第二話◆:見なければよかった…
第二話
転校、したことあるだろうか……俺が思うにあれほど面倒なものはなかなかないねぇ。書類にテスト、果ては自己紹介と来たものだ。人の中にはこの第一印象でその後をきめてしまうという人もいるし、これがうまく出来なかったらうまくスタートを切ることができないだろう。ついでに言うならば、配属されたクラスにリーゼントやオールバックのメンチばりばりの御仁達がいた場合俺はどうしたらよかったのだろう。
ともかく、そういった連中がいなくてよかったと今の俺は安堵していた。
「……雨乃零一。今日からよろしくお願いします」
高校生活一年目、五月がどういったものかはわからないがそろそろ仲良くやりましょうっといった雰囲気がクラス内で出来てきてこの時期に転校してきたのには何かわけがあるのだろうとか、いちいちかんぐられるに違いない。そういったことを聞いてきた奴は今後、俺の中で要注意人物とみなすことに決定した。どうせ元から友達少ない身だったから構わないし一人で時間をつぶすのは得意なほうだ。
「先ほどの紹介でわかっただろう……彼と同居していたおじいさんが行方不明になってしまったそうで、隣のクラスの雨乃と同じ家だ。お前達、転校生には優しくしろよ」
気をつかってくれているようだが正直、必要なかったりする。ほら、先生……すごく扱いづらい子がやってきたなぁって目で俺を見てますよ。
「じゃ、雨乃はあの席に座ってくれ」
「わかりました……先生、これからよろしくお願いします」
「あ、ああ……礼儀正しいな、みんなも見習えよ」
先生、生徒という立場を俺はちゃあんとわかっているつもりだ。長いものには巻かれろという奴である。
指示された席の隣には女子が座っており、こういったときにどういったことを言えばいいのかさっぱりわからなかったので黙って座ることにした。女子と話すことが苦手だ、というわけではないのだが初めての転校でどうすればいいのかわからないだけだ。
「………」
隣から視線を感じ、左のほうへと首を動かしたがどうやら気のせいのようだ。隣の少女は窓の外を、校庭を見ていた。桜は当然散っており、青い葉が茂っている。その少女は髪は肩まで、細身に切れ長の瞳。整った顔は冷徹っぽい感じを受ける。
「……」
ついでに言うならば暗そうな少女だ。俺より友達いない……そんな失礼なことが頭をよぎった。
――――――――
昼休み、早速校内をうろつく。休み時間はどれも面倒な質問攻めにあって息をつく暇さえ与えてもらえなかった。困ったことがあったらいってくれよと言ってくれたのは正直、嬉しかった。人の優しさが身にしみたのはこれが何回目だろうか……右手で事足りるかもしれん。
「お……」
うろついた俺の目にとまったものは隣の席の少女だった。確か、名前だけ聞きだした気がする。そう、名前は笹川栞だったはずだ。どうでもよさげに、名前だけつぶやいたのだ。
「……」
なにやら思いつめた表情で、何かを決心した表情で階段を上っていく。俺には気がついていないようだ。俺、影薄いもんなぁ……いつかは其処にいるだけでみんなが見るような男になりたい……いや、そんなことはどうでもいい。
「……」
息を殺して、足の音も消してついていく。ばれないように、他の生徒から怪しまれないように平静を漂わせて、階段の上のほうを見る。
どうやら、屋上へと向かっているようだ。
屋上は不良がいっぱいいるから気をつけたほうがいいよと誰かが言っていた気がするがそれなら、あの笹川さんも危ないだろう。
彼女がどうなっても別に構わないが(ひどいとか思っちゃや~よ)、何故、上に行くのか気になった。そういった理由で音をたてずに俺も階段を駆け上がる。
屋上へと続く扉。手をかけて、ひねろうとすると何かが外からぶつけられたのだ。
「……っ」
十数段下に飛び降りて、上を見る。てっきり、尾行がばれたのかと思ったがそうでもないらしい。男の叫ぶ声と、これまた別の震動音が聞こえてきた。
階段踊り場から急いで屋上へと通じる扉のところまで戻る。人の気配がして慌てて扉から離れて、陰へと隠れるとリーゼントやオールバックの諸兄が顔をぼろぼろにして、髪形をぼこぼこにされて出て行った。中には階段手前でつまずいてそのまま転がり落ちた人たちまでいた。大丈夫だったようで最後尾になりながらも逃げていった。
「……」
何があったのだろう。そう思って屋上を覗き込んだ瞬間、首根っこを捕まえられて俺は屋上へと引きずり出されたのであった。
そして、階段踊り場へと続く扉は閉められる。
残された選択肢、それは……
→土下座。
屋上から飛び降りる。
はい、第二話ですよ。ええ、第二話です。文句がある人は出てきてください。神妙にお縄に尽きますから。さて、冗談はこのぐらいにして今後の展開としては零一が面倒な問題に巻き込まれていきます。まぁ、発端をつくったというより、零一自身が首を突っ込んだということもあるために一概に彼が悪くないというわけでもありませんからね。ともかく、エンジンふかせて続けていきますのでよろしくお願いします。二月一日月曜、八時二十九分雨月。