第百九十話◆竜斗編:コンボ攻撃
第百九十話
俺に抱きついた後、頬擦りをするというコンボ。このコンボは俺だけではなく、周りにも影響を与えてしまうというまさに恐ろしい悪魔のコンボであった…………恥ずかしながら、俺も思いっきり顔を赤くしてしまったのがその原因でもあろう。
周りのひそひそ声が耳に痛いというわけではない、どうせ、一年にいる俺の知り合いは剣や澤田だけ、二年生の教室なんてめったに行かないし、二年の知り合いに会うこともほとんどないのだ。
「へへへっ、恥ずかしいだろ、零一君」
「お前なぁ、その格好でそんなことをするな。俺が変態だと思われるだろ」
「あ、そうだね」
ポンと手を叩いてやつは教室の前のほうへ、つまりは黒板のほうへと歩いて行った。
何をするのだろうかと見守っていると黒板へと文字を書きだした。
「零・一・は・男・好・き・で・は・な・い………まぁ、当然だ」
周りが疑問の視線を俺にくれてくるが事実は事実である。
「零一君はねぇ、ぼくのことが好きなのさ。だって、ぼくのことを略奪してくれたんだから」
言いきる。きっと、自分の顔を見ることが出来たのなら青ざめて今すぐにでも保健室に行ったほうがいいのだろう。
「ま、待て、竜斗っ」
「何か不満でもあるのかな」
ささっと後ろまで忍び寄ると俺は耳打ちしようとした。当然、今ここで竜斗が女子であるというのを認めてもらいたいがために近寄ったのだ。だが、俺の意図を読んだのか知らないが………強い瞳で俺を見てくる。
「んっ」
一瞬、ひるんだ俺は何をされたのかわからなかった。ただ、目の前には目をぎゅっと瞑ったままの竜斗がいるだけだ。周りの視線がものすごく、女子は両手で顔を覆っているが指の間からしっかりと俺たち二人を見ていた。そして、男子はうめき声をあげていた。
「ぷはっ、これで公認だねっ」
「こ、公認ってお前………ここ、学校だぞっ」
「じゃあ、学校以外ならどこでもいいんだ。えっと、駅前のほうがいっぱい人がいてよかったかな」
笑いながらそんなことを言ってくる。
「お前な、羞恥心って言葉を知らないのかよ」
「そうさせたのは零一君だよ。ぼくの秘密、ばらそうとしたでしょ」
「してはねぇよ。よく考えてくれ。世間はお前のことを美男子だと見てるぞ」
「大丈夫、わかっている人はわかってるから」
本当かよとあたりを見渡す。どうも、わかっていない連中しかここにはいないようだった。
「あ、このことは君の周りの女子には絶対に内緒にしておいてよね。自慢とか、絶対にしないで」
切実な表情でそういうが、当然、俺は言うつもりなどさらさらない。変態の代名詞として零一という名前がつけられることは間違いないはずだ。
「言うかっ」
「よかった」
心の底からほっとしている竜斗のことなんて俺は理解が出来なかった。でも、なんでさっき竜斗を突き飛ばさなかったのだろうか。嫌なら嫌で突き飛ばせたはずなんだが………ううむ、何故だかよくわからんっ。
「ともかく、ぼくはもうツバつけたから。絶対に零一君を他のところにやったりしない」
「は、はぁ。何勝手に言ってくれてるんだ」
しっかりとしたそのまなざしは限りなく透明な真実だったのだろう。たった一言残して俺に背中を見せて教室を出て行った。
唯一、不幸中の幸いというべきか知らないが、澤田、剣両者が今ここにいなかったことだろうな。
――――――
「零一君、帰ろっか」
「あ、ああ」
教室までのお迎え、そして、俺の腕をがっちりと捕まえて離さない。いや、ね。俺も嬉しいけど、男の制服着てそれをやってもらうといろいろと困るんだわ。
「あ、そういえば前々から気になってたんだが夏服の上って若干透けるだろ。お前、胸どうしてるんだ」
「ああ、それはねぇ、サラシ巻いてるの。見せてあげようか」
にこっとほほ笑んで言われるが俺は首を振った。
「いいや、遠慮しておく」
「別に零一君になら見せても構わないんだけど」
いや、俺も見たいさ………じゃないっ。
「お前、それはずしてたら結構時間かかるんじゃないのかよ」
「ん~まぁ、そうだね。なれればどうってことないんだろうけどぼくはいまだに時間かかるからね」
「だろうな。ま、ともかく今日は帰ろうぜ」
ひそひそと話声が聞こえるがどれもこれも、俺にとって聞きたくない話ばっかりだ。
「ははぁ、やっぱり効果はあったみたいだね」
「恐ろしいほど効果はあっただろうな。んで、今度はどういった事件に俺を巻き込むつもりだよ」
「それはちょっとばっかり傷つくなぁ。ぼくだってなりはこんなのでも女の子なんだよ」
「そんなことは痛いくらいわかってる。でもよ、キスなんて絶対にしないだろ、友達相手に」
「あぁ~、鈍いって思ってたけどまだ友達だなんて思ってたんだ」
本当にショックを受けた顔のようだったが、俺の腕は絶対に離さなかった。
「あのね、ぼくはどうしようもなく君のことが好きなんだよ」
「え、ああ。俺だってお前のことが………」
「違う違う、君の考えている感情とぼくの想いはかすってすらいないよ。ぼくはね、男としての零一君が好きなんだ」
「は、よく意味がわからないんだが。俺、女じゃないし」
「………ううん、超鈍感なんだね」
まるで猿に日本語を一生懸命教えている飼育員のような表情を竜斗はするのだった。
いやはや、気が付いてみれば第百九十話。長くもあり、短くもあったここ数カ月。もはやどうでもよさげなあとがきの反応。え、別にすねていませんよ。ま、それはさておき、最近お菓子作りを行うことが多くなりました。いや、作っているのはババロアなんですけどね。これがまた、簡単でおいしいのが初級者でも出来るんでうれしいだけなんですわ。プリンこそ最上級のお菓子だと思っていましたが軽く覆されました。っと、まぁ、今日はこのぐらいで。六月十一分金曜、十九時三十三分雨月。