第百九十九話◆:正月のお話
第百九十九話
正月、何故、正月は正月というのだろうか。俺は不思議で仕方がなかった。そんなくだらない事を考えているのなら佳奈の家に行こうかとも思ったのだが(事実、年越しぐらいは戻って来いと言われたのだが断っておいた)外は寒いし、なんだか大変なことが起こりそうだったので辞めたのである。もっとも、お年玉ぐらいは貰ってもいいのかもしれないがそこまで俺の顔の面は厚くない。
「和尚がふたりで和尚がツー………って前にあったな」
それがいつのことだったかは思いだせない。だから正月なのだろうか、いや、和尚が二人いたところで正月にはならないだろう。もしかして、“月”は“搗き”につながっており、正月の“正”を解析すると“正しく搗く”ということから正月とは“正しい餅搗き”が語源なんだろうか。
察しの通り、何もすることのない正月は暇以外の何物でもない。テレビ番組はどれも特別番組で見る気も失せてしまっている。それなら、近くの神社に行っておみくじでも引いてこようかと考える。
「おみくじ………ねぇ」
おみくじってなんでおみくじって言うんだろ。漢字で書いたら結構難しい代物で“御神籤”か“御御籤”だからなぁ。
こたつの上に置かれている蜜柑を剥いて食べるぐらいしか、これと言ってやることがない。この上なく暇だというときは蜜柑の皮をきれいに剥いて白い部分をすべて取り除くというどうでもいいことがすごく重要なことなのではないかと思えてくる。
勉強のひとつでもすればいいじゃないかと思うかもしれないのだが、正月から勉強するなんて受験生かよと突っ込みたくなる。大体、大学がすべてだって言っているが、大学に入ってそれまで勉強していた人がバイト、遊び三昧に走ったらいくら有名大学に入っていようと就職なんてできなくなるのである。勉強が抜群の出来だったとしてもコミュニケーション能力が小学生並みだったりすれば無意味であり、人生、勉強だけがすべてではないのだ。
高校一年生が偉そうなことを言っているのは年末にあった教育番組に影響を受けたからなのかもしれない。ああ、そういえば社会の歯車になりたくないと語っていた人がいたのだが正直、テレビに出てそう語っている時点で立派な社会の歯車である。
「あーっ、暇だ」
お隣に住んでいる野々村竜斗君は里帰り。なぜか鍵を預かってくれと言われている為に俺の部屋にはあいつの部屋がある。あれでも女の子だからなぁ。竜斗の部屋に忍び込んだ瞬間、どうなるか………警察沙汰は覚悟しておかなくてはいけないな。
「馬鹿と阿呆ってどっちが上なんだろうなぁ」
ああ、02がいてくれれば的確なアドバイスをしてくれていただろうに、あいつも里帰りって機械のくせに。
一人暮らしをしている俺も里帰りしてみようかと考える。佳奈の家ではなくて、俺が以前住んでいた家にだ。もしかしたら爺ちゃんがいるかもしれないからな。
「よっしゃ」
立ち上がり、コートを身にまとう。ガスの元栓を閉め、使わない電気はコンセントからはずしておく。実質、稼働しているのは冷蔵庫ぐらいだな。
「財布の中身もまぁ、あるな」
そういえば、年賀状もいくつか来てたな。栞に、ニア、夏樹に剣か。他の連中は全部ケータイで済ませたようだからなぁ。02が入っていれば勝手に返してくれたんだが………まさか、弊害があるとは思わなかったぜ。
他に何か必要なものがないか確認してみるが、財布にケータイ、特にこれと言って持っていくものが思い浮かばない。
「よし、行くか」
ああ、これもまた弊害である。独り言でもつぶやいていれば02が返事してくれていたのでついつい、独り言を言ってしまうのである。
「じゃ、行ってきます」
誰もいない室内にそう告げて俺は鍵をかけた。
知らなければよかった、行かなければよかったなんて毎回のことなのだが、思い立ったが吉日とか言った人の顔を見てみたかった。そう、俺は正月から面倒事に巻き込まれる羽目になるのだ。いや、正確に言うのであれば、面倒事が続いていくことになるのである。
次回はとうとう記念すべき二百話目。まさかここまで来るとは………いや、まぁ、予定はしていましたけどね。いまいちな感じで続いてきていますが二百一話からはまたしっかりとした話になる………予定です。いい加減、零一のお家事情も終止符を打ちたいですし。では、また次回お会いしましょう。六月二十日、十一時三十一分雨月。