第二百一話◆:風と花の来訪
第二百一話
家に帰りついた俺の前に映った光景。
いや、別に家が燃えていたとか、中世のお城になっていたとかそんなことはあり得なかった………浮かんでたとかもなし、さて、他にどういった現象が起こるだろうか………思いつかねぇな。
ともかく、以前住んでいた家に起っていた異変……それは、家の前に四台ほど黒塗りの車が止まっていたということだけか……あれ、意外と普通だったか。
「何だこれ」
自分がある程度まで成長してきた家が変わらずそこにあるのは嬉しい事だったのだが車がここにあるということは中に誰かがいるということなのだ。
そして、爺ちゃんだったとしてもこれほど車を外に置かなくてもよかっただろうし、大体、爺ちゃん一人ならば車一台で事足りるはず、付け足すならば爺ちゃんは車を持っていないはずだ。
まぁ、どっかの爺さんなら一人で四台の車を運転することなんてやってのけるかもしれないな。
「忍法、分身の術とかな」
「おや、若造じゃないか」
噂をすれば影という言葉を今日ほど呪ったことはないだろうな。
玄関先にいたのはニアの爺さんだったのだ。
「って、爺さんっ。ここ、俺ん家だぞ。なんでいるんだよ」
「わしは別にお前さんの家に来たつもりはないんじゃがなぁ。級友に会いに来たんじゃよ。こいつにな」
玄関の引き戸がスライドし、姿を現したのは俺の爺ちゃんだった。
「じ、爺ちゃん」
「おお、久しぶりじゃなぁ。ちょうどわしも正月じゃったから戻ってきたんじゃよ。達郎の家には連絡を入れておいたんだがのう、聞いておらんのか」
てっきり、行方不明かとも思っていたのだが既に家に戻っていたのかよ………それに、戻っていたって達郎さんとか知っていたのか………教えてもらってねぇけど、だから俺を正月帰ってこさせようとしていたのかな。
「零一、お前の兄弟が来ておるぞ」
「きょ、兄弟って………俺に兄弟なんているのかよ」
「おるぞ、お前の兄は自分に妹と弟がいることを知らなかった。じゃが、妹は二人の兄がいることを知っておった」
なんだかイライラが募る、だって兄弟なんて今更言われて受け入れられるわけでもない。
「挨拶なんてしねぇよ。俺、もう帰るわ。爺ちゃんの顔が見ることが出来ただけで結構だ」
「ははぁ、そうか。じゃがなぁ、お前の父親はそう思ってないようじゃ」
爺ちゃんはそう言って俺に背中を向け、家の中へと入っていくようだった。ニアの爺さんも続こうとしている。
「ああ、そうじゃった、零一」
「何だよ」
「どの道、お前のアパートには変わり者が向かっておるからな。正月早々、驚かせようと思ったらあやつが極度の方向音痴でなぁ、地図を逆に見ておったわい」
「俺に会えと言ってるのかよ」
「会う、会わないは勝手じゃ」
そういって爺ちゃん、爺さんは玄関向こうへと消えていった。
「………俺のアパートにいるのなら会う、会わないは勝手とか言ってられないだろ」
これ以上何かつついて変なものを出したくなかったので俺は家に帰ることにする……もちろん、爺ちゃんに会えたのは嬉しかったし、相変わらずの調子で安心した。
さて、アパートにいるのは一体ぜんたい何者なのだろうか。
期待と不安を胸にしつつ(期待一、不安九)、俺は帰路へとついたのだった。
―――――――
アパート、俺の部屋の前に一人の女性が立っていた。
「………変わった人………ねぇ」
別にどこも変わっているとは思えなかった………黒いワンピースのようなものに白いエプロン、長い髪の毛はしっかりと後ろで束ねられていた。
知的そうな印象を漂わせる四角い銀のフレーム眼鏡と色白の肌、俺より少しだけ身長が低く、物静かそうだ。
俺が近づいたことによって気がついたのか頭を動かして認識する。
「………はじめまして」
「あ、あ~、はじめまして」
「今日付けで正式に零一様のお世話係になりました風花と申します」
「こりゃご丁寧にどうも………じゃあ、今開けますんで中にどうぞ」
「失礼いたします」
腰をしっかりと曲げたきれいなお辞儀を見れた揚句、こんな美人が正月から来るなんて今年はラッキーかもしれない………そう考えていた俺だったが、いつの時代だって美人は面倒事を持ってくる、俺はそのあとすぐに思い知らされたのである。
新しい章ってわけですよ。ええ、何だかごちゃごちゃになってしまった分岐編から一転したわけなのですがこれがまた、曖昧状態。零一のじいちゃんは零一とあっていたのか、ニアのじいさんは空を飛んでいたっけなぁとだいぶ、曖昧に。ああ、それと一応公言してみますが分岐していた話がどれもこれも中途半端で終わっているのはあとで編集しようと考えているからです。って、出来るのかいな………まぁ、気長に待っていてください。つまり、あっちはあっちで長い話の始まりというわけですね。六月二十二日火曜、九時十五分雨月。