第二百二話◆:捨てるんですか
第二百二話
お茶を出して座るように促したのだが首を振られてしまった。
「わたくしはここで結構ですのでどうぞ、お気になさらずに」
正直、こっちが床に座っているのに立っていられるとなんだか見下されて嫌だということを伝えようか迷ったのだが、それなら俺も立って話せばいいじゃないかということでお互い立って話すことになった。
「で、あんたは一体何なんだ。さっきお世話係だとか言っていたけど」
「言葉どおりの意味です。朝食の準備からお弁当、夕飯の支度や家事全般などを任せられています」
「あのなぁ、そんなことしてもらう奴がこの日本のどこにいるんだよ」
そういうとまたもやこの風花という人物はお辞儀をしたのだった。
「失礼ながら………零一様のお兄様であられます、東洋一郎さま、そして妹様にもお世話係がついています」
「…………嘘」
「嘘ではございません」
相手の目をしっかりと見据えるが、どうも嘘を言っていないようである。
ま、大体俺に兄弟がいたっていうほうがおかしな話なんだが………。
「零一様はご自分が東家の息子であるということは知っていますか」
「しらないねぇ」
「零一様は東家の血筋でございます。雨乃家の名前をもらっていたのは変に騒ぎたてられないようにするためでした」
「じゃあ、そのまま放っておいてくれよ」
「それがどうも雲行きが悪くなってしまいまして」
その後、簡単に説明を受けたのだがどうやら、長男である東洋一郎という男が継ぐのをやめたそうだ。おかげで、二男の俺が継がなくてはいけなくなったらしい。
「もちろん、拒否する権利もありますがそれは最低一年間、わたくしをつけて生活することです」
「ははぁ、なるほどな。監視か」
「以前にも似ていたようなことはやっていましたが、より詳しく情報を得るためにこの方法がとられたのです」
「ふーん………ところで、その洋一郎とやらはなんで継ぐのをやめたんだよ」
「お世話係の女と駆け落ちしようとしたところを捕らえられたんですよ。洋一郎様にも宗家と関係はあるものの一応、東の名前で行動は監視されていました」
「それで」
そこから覚えていなかったのか、手帳を取り出して読み始める。
「洋一郎さまは『他に兄弟がいるのなら僕じゃなくてそっちに回してくれよ』と言いました」
「ははぁ、こりゃまた迷惑な奴から回ってきたもんだな。俺も下に回すわ。妹がいるんだろ」
「ええ、まぁ。妹様は血がつながっておられませんが、非常に優秀な方なので東家の幹部たちはきっと後を継ぐのは妹様だろうと口々に語っております」
「それなら別に問題はないだろ。一年末のも必要ない、さっさとそいつが継いじまえよ」
そういうと別の手帳を取り出し、眺め始める。
「ええ、問題はありませんが零一様の下で働くはずだった世話係は不要となりますので全て解雇、路頭に迷ってしまいます」
「は………」
風花は携帯電話を取り出すとどこかにかけ始める。
「零一様がそのように申したと旦那様にお伝えしておきます」
「待った、消してくれ。その路頭に迷っちまう人たちは俺が一年間あんたの監視を受ければどうにかなるのか」
「はっきりと肯定することは出来ませんが確率は非常に高いものです」
「…………」
「元来、零一様が生まれてすぐから共に成長し、お傍で世話をするのが務めのはずだったのですがそれもできず、われわれは非常につらい日々を送っていました。何度己の運命を呪ったことでしょう」
ああ、面倒だな、すべてを投げ出して地平線の彼方に向かって走りたい。
「しかし、神のきまぐれによってようやく零一様とお会いできることが出来ました。これから先はしっかりと職務を果たします」
「あ、ああ………頑張ってくれ」
「では、今晩のおかずの材料を買ってきます」
感情を表に出さないタイプのようだったが、実に嬉しそうだった。しっかし、まるで脅すような感じだったし一筋縄じゃいかない人物みたいだな。
家事をしてくれるということだったのは嬉しかったし、これまで俺のことを放っておいた両親が何を思っているのかは知らないが………いつか、会うことが出来るのだろうか。
四十分後、なかなか帰ってこないなと思っているとケータイに電話が………
『迷子になってしまいました』
俺はひとつため息をつくと、コートを羽織って外に出るのだった。
安易にほいほい進むとどうなるか分岐編でよく理鵜飼出来ました。所詮、夢は夢ってことですかね。ま、ローマは一日にして成らずという言葉もありますから気長に行きましょうかねぇ。何事も焦っては成せるものも成せなくなりますから。ああ、そういえば新キャラのことを完全に忘れかけていました。彼女はキーマンでして、これ以後、結構重要な役割をやってのけるかもしれませんねぇ。それではまた次回。六月二十三日水曜、十八時四十三分雨月。