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第二百十一話◆:消えても構わない記憶

前回の粗筋:少女はどこからきたのか不明、赤ん坊は乳の出ない零一に腹が減ったと泣き出す始末。泣きたいのはこっちだと叫んだのちに女の子が行方不明…雨の降るなか、いろいろうろつき危ない男に連れ去られそうだったところを保護。家に帰るも、今度は赤ん坊がいない…先生、赤ん坊からは目を離してはいけませんねとつぶやくとある水曜日。

第二百十一話

 眠っているときに何かをつぶやくなどそんな高等スキル持ち合わせていないので当然、寝たふりをすることとなる。十一時には布団に入って眠る(ふりをする)ことにした。

「ががぁ、ぐごごごご………」

 完璧にミッションを遂行するために当然、小細工は欠かせない。きっと通用するであろうと信じていびきもかいておく。

 さて、後は魚が釣れるのを待つだけでいいのだが…………



――――――――



「んあっ」

 自分が完全に眠っていたことに気がついた。ぴくっと枕が動いたような気がするのだが、寝ぼけている俺はぼーっとしている。一瞬にしてぼやけていた視界があっという間にクリアになり、窓から入ってくるかすかな光で誰が俺を覗き込んでいるのか察しがついた。



 そう、風花だ。


 竜斗に言われたことを早速実践するべく一月中旬の寒さの中、喉の調子を確かめることなく演技に入る。

「風花お姉ちゃん………」

「零一様、そのようなことを竜斗様に吹き込まれたのですね」

 ありゃ、ばれてる………

 今更気がついたのだがどうやら俺は膝枕をされているようだ………どおりで、枕が温かくてさわり心地がいいわけだ。

「起きていたの気づいていたのかよ」

「さきほど、目を覚ました時に目があいましたけど」

「そうか、気がつかなかったな………」

 膝の感覚を後頭部で楽しむというよりも、じかに楽しんだほうが楽しいのだろうがそんなことしたら警察沙汰になることだろう。

「風花………お前は一体何者なんだ」

「何者も何も………わたくしは零一様のお手伝いですよ」

「ま、そうだけどよ。竜斗に言わせてみたらなんだか謎のありそうな雰囲気だったし、俺って出来るだけ知らないことは知りたいとおもう性質なんだ。だから、教えてほしい」

「確かに………長い時間竜斗様と過ごしてきていたから新参者であるわたくしのことは信じづらいでしょうがここは何も聞かなかったということにしてくれませんか。たしかに、わたくしと零一様は過去出会ったことがあります。零一様はそれを忘れていらっしゃる、大切な過去はしっかりと残っているものです」

 つまり、俺にとって風花との思い出は記憶に残るほど楽しいものではなかった、消えても構わない思い出だったから今更知る必要もないということなのだろうか。

「過去、わたくしと零一様がどのような関係だったのか、知りたければ思い出す努力をなさってはいかがでしょうか」

「思い出す努力って………」

 どうすればいいのだろうか。

「………人はしっかりと記憶にとどめているものですよ。ただ、少しの間思い出せないだけで………当時と同じようなことが起こったりすればフラッシュバックが起こるでしょう………だから、今日はもうお休みになられたほうがいいです」

 俺の額に手を置いてなでる。やけに慣れた手つきなのは俺が眠った後にいつもこんなことをしていたからなのだろうか。

 静かに目を閉じて考えてみる。俺は一体、どこで風花と会っていたのだろうか………思い出す努力って俺の脳内にはそんな思いでなんて上を探しても下を探しても見つからないものは見つからないと思うのだが………

 そんなことを考えているうちに眠気が襲ってきたため、俺は静かに夢の世界へと引きずり込まれていく。



――――――――


「ねぇねぇ、本読んでよぉ」


――――――――



「零一様、朝ですよ」

「あ、え」

 何か子供が俺にお願いをしていたような気がした………あれは夢、だよなぁ。この部屋には身体が透ける子供なんて出てこないし………。

「朝食の準備は出来ていますから、どうぞ、お食べください」

「え、そうなのか………いつもだけど、悪いな」

「わたくしのやるべきことですから」

 慇懃に礼をする風花にため息をつきつつも、何か奥歯につっかえたような感覚が残っている寝起きの悪いものがあった。それが一体何なのかはよく分からないし、もしかしたら風花に関係することなのかもしれない。

「今日は洋一郎さまと会う約束の日でございます」

「ああ、わかってる」

 ともかく、風花の事は後回しだ。今日は俺の兄貴という人物と会う約束をしているのだから。



―――――――



「美月、そういえば今日はぼくの弟って人物と会う約束だったね」

「うん、洋ちゃん忘れてたのかしら」

「え、いや、覚えてたよ」

「じゃあさ、今日、本当は二人でデートする日だったのも覚えてるかな」

「え、そうだっけ」

「そうよ、だけどさ………風花さんが来てにやけて………私というものがありながらそんな顔するなんて………」

「あ、あははは………そんなことしてないと思うけど」

「じゃ、日曜日デートしようよ」

「わかった、出来るだけ早く話をまとめてお昼からデートしようか」

「うんっ」

「ふぅ………(よし、なんとか機嫌は直ったようでよかったよかった)」

 時刻は午前九時を指していた。それから一時間後、珍しく風花が零一を連れて迷うことなく東邸へとたどり着くのである。


連日腹痛が続いています。なんででしょう、痛んだ食べ物なんて食べていないはずなんですけど…窓全開で寝てるだけですから寝冷えしているだけだと信じたいですね。ま、たまには窓を閉めてねたほうがいいってことでしょうねぇ。あ、今日は七夕ですね。願い事、ちゃんと決まってますか。七月七日水曜、八時五十四分雨月。

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