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第十九話◆:ニアの家は……

第十九話

 雨はいまだに降り続いているようだ。

「何か用かしら」

「外の天気が気になるから見てるんだよっ」

窓際の笹川を見るはめになってしまう。外を確認するためにいちいち笹川がそういった反応をしてくるので面倒といえば面倒であった。無視すると……

「にょはっ」

「あら、ごめんなさい……辞書、重かったかしら」

 授業中に紙の辞書が俺の左手に天誅を喰らわせるのである。つまり、面倒であっても授業を真面目に聞くためには受け答えが非常に大切というわけだ。それなら、外を見なければ良いという考えも出てくるかもしれないが気になるものは気になるのである。禁煙中のお父さんの前でタバコをちらつかせるぐらいの威力があるのだ。

 結局、昼休みになるまでに三回天誅を喰らってしまった。一回は辞書による一撃を避けることができたが(すごいぞ、俺)、足がお留守になっていたために踏んづけられてしまったのである。

 無視はいけないということが身に染みた。



――――――――



 放課後、俺はさっさと下駄箱前にいた。昨日借りた傘を返すためにニアを待っているのである。出来るだけ他の人に『何、この人~』と思われないためにも本を片手に待っていたりする。怪しい……かもしれないが、これ以上隠蔽工作は無理だろう。

「あ、零一っ」

「お、やっときた……」

 予想していた時間よりも五分ほど早く、ニアは姿を現した。ぱっと笑顔になるところ(元来持っていたクールビューティーが消えてしまうが)が実にニアらしい。最近の高校生にはない純粋なところ(満は間違いなく喪失しているな)があるのだろう。

「はい、これ昨日借りていた傘だな。安心しろ、何処も壊れていないぞ」

「それは当然だ。ニアの傘を壊していたら今頃お前が傘になってたぞ」

 それ、意味不明だぞ。

「じゃ、俺行くから」

「え、零一は帰らないのか」

「ちょっと図書館にでも行こうかなって思って……ニアも来るか」

「……ニア、図書館嫌いだな」

 そういって俺の手を掴む。

「帰ろう、零一」

「え……」

「ニアと遊ぶって約束した……だから、これから遊ぼうっ。ニアの家に招待してやる」

「え、いいのかよ……」

 女子の家になんて行ったことの無い俺にとっては(佳奈はノーカウントっ)すごく嬉しいというか……その、形容しがたい嬉しさだった。

「よし、じゃあニアの家に遊びに行くぜ」

「うん、楽しみっ」



―――――――――



 ニアの家は簡単言うのなら道場のようなところだった。いや、まんま、道場であった。おまけなのか、何なのか……『草創流』とかかれていた。

「……ニア、お前の家って道場だったのか」

「うん、そうだぞ。ちょっと待ってろ」

 そういって先に道場の中に入っていった。

「よし、来ていいぞ」

 そして、すぐにニアは出てきた。だが、道場からではなく道場の奥のほうにある母屋と思われるほうからで先ほどまではいていたスニーカーではなく草履に変わっている。

「わかった」

 純和風の庭を歩いていき、母屋の玄関前に立つ。よくよく見ると、母屋を通過していったら離れにつくらしい。しかし、離れには扉がないようだった。

「零一、家に置かれているものに触れちゃ駄目だぞ。触れたら罠が動いちゃうからな」

「……罠って何だよ」

「この家、ニアのじーじが忍者屋敷に改造したんだ」

「……」

 何故、何故そんな事を……

「な、なぁ……なんでそんな事をお前の爺さんはしたんだよ」

「老後の楽しみだって言ってた。一ヶ月ぐらい前は泥棒が可哀想なぐらいだったからな」

 それって何気に見たい気もした。

「心してかかれよ」

「正直、そんなにたいしたもんじゃないだろ」

 お邪魔しまーす。そういって家の中に入る。なんとなく、目に付いた床の上には銀色にきらりと光る硬貨が落ちていた。

「あ、百円玉だ」

「触るなっ」

 ニアが俺を羽交い絞めにする。手加減はしてくれていたのだろうが……痛いことには変わりない。

「え、だ、だって百円玉が……」

「あれの上には百円玉がおいていないと……装置が作動する。下からレーザーが当てられていて感知されてるってじーじが言ってた」

「……」

 いつからSFになったんだよ。

「ち、ちなみに百円玉を取っていたらどうなってたんだ」

「……ア○ソ○クがここに来るようになってる」

 つまり、あれは警報装置ということか。って、あれを蹴っ飛ばしたりしたら○ル○ッ○が来るんだよなぁ……危険だろ。

「ゆっくり、ゆっくり……こっちだ、零一」

「おう……」

 廊下を歩いて壁に突き当たった。

「ここがニアの部屋だ」

 そういって壁の端を押す……。くるりと回って渋いお部屋が見え隠れ。

「……どんでん返しだな」

 二人で部屋に入ると暗くなった。何故だろうか……

「ええと、スイッチは……」

「待てっ、押したら駄目だぞ、零一っ」

「わ、わかった」

「動くなよ、そこから」

 鋭い声が飛んで俺は動くのをやめる。そして、ぱち、ぱちぱちっとそんな音がほんの少しだけ聞こえて明るくなった。

「……一体全体、どういう仕組みだよ」

「人間の心理を取り入れた罠だって言ってた。暗いから壁にあるスイッチを押そうとするそうだぞ。ダミーでそっちを押すと……」

「○ル○ックが来るのかよ」

 ニアは首を振った。

「違う、セ○ムが来るって言ってたぞ」

「……」

 なんだそりゃ……。

「けどよ、懐中電灯を持っていたら別に壁のスイッチとか押さないと俺は思うんだが……どうなんだよ」

「一部分にのみ、光が当てられたら家中に警報が鳴り響いてランプが点灯を始めるからな」

「……」

 忍者屋敷というよりも刑務所か何かじゃないのか、ここ。



――――――――



 床に座り、一息つく。

「しかしよぉ、思っていたよりそんなに仕掛けはなかったな」

「当たり前だ、そんなのが沢山あったら住んでるほうが大変になるからだ」

 なるほど、それも一理あるな。

「けど、じーじの部屋に近づけば近づくほどすごい仕掛けがあるぞ」

「へぇ、どんな奴があるんだよ」

 ずずーっと、出された緑茶を飲む。ニアの部屋はひなびた感じの部屋で俺が想像していたファンシーな部屋ではなかった。クナイや忍者刀、手裏剣に忍者服……と思われるものがかけられている。

「うんとだなぁ……プラスチックの手裏剣が四方から飛んでくるとか、落とし穴とか……」

 古風だなぁ、やっぱり忍者屋敷なのかもしれんな、ここは。

「……離れに行くためには地下を通らないといけないぞ。地下は巨大迷路になってて人には言えない……仕掛けがてんこ盛りだってじーじが言ってた」

「……」

 末恐ろしいな、ニアの爺さんは。なるほど、だから離れには扉が一切なかったのか。

「一応、天窓はあるけど防弾ガラスを幾重にもはってるって言ってたからなぁ、きっと離れにはすごいものがあると思うぞ」

「……命の危険を冒してまで俺はトレジャーハントをしたいとは思わないな」

「ニアは面白いと思うんだけどなぁ」

 一緒にずずーっと茶をすする。うん、俺にはきっと日常がお似合いなのだ。警備会社に連絡が行くならがいいが霊柩車に連絡が行くのはまだ勘弁願いたい。

「じゃ、何して遊ぶっ」

「ん……そうだったなぁ……将棋とかあるか」

「お、将棋かっ。ニアは将棋大得意だぞっ」

 ほほう、俺もちょっと将棋には自信がある。

「じゃ、将棋するか」

「いいぞ、将棋しよう……えっと、将棋の駒とかは……じーじの部屋だったな」

「待った、やっぱり将棋はやめよう」

「何でだ」

「…将棋は不吉な予感がする」

 結局、その後俺達がしたことと言えば……腕相撲だったりする。いや、本当は色々と代案が出たんだよ。オセロ、キャッチボール、トランプなどなど……どれも、必要な物は爺さんの部屋にあるとのことだった。

 次にここに来るときは何か遊ぶものを持ってこよう、そう俺は心に誓った。


さて、今回の話どうだったでしょうか……満足していただければそれで幸いですが……また、零一がニアの家を訪れることもあるでしょう。次回で第二十回目ですね。いや、特に何かがあるというわけでもありませんが……感想などをお待ちしております。勿論、五次報告も随時募集中です。雨月もたまには忙しいときがあるので対応が遅れてしまうときがあるかもしれませんがそのときは、すみません。二月二日火曜、二十一時五十六分雨月。

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