘れかけそうになったぜ」
「あ、ひどいですね」
いつものようにやり取りをした後、今度こそ別れた。緑のマフラーをして歩いていくその後ろ姿をぼーっと眺めていたら朱莉はこっちを振り返って投げキッスをしてきた。
受け取るべきか、受け取らざるべきか悩んでいたら今度は手を拳銃の形にして俺の心臓を打ちやがったのである。やれやれ、追跡技術は勝っている自信があるのだが正直、負けた気分になった。
ライオットアク○2を先日クリアーしました。いやぁ、ネットにつないでいる状態で他人の進行状況を………って、興味ないですね。さて、もはやメインヒロインじゃなくてこの人サブヒロインじゃないかなぁと思われがちの湯野花朱莉の登場です。いつか日の目を見ることもあるかもしれないので彼女には頑張ってもらいましょう。それではまた次回、もし、お会いできたらよしとしましょう。ああ、そして最後に小説家や話を作る人たちに必要なものはいきなり打ち切る能力だと最近思い始めました。七月十一日、日曜八時五十分雨月。




