第二百四話◆:損な貴方に桃缶のプレゼント
第二百四話
明日から三学期、今度こそ俺は何か問題を起こさなければ進級できるという待ちに待った日がやってきたというわけだ………ああ、そういえば今日、佳奈が夜来るとか言っていたっけなぁ、風花のことをどう話そうかと普通に考えていた。
しかし、人生普通に終わってくれないようでアパートに戻ってきた風花は進級についてよしとしなかった………いや、進級するのは大いにいいのだが、留年したことについて校長先生と話し合ったらしいのだ。
夕方あたりに帰ってきて俺にお茶を淹れた後、こっちを見据えて話し始めた。
「期末テスト後、進級テストを行ってもらうことが決定いたしました」
「はぁっ」
風花の言葉が右耳から入って、患部にすーっと冷やかし、左耳からグッドバイ………目の前のお手伝いさんが鬼に見えました。
「これから毎日帰ってきたらわたくしが勉強を教えることになりました。これは以前、旦那さまから言われていたことなので零一様が嫌だと申しあげましても言うことを聞いてもらいます、わかりましたか」
「ん、いやぁ、別にかまわねぇ………って、よくもまぁ、あの校長がそんなことを許してくれたなぁ」
俺以外の生徒にはやさしい校長先生、それは父兄の方々(風花がそれに入るのか知らないが)にも適用されたということなのだろう。
「校長先生も何かしらの理由をつけて零一様を進級させようとしていたようです」
「へ、マジかよ」
「飛び級を行うぐらいですからね。飛び級という形で零一様を元のクラスメートたちと一緒にさせようと考えていたそうです」
「留年して飛び級って俺、ある意味世界初の高校生じゃないかねぇ」
「しかし、進級したとしても学力のほうが二年生の内容を飛ばしていますので支障をきたします。ですから、わたくしが教えるという約束のもとでテストもお願いしたのです」
「ははぁ、そりゃ納得だなぁ。留年もこれでチャラ………」
「理想だけ見られてもわたくしは困ります。しっかりと勉強しましょう、休日も遊ぶことなど出来ませんよ
再び、風花の声が右耳から………ではなく、左耳からやってきて俺の脳内に革命をもたらし、退散していった。
「つまり、二年生の夏まで缶詰勉強ですか」
「そうなります」
正直、逃げたかった。
しかし、逃げる場所などここ以外もはやない状態だ。
「嫌だとか言ったらどうなるんだ」
「嫌だとかは先ほども言いました通り、受け付けられませんが零一様が逃げ出した場合………わたくしたちお世話係はそれ相応の罰を受けてしまいます」
「罰………ねぇ」
罪と罰、罪を犯した者に対しては罰を………しかし、罪人がいなけりゃ代行者が罰を受けなくてはいけないということなのだろうか。
「で、どんな罰なんだよ」
「………わたくしの口からは言えません、非常に恐ろしい罰だと聞いています。もし、零一様がわたくしを恨んでいるのならばどうぞ、お逃げください」
しっかりと九十度お辞儀をして俺を見ている………その瞳には何を考えているのか浮かんでこない。
「わかった、逃げないで勉強するから安心してくれ」
「その言葉を聞いて安心しました」
こうして、俺のスケジュールは決まったのである。
―――――――
「風花、風呂いいぞ」
「ありがとうございます」
俺の脇を通って風花が通って行く。俺は風呂上がりのお茶を飲んでテレビを眺めていた。
「ああ、そういえば脱衣所にタオルを持っていくの忘れてたな」
あがってきてから必要になるだろうと思ってタオルを脱衣所へと持っていく。もちろん、風花に手渡せばそれで済むはずなのだ………さっき入ったばっかりだし。
しかし、風花はすでに湯船につかっているようだった………さて、これからどうしようか………どうするかってまぁ、決まってそうなものなんだがな。
俺はばれないようにそっと脱衣所へと続く古い扉を開けて抜き足、差し足、ニアの足でタオルを普段置かれている場所へと置いた。
まぁ、ね、プロの俺にかかればこんなミッション、風呂入っている人にばれるわけがないない。
ガラっ
「ひいっ」
「零一様、ご一緒したいということならばどうぞ言っていただければよろしかったものを」
頬をほんの少しだけ赤らめているのは風呂が熱かったからか、羞恥からか………短いタオルで前だけ隠し、濡れた風花が俺に手を差し伸べた。
「どうぞ、こちらへ」
「え、あ、ああ………って、遠慮しとくっ」
急いで脱衣所を脱出した俺はさらに窮地に追い出される。
「やっほ、零一。来てあげたわよっ」
「かかかかかか、佳奈っ」
なんだか、非常にやばい気がしてならない………だって、後ろに人の気配が………前の佳奈が驚愕に目を見開いている。
「れ、零一………」
「勘違いするだろうけど、気にするな、俺はタオルを置きに行っただけ………」
「変態っ、あんたなんて知らないっ」
ふっ、やっぱり勘違いしちゃったか、お茶目さんめ………ごはっ、缶詰はさすがに痛いわいっ。
俺にありったけの桃缶を(顔面に)プレゼントしてくれた佳奈はグッドバイとばかりに最後に蹴りをして出て行ってしまった。
しゃがみこんだ俺は鼻をさすると真っ赤に染まっていることに気がついた。
「鼻血か」
「大丈夫ですか、零一様………鼻血が………」
タオルを前につけただけの風花が近づいてきてしゃがみこんだもんだからこれはもう、たまらない………いや、なんだか勘違いしているかもしれないが普通にあれだぞ、ほら………
「あ~なんだ、この程度は大丈夫だから、お前、湯冷めして風邪ひいて、鼻血がどばって、俺に風邪がうつったら大変だろ。別に谷間がどうとかこうとかタオルが一番危険物だって言っているんじゃないぞ」
「よくわかりませんが、そうですね、風邪になった後に移してしまうのは問題ですね」
一応引っこんでくれたのでよかった………
「しっかし、どうしたもんかねぇ」
茶化す暇もなく佳奈が走って出て行ってしまったのは予想外だったが………明日、誤解を解かないといけないだろうし、どの道、佳奈の家に行っていろいろと説明しておいたほうがいいだろうな。
鼻にティッシュを一生懸命突っ込みながら先ほどの風花を想像しそうになって………やめた。
かなり、ゆっくりペースですがまぁ、勘弁してください。珍しく朝に投稿出来たのは昨日の自分が頑張ってくれたからでしょう。うん、宿題はまだ終わってませんが仕方ないですけど。また獄潰しの新シリーズでも書こうかな、そう考えています。ああ、そういえば今日はモンハ○の発売、カオスヘ○ドの発売日でしたねぇ…個人的にはライオットア○トがしたいんですけどね。六月二十四日木曜、八時二十七分雨月。




