第二百五話◆:まだ見ぬ兄
第二百五話
三学期も始まったのだが、すぐさま休日となった。
風花のこと、俺のこと、そしてこれからどうするかについて助言してもらう、そういった理由で俺は風花と一緒に佳奈の家に向かったのだった………ああ、もちろん風花と俺の誤解を解く為でもあるぜ。
ぴんぽーん
「はーい、あら、零一君」
「お久しぶりです、鈴音さん」
「あら、彼女を連れてきたのね」
「いえ、違いますよ」
「お世話係の風花です、はじめまして」
「はじめまして、風花さん。さ、二人とも入って」
挨拶もそこそこに、俺たち二人を招き入れる。
「よぉ、来たな」
「達郎さん、お久しぶりです」
「けっ、年末に零一がこっちに来た時に驚かせようって思ってたんだが自分で家に帰るとは思いもよらなかったぜ」
「爺ちゃんから聞いていたんですね」
「まぁな………つ~かよぅ、お前は本当、羨ましい奴だな。こんな可愛い娘にお世話係をしてもらうなんて………夜のお世話にもなってるのか」
達郎さんの隣には佳奈が座っていた………危ない方向に眉毛が上昇、目つきもより鋭いものへと変わっていく。
「なってませんよ」
「どうだか」
「あのな、佳奈………っと、今日はいろいろと話に来たんです。皆さんも知らなかったことでしょうし、此処にもお世話になりましたから一応、俺の今置かれている状況を説明しようと………」
「いいよ、少なくとも俺と鈴音は知ってるからな」
何を言われたのかちょっとだけ理解が出来ず、俺は呆けたように一言だけ口にする。
「え」
「ごめんね、零一君。前々から教えられていたんだけど………ね」
「な、なんで教えてくれなかったんですか」
「だってそりゃあ、お前が聞いたら優柔不断な性格に拍車がかかって最終的な決断としては『どちらにしようかな』で選び始めるだろ」
「いや、それ意味わかりませんからね」
「そうよ、達郎さん」
鈴音さんも俺に賛同してくれているようだ………
「零一君はそんなやわな人間じゃないわ。表か、裏か………コインですべてを決めるギャンブラーよ」
前言撤回、俺はいつから流浪のアウトローになったのだろうか。
「で、お前は今日何をするためにここに来たんだ。そこの風花って娘さんの紹介だけじゃないだろ」
「ええ、俺、これからどうすればいいのか助言をもらおうと思ってきたんです」
あと、佳奈の誤解を解く為………とは佳奈の両親がいる前では言いだせなかった。
「零一君のやりたいようにやりなさい」
「そうだな、お前の道はお前が決めて、切り開くしかない。俺たちが言えることはそれだけだ」
「えっと、それは助言じゃありませんよね」
「ああ、お前はお前で選択して生きていかないとな」
「………それもそうですね、とりあえず、兄弟に会ってみようと思います………じゃ、今日はここらへんで帰りますね。風花、帰ろうぜ」
「わかりました」
俺は立ち上がって玄関のほうへと歩く………当然、風花も付いてきていた。
「また来なさいね」
「じゃあな」
「お邪魔しました」
佳奈は最後まで無言だった。機嫌が悪いのはなぜだろうと考えても結局、わからずじまいだったりする。
曲がり角を曲がったところで風花が俺より先を歩き始めた。
「どうかしたのか」
「ええ、実は今日の早朝に連絡があっていたのですが………来週の日曜日、零一様のお兄様である洋一郎さまが会いたがっています」
ふむ、向こうも会いたかったのだろうか………
「ちなみに、伝言を預かっています」
「伝言………どんなのだ」
「こほん、『会ってくれないと泣いちゃうぞ、泣いたらすぐに美月がやってきてお前なんてあっという間にマッパにされて………』」
「もういい、俺の兄貴ってのは相当ふざけたやろうだっていうのはわかったよ」
まだ見ぬ洋一郎とはこれまた、一筋縄ではいかないやつのようである。
さて、今日は一度はみんなが考えるであろう問題、『死』についてです。これを真剣に語りだしたら色々と宗教に絡んできそうなものですが敢えて、突っ込んでいきましょう。死んだらどうなるのか、よく言われることは生まれ変わる、守護霊になる、怨霊になる………って、ところですかねぇ、あ、あ、あとは天国、地獄に行くと、死んでみないとわからないのですが、死んでわかったとしても他の人に伝えるのは難しいでしょうね。あっちに行って帰ってきた人なんていないでしょうし。難しいもんです。さて、次回はとうとう零一の兄、登場……かと思いきや、月曜日の話。メインヒロインとなった風香は零一の生活に入り込んでくるのですよ。六月二十五日金曜、十四時五分雨月。