第百八十五話◆佳奈編:クサイ台詞にはくしゃみが出る
第百八十五話
一体、誰が望んだ結末だったのだろうか。俺はただ、冷たいアスファルトの上で動かなくなった佳奈の姿を呆然と見ていた。
「ねぇ、あれって私たちの学校の生徒じゃないかな」
「事故だって。暴走した車が突っ込んできたそうよ」
「あっちの男子生徒、見たことあるなぁ」
外野の声が耳に入ってきてすぐさま抜けていく。脳に残ることのない言葉、しっかりと目に焼きつけられる見たくもない光景………不幸中の幸いと言えば眠るかのようにして動かないことだろうか………。
足が震えるも、俺はすがるようにして動かない佳奈へと近づいていく。
「お、おい、佳奈っ」
上半身を起こして揺さぶる。むずがゆそうに唇を動かし、かっと目を見開いて………。
「へ、へ、へーっくしゅんっ」
俺の顔に、佳奈のツバがかかった。
「カーット」
「あ、すみません。急になんだか鼻がむずむずしちゃって」
ずずーっと鼻をすすっている佳奈。俺は無言で佳奈を睨みつけることにする。
「あのねぇ、雨乃さん、手伝ってくれているのは嬉しいんだけどかなりシリアスなところでくしゃみをするのはやめてくれるかな~」
俺と佳奈は真先輩の知り合いである演劇部部長(女)さんの手伝いをしている。ちなみに、俺にお鉢が回ってきたのではなく佳奈から道連れを食らっただけだ。
演劇という割にはどっちかというと映画みたいなもので、何かに応募するそうだ。助っ人参戦といったほうがいいため、俺達には関係ないはずなのだが主役とその彼氏役が相次いで病院行きとなってしまったため席が開いていたため、俺たちはここにいる。
「雨乃君のほうは結構頑張って演技してくれていたね」
「まぁ、やれというのなら及第点はとりたいですから」
「雨乃さんも結構頑張っていたんだけどね」
「そうですよね」
笑っている佳奈だったが、これまでの失敗はすべて佳奈が原因である。俺がかっこいいセリフを言うとくしゃみをするのだ。そのたびに顔にくしゃみされたりしている。正直、こいつは俺のくさいセリフを笑っていると言っていい。くしゃみでごまかすその性根が気に食わんな。
「ま、もう一度とりなおすからね。これで最後なんだから気合入れてよ」
メガホンを持って部長さんは定位置へと戻っていき、周りの部員さんたちもおしゃべりを切り上げた。
「はいっ、頑張りますっ」
――――――――
「あ~、ようやく終わったな」
「そうね、まさか二週間もかかるなんて思わなかった」
おつかれさまでーすと帰っていく部員たちに混ざって俺たちも帰路へとつく。
「主役と彼氏役、他の部員がすればよかったのにな」
「そうよねぇ、なんで私たちなんかに押し付けたのかしら」
いまだに理由のわからないことだったが部長さんが俺たち二人のやり取りを見て勝手に決定したのだ。
「ところで今日の晩御飯は何を作るのよ」
「そうだな、今日は冷やし中華でも作るか」
「もう十月だけど」
「だって、暑いから仕方がないだろ。お前何か食べたいものでもあるのかよ」
「じゃあ、カルボナーラ」
「はいはい、わかった。今日はそれにしよう」
ふと、視線を感じて振り返るとそこには部長さんが立っていた。
「あれ、どうかしたんですか」
「いやぁ、やっぱりベストカップルだなぁと思って」
「え、ええっ」
隣で佳奈が騒いでいる。俺は無視して首を振った。
「俺たちカップルじゃないですよ」
「作品の中じゃいいカップルだったよ」
「ああ、そっちですか」
いや、まぁ、確かに一緒に住んだりしてますけど~とくねくねしている佳奈の頭にチョップを軽く入れる。
「いたっ、何するのよっ」
「突っ込み」
「ふふふ、ベストだよ~。あ、それとこれ、お礼ね」
茶封筒を手渡され、俺がそれを受け取る。
「あの、お礼なんて受け取ること出来ませんよ」
「佳奈、それは俺が受け取る前に言ってくれ」
「いやいや、君たち二人のおかげで本当に助かったんだから気にしないで。あ、それとまた何かあったら頼むかもしれないからそのことだけは頭の片隅に入れててね。じゃ、私も帰るから。映画みたいにはねられないように気をつけてよ」
最終的に不幸な死を遂げてしまった主人公。その役をやっていた佳奈にウィンクして部長さんは俺たちを追い越してしまったのだった。
「じゃ、俺たちも帰るか」
「そうね、うん、交通事故には気をつけないと」
俺たちが再び部長さんに出会うことになるのはそれから数カ月後のことだった。
家に箱360があるのでああ、そういえばこの前超街格闘家の最新作がでたっけなぁと電気屋さんに見に行きました。しかし、ひとつ前の奴しか売っておらず、これまた値段がびっくりするほど高い、いや、異常に高すぎる………結局、あきらめて帰ってきました。さて、本編のほうですがこれまた三話分終わったのでとりあえずここで佳奈編は終わりです。続くかのように見せて実は続かなかったりとぶれることをやるのは親指王子がやめたというのも考えられます。では、誤字脱字などを見かけたらどうかおひとつ報告よろしくお願いします。六月四日金曜、十七時四十五分雨月。