第百九十二話◆剣編:迷う剣
第百九十二話
正義を貫く少女、吉田剣。最近、この学校で美少女として人気が出てくるようになった。特に、女子にもてるようで『剣ちゃんファンクラブ』なるものが結成されるようになったのである。
「うんうん、妹の鏡だね」
「兄馬鹿だな」
「そうかな~、零一も剣には頭があがらないでしょ」
「…………」
「うんうん、男は尻に敷かれてこそ、輝くものさ」
廊下を歩く剣を俺と満は見守っている。そして、その後ろにはぞろぞろと女子生徒たちが。もちろん、男たちも混ざっているが女子たちのにらみによって誰もが剣に話しかけることはできない。
「この学校は日本一尻に敷かれる男子が多い高校だろうな」
「あ、それ言えてるかも。不良グループは全て栞たんが制覇しちゃってるからね」
俺に気がついたようで、手をあげている。
「おはようございます、一先輩」
「ああ、おはよう」
周りの女子たちの視線が非常に痛い。ちなみに、この学校には派閥のようなものがあって『竜斗派』、『笹川派』、そして『吉田派』が存在している。間違っても、笹川は兄のほうではなく妹のほうであるし、吉田のほうも例に漏れない。
「そういえば今日は一緒に登校してきてないんだねぇ。一緒に住んでいるのに」
満がからかうように俺たちを見ていた。
「おい、ばか。あんまり人に知られちゃまずいだろ」
「え、そうなのですか」
嘘、この子……超天然だったの………ってぼけている場合じゃない。
「今日はたまたまだよ。ここ最近、疲れているようだったから寝かせてやってただけだ。あ、きちんと目覚まし時計は三十分遅れでセットしたんだからな」
「一先輩、私はそんなに疲れてはいません」
「いや、たまにはゆっくり休むのも必要だ。一緒に住んでいる以上、同居人の不調は目に入ると世話を焼きたくなるもんなんだよ」
「おせっかいの化身、ここに降臨だね」
「うるさいな」
昨日の夜、剣がふらっとした時は本当に何かドッキリを仕掛けられたような気がした。だって、あの剣が倒れるところなんて想像できないからだ。
「あの、ところで一先輩、今日の晩御飯は何が食べたいでしょうか」
「ん、ああ。そうだな………いや、今日は久しぶりに俺が作るよ」
「え、結構です。私が作りますから」
「いや、作らないでいいからちょっと買い物に付き合ってくれないか」
「仕方がありません、わかりました」
少し不満そうな顔だったが、なんとか言うことを聞いてくれた。
「おっと、放課後デートかぁ。うらやましいね」
「よくいうぜ。お前だっていつも帰りにデートしてるだろ」
「ははぁ、残念ながら僕はいつも独り身だよ、くすん」
そうだろうな、あの人物に気がつけているのは俺と朱莉ぐらいなものだろう。なかなか尾行が得意な相手に見える。ローファーをはいていながら足音ひとつさせないとはどんな技術を持っているのか調べたくなるぜ。
―――――――
放課後、俺は約束通り剣と一緒にスーパーへ。
「じゃあ、わたしはここでお別れです。また明日」
「ああ、澤田またな」
「また明日」
澤田は元気に走っていく。
「一先輩は夏樹のような人が好みなのですか」
俺の横顔をまじまじと眺めながらそんなことを尋ねてくる。
「好み………まぁ、嫌いじゃないな」
笑うとかわいいし、ここ最近は他のクラスの連中ともしっかり話しているようだし、俺としては心配ないところだ。
「幼いところがいいのですか」
「いや、幼いのは犯罪だろ」
「でも、夏樹はいきなり病室に入ってきたと言ってきましたが」
「まぁ、それも事実だな。あの時はいろいろと俺もあったのよ」
「そのいろいろとはどういったものなのでしょうか」
「そんなに気になるのかよ」
「………いえ、別に」
そっぽを向いて歩きだす。俺はあわててその隣に並んだ。
「で、今日は何を作ろうか。剣、何か食べたいものはあるか」
「……あまり重たいものはちょっと………」
今更気がつくのもなんだが、剣の顔色が悪い。
「………剣、ちょっとお前こっち来い」
「なんですか」
フラッとしながらも足はしっかりと大地を踏みつける。顔色は悪いが、毅然とした態度は変わらないということか。
だが、それもはったりだったようで俺のほうへと倒れてくる。
「よっと、背中に乗れよ」
「あ、い、いえ……大丈夫です」
「じゃあ、乗ってくれ。俺はお前を背中に乗せたいんだ」
「………わかりました」
俺の言うことを素直に聞いてくれた剣は後ろで荒い息をしている。さて、これは素直に満の家に連れて行ったほうがいいのかねぇ。
「………一先輩、一先輩の………アパートに連れて行ってください」
「………わかった、お前が言うならそうするよ」
スーパーはまた今度行くとしよう。どうせ、今日はお粥か何かだろうし。
む、あとがきのネタがないのでひねり出します。しょぼいですがお付き合いください。コーヒー、紅茶、どっちが好きかと尋ねることってまれにあるんじゃないのかと思います。ひねくれている人はコーヒー、紅茶、どっちかが好きだったとしても『緑茶かな』とかあえて選択肢にはないものを選んだりします。なので、『この世界を半分やるから仲間になれ』という答えに対しては『全部よこせ』と答えて魔王を襲います。そして、気になるあの娘から愛の告白をされてうれしくても『別にうれしくもなんともないけど、捨てられるまで一緒にいるよ』と答えるか『いや、他に好きな子いるからごめん』とうそぶいたりします。ひねくれているため、素直にうれしいとか感情表現出来ないのです。そして、ひねくれている人の中には天然ボケが入っている人に対して少しでも苦手意識を持っていたりしますし、逆にひかれたりします。ま、これはあくまで持論ですけどね。あたっているのか外れているのかはさっぱりわかりません。ええ、統計とか取ってまとめていませんから。今日はこのぐらいで。この小説が一人でも多くの暇人たちに読まれることを願っています。六月十二日土曜、二十二時五十五分雨月。