第二百八話◆:水曜日、女の子の気持ちを知りました。
第二百八話
登校する前にお弁当を持ったかどうかをしっかりと確認する。
「お気をつけて」
「ああ、行ってきます」
もちろん、弁当以外のものもすべてチェックをした………必要なものを紙に書き出し、すべてにチェック欄を設けてチェックしたのである。もし、なにか記入漏れがあった場合は間違いなく風花が届けてくれることだろう…………教室まで。
風花と一緒に登校するなんてことになったらそれこそ、男どもの羨望のまなざしで焦がされてしまうだろう。
そんな妄想をしていると曲がり角に人影があった。
「おはよう、雨乃」
「笹川………なんだか久しぶりだな」
「まぁ、冬休みだったから」
一カ月に一回程度は登校時間が重なるようで笹川と登校しているのである。当然、笹川の意に沿わないようなことを言ったりすると鉄拳が飛んでくる………まぁ、出会ってすぐに恋に落ちるとか一目ぼれがない分、まだいいのだろうが俺と笹川の間柄なんて『動きのない友人』である……嬉しいハプニングを望むなんて愚の骨頂、あったとしても笹川によって俺の首に首輪が占められるであろうという恐ろしいエンディングだけだ。
「雨乃、風のうわさで聞いたんだけど………その、メイドさんがいるって本当なのかしら」
「………やっぱり、噂ってのは広がるの早いんだな………」
「よ、夜な夜なベットをきしませているとか………」
尾びれがついている、というより………話が全然見えないのは俺だけだろうか。
「まぁ、お世話係がいるのは事実だ。あのな、今はちょっと面倒だから言えないが行方不明と思っていた家族がいたんだわ。今はその程度しか言えないな」
「……わたしと、雨乃の中でも言えないのかしら」
「…………まぁな」
そう、とだけ言い残して俺の隣から走り出した。
「あいつ、なんで走り出したんだ………」
「やれやれ、女心をわかってないなんて男の子として問題だよ、雨乃君」
「真先輩………」
「女心………つまり、実際に女の子になってみればその気持ちもわかるんじゃないのかとぼくはおもうんだっ」
「…………」
実際、そうなのだろうか。
「まぁ、女の子になるのは別として女心なんてどうすればわかるんですか」
「聞くんだよ」
「え」
「女の子に直接女心を尋ねればいいのさ。こんな風に………」
そういうと俺たちを追い抜いてあわてて走って行った女子生徒を真先輩は追いかけ始めた。
「はーい、そこのぐっとなじょしこーせーっ。このぼくに君の女心を見せてくれよーっ」
「きゃああああっ、変態がっ」
あれが女心というものなのだろうか…………
――――――――
真先輩がどこかに行ってしまったので俺はおとなしく登校することにした。
「ん」
その時、背後になんだか気配を感じて振り返ると一人の女子生徒が立っていた。
「あ、零一君」
「朱莉か………」
「聞きましたよ、メイドさんがいるそうじゃないですか」
メイドメイドとうるさいな………あれはメイドではなく、お世話係である。
「そぉんなにいいんですか、メイドさんがっ」
「はぁ、お前どうしたんだよ。おかしいぞ」
「おかしいのは零一君のほうですよ…………見損ないました」
そういって走って行ってしまった………。
「………何なんだ、一体ぜんたい………」
朱莉は途中で止まってこちらのほうへと向き直る。
「追いかけてくださいよっ」
「ええ、なんでだよっ」
「こういうときは追いかけるものなんですよっ」
嫌だから逃げるのだろう………なのに、追いかけてほしいとはこれいかに………。
「全く、本当に乙女心がわかっていませんねっ」
「女心とか乙女心とか…………俺、大体男だぞっ」
「あたしの気持ちになってくれればわかりますよっ」
なるほど、朱莉になったつもりか………
「うふっ、あたしぃ~……湯野花朱莉ぃ~。ちょっとだけぇ、人の後をつけちゃう変態的な癖があったりするのぉ~………ごはっ」
「あたしはそんなに気持ち悪くありませんっ」
かばんの金具が額に~………目の前の世界が一瞬だけ暗転したぞ。
「もう、ふざけるんならいいですっ。泣きついてきても知りませんからっ」
それだけ残して朱莉は俺を置いて走って行ってしまった。
「ふぅ、乙女心を知るって難しいんだな………」
俺は一人、ため息をつくのであった。
先日、友人から言われたことがあります。『誰だってさぁ、ゲームで稼いだお金が現実に使えたらうれしいだろ』。そりゃまぁ、そんなことは小学生のころに考えましたとも。おいしいしっぽを買うために9999999円集めてみたりもしましたよ。ええ、確かにそんなお金があったら金持ちといえば金持ちですが『問題が起こるでしょ、お金が充満するし』そういうと、『夢ねぇな』と言われました。ええ、妄想ばっかりしている場合じゃないでしょ、現実、ちゃんと大切にしましょうね。六月二十七日日曜、十七時十八分雨月。