第二百十四話◆:三つ編み、眼鏡、ブックマーク
前回までのあらすじ:もしも雨音が女スパイだったら怖いなぁと思いつつ、いつものように生活を続ける零一。実は赤ん坊のほうがスパイだったりしてと赤ん坊のほうへと視線を向けるとパソコンをいじっていた………おもちゃを画面にたたきつけ、遊んでいるのだ。ものの見事に画面は破壊されており、あわてて止めるも間に合っていない。破壊工作員だったのかと考えを改め直す零一だった。
第二百十四話
たまには気分でも変えてみようと、髪形を三つ編みにして出かけ始めたのはいつのころからだっただろうか。きっと、はたから見ても本が好きそうな感じに見えるのだろう………。
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日曜日、風花がちょっと出かけてしまったので自分で料理をするためにスーパーへ。住宅街を抜けたところにあり、意外と安い価格で食材を提供してくれているのだ。まぁ、問題があるとしたらタイムサービスになった瞬間、一方通行になる通路もあったりするのでおばちゃんたちが押し寄せてきて大変なことになったりすることだろうか。
ちょっとしたものしか買わなかったのでそんなに重いものを運んでいるわけではない。俺は歩いてアパートへと向かう途中、ガラの悪そうな連中に絡まれている女の子を見つけた。
どこかで見たことのあるような感じだったが、三つ編みで眼鏡だったからそんな知り合いはいないはずだ……眼鏡に三つ編みって本が好きそうなイメージあるから笹川に似ていると思ったのかもしれない。
きっと、以前の俺だったら見捨てていただろう………だって、勝てないから。足は速いので追いかけられても逃げ切る自信はあるのだが腕力のほうはからっきし駄目だ。しかし、身代わりになることぐらいは出来るだろう。もし、やられたとしてもスーパーの袋の中に財布をいれて隠しておいておけば大丈夫だ。
しっかりと準備をした俺は勇んで飛び出した。
「お前ら、女の子に集団で襲いかかるなんて恥ずかしくないのかよっ」
俺をここまで変えたのは誰なんだろうなぁ。俺の事を二回助けてくれた男子生徒のおかげが、乱暴だけどまっすぐな俺の友人か………あるいは両方、そしてどちらとも違うのか、わからない。
「ああん、お前とは誰も話してねぇよ」
素直に怖いと思える人はまだいい、無駄に虚勢張るとどうなるか俺は知っている………ぼこぼこにされてぽいっだ。
なおも伸ばされる手を俺はしっかりと握って足を蹴ってやった。
「やめろって言ってるだろ」
「しつけぇ野郎だなっ」
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「………窮地に誰かが助けてくれたりするのは巻き込まれた時だけ……なのかねぇ」
まぁ、ね。いきなり強くなるとかそういったご都合主義じゃないのはわかっていたけどさ、負けてもないんだぜ。
「へへっ、あんたいいパンチしてるじゃねぇか。だけどな、俺の友人はもっといいパンチを………ぐぼっ」
「はぁ、はぁ、どうだ、お前もう気持ち悪いからそこで寝てろっての」
「もっとだよ………もっと、もっとこいよっ」
「こいつ気持ち悪っ」
そんな感じで相手が逃げて行ったのだから俺の勝ちと言えなくもないんじゃないのかなぁ。
顔が変形しちまっているんじゃないかと思ってカーブミラーで確認するも、思ったよりも外傷はそうひどいものではなかった。そして、ミラーにもう一つ影があった。
「ん」
「あっ………」
先ほどの三つ編みの女の子のようだった。すぐさま顔を下に向けた為、ちゃんと確認できないのだが眼鏡をかけているようでなかなかの美人のようだった。しかし、どこかで会ったような気がしてならない。
「なぁ、どこかで会ったことあるか」
「………い、いや、な、ないと思うわ」
「そっか、ならよかったけどあんたは何ともないのか、けがとかは………」
「してないから」
「そりゃよかった………じゃあな、俺帰るから」
「あの、なんで助けてくれたの」
変なことを聞くやつだなぁと思いつつ、俺は言った。
「俺の友人に一人、本が好きそうな奴がいてね。あんたがそいつに見えたんだわ………ま、俺の友人は俺の手助けなんて必要ないから助けたことなんて一回もないんだけどな………っと、電話が入ったんでまたな」
「あ、う、うん」
最後にチラッとだけみたのだがその子は非常にかわいい顔をしていた。ううん、まぁ、この子の身代りになれたのならそれだけでもよかったのかもしれない。
「もしもし」
『零一様、どうやら暴力をふるわれたようで………安心してください、先ほど零一様に暴力をふるわれた方はそれ相応の罰を受けましたから』
相手は風花でそういったとってもバイオレンスな内容を教えてくれたのだった。もしかしたら、というか………きっと笹川は俺がぼろぼろにされたって聞いたら報復してくれるんだろうな。
身をぶるっと震わせて俺は家に帰ることにした……まぁ、帰り道にばったり笹川に会うことなんてないだろうが、念のため、だ。
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風花がどこかに行っていたのは俺の勉強のために役立ちそうな本を探しに行っていたそうで、恐ろしい数とは言わないまでも、机の上に山が出来るほどの書籍を持ってきた。それを買ってきたのかはわからない……なぜなら、シミがついているものもあったからだ。
風花との勉強は苛烈を極めた………なんて言ってみるが、実際は普通に勉強して定刻になったら終了、おやすみなさーいといったところである。
まぁ、これからこの程度の勉強ならば俺もあっさりと飛び級することが出来るかもしれないなと家庭教師の風花に期待を寄せるのであった。
―――――――
「うらやましいねぇ、僕も教えてほしいものだよ」
「満はいらないだろ」
「そうかなぁ」
しみじみとした様子で屋上から見える青い空を満は眺めている。そろそろ三年生も卒業するんだなと言うムードが学校を漂わせているのだが今年卒業となる真先輩はいつもと変わらない様子で長話をしていたりするので感傷にふけるにはまだ早いようだ。
「あ、そういえばな………この前三つ編みで眼鏡の可愛い子がいたんだぜ」
「え、嘘っ。三つ編み眼鏡は予想外だったよ」
「ちらっとしか見てなくて男たちに絡まれたところを俺が助けたんだぜ」
「ははぁ、無茶をしたんだね、だからそんなにぼろぼろなのか………ぷっ」
満に笑われるがまぁ、仕方ない。ぼろぼろの体を見て俺の知り合いたちは笑うか、苦笑するかのどちらかだった。剣は俺を見ると今後はそのようなことがないように身体を鍛えたほうがいいでしょうと言ってくれたりもした。
「そういえばさ、笹川が最近俺にやさしい気がするんだ」
「そりゃあ気のせいだよ」
いつもだったら殴られるようなことを言ったとしても殴ってこないのだ。
「何か悪いものでも拾い食いしちゃったんじゃないかと思うと怖くてなぁ」
「いや、拾って喰わないでしょ」
「ともかく………」
続きを言おうとしたところでケータイに連絡が入った。風花からで、『今度の日曜日は近くの料亭に行きますよ』そういったものだった。
「………ともかく、笹川にそれとなーく聞いておいてくれ。知らないってだけじゃ気持ちが悪いからな」
「了解、しっかりと聞いておくよ」
満が変にやる気を出しているというのも怖いものだが………ここは信じて待つしかないだろう。真先輩にこう言った願い事を託すと湾曲して笹川に伝わってしまう可能性が無きにしも非ずだからだ。
俺はこの時、まだ笹川の変化についてみているだけ、満の報告待ちでいいと思っていたのだがその考えは実にゆっくりしていたものだったと後で思い知らされることになる。
思い知ったのは満の『なんだか今度お見合いするんだってよっ』という言葉を聞いたのち、日曜日の事だった。
そういえば、小説のパクリ疑惑があったそうですねぇ。いや、アイディア盗まれたほうはもう一流ですよ。他にまねされてこそ、一流だって誰かが言っていましたからね。ちなみに、下ネタで笑いを誘うのは三流程度だとも聞いたことがあります。まぁ、その昔雨月も下ネタで笑いを誘おうと一生懸命だったんですけどね、あの頃の情熱はどこに行ったんでしょうか。さて、今回の話はとても長い話にしようかとも思ったのですが単純明快、三つ編み眼鏡は誰なのか次回で正体がわかる予定です。七月十日土曜、十七時二分雨月。




