第百九十六話◆:黒ずきん
第百九十六話
「えっと、では、毎年恒例の『実際、傷口に何を塗られたら一番痛いのか』を始めたいと思います」
今、俺の周りには頭から黒ずきんをかぶった連中が大勢いた。場所は二年G組だろうな。ということは、この黒ずきんたちは全部ここのクラスメートということなのだろうか。でも、俺って留年しているからまだ一年生のはずなんだけど。大体、俺ってなんでこんなところにいるのだろうか。記憶があいまいで、黒い何かに連れてこられたというものしか覚えていないぞ。
「待った」
「黒ずきんRさん、発言するときは右手をあげて発言してください」
教壇に立っているのは女子生徒。しかも、周りには体育会系と思われるマッチョが壁を作っていた。
「あ~はいはい。毎年恒例とか言ってたけどこんなの去年はこんなのやってないだろ」
「今回の議題と関係のない事は質問しないで下さい。これ以後、そのような質問をした場合は駅前で『魔女っ子へんし~ん』と叫んでもらいますからそのつもりで」
なんともまぁ、恐ろしい刑罰なのだろうか。そんなことされたら次の日から『かわいそうな大きなお兄ちゃん』と思われてしまうではないか。
「それでは、何を塗られたら一番痛いのか、各自考えを発表してもらいます」
教室前の扉側、一人の黒ずきんが立ちあがった。
「えっと、俺はやっぱり『塩』を塗ったら………」
「ありきたりすぎます。貴方には駅前で『おと~さ~ん』と叫んでもらいます」
「ええっ」
「では、これより刑執行。明日の校内新聞には一面を飾ることをお約束します」
「そ、そんな~」
彼はそれだけ残してマッチョ二人組に部屋から連れ出された。
「では、次の方よろしくお願いします」
「わ、わかりました。たぶん、『消せない思い出』を塗るのが一番かと思います」
「無理に頑張らなくて結構です。この人も必要ありません、屋上から好きな子に告白させてください」
マッチョが再び発言した人を連れて行ってしまった。それから五分後、隣のクラスにいると思われる女子生徒の名前をあげ、告白したようだが校庭から『ごめんなさいっ』という声が聞こえてきた。
二十分後、ほとんどの生徒が何らかの措置を取られていなくなってしまった。そして、とうとう俺の出番がやってくる。
「では、よろしくお願いします」
「え、あ、あはははは………」
立ちあがって再び考える。これまでずっと考えていたのだが思いつきもしなかったのだ。潮が駄目なら何を塗ればいいんだよっ。
「塗り薬っ」
「…………」
教壇に立っている人、そしてクラスに残っている哀れな子羊たちの視線が痛かった。
「ふむ、正しいですね。では、今回の会議はこれで終わります。各自、家に着いてから黒い布を取ってください。途中で取った場合は身体で知ることになりますからね」
では、これにて閉会。それだけ告げるとマッチョをひきつれて謎の女性は消えてしまった。ボイスチェンジャーで声を変えていたようだがたぶん、笹川当たりなんじゃないかなと思えてしまった。
「何がしたかったんだろうか…………」
他の生徒は帰ってしまったようで、俺は一人ポツンと言葉に出していたのだった。
―――――――
「ぐはっ、久しぶりに笹川のパンチ食らったわぁ。ほら、怪我しちまったじぇねぇか」
無様にブッ飛ばされたのはいつものことだったが今日は珍しく怪我をしてしまった。いや、まぁ、毎回怪我はしているんですよ。心に絆創膏、たくさん張ってるんです。
「どうしてくれるんだよ」
「大丈夫よ、塗り薬塗ってあげるから」
そういって俺の腕を掴んでどこからか取りだした塗り薬を塗り始める。色が蛍光緑というのが非常に怖かった。
「はい、これで大丈夫よ」
そういって俺に背中を見せた。
「………よかったわね、あの時あんたが違う言葉を言っていたら今頃………」
その言葉が聞き間違いだったということを俺は信じたい。
意趣変えしようとしたらこのありさま。むしゃくしゃしてやった。今は後悔しているとでも言っておきましょう。うん、最近絶不調です。六月十九日土曜、十六時十九分雨月。




