第百八十四話◆佳奈編:祭りの記憶
第百八十四話
十月にそろそろ入るころなのだが、いまだに佳奈は俺の家に居座っている。けんかしていることについてとやかく言おうとすると耳をふさいで逃げようとするのだ。まったく、子供ではないのだからもっとしっかりしてもらいたい………そう思うのだが、俺も何故だか無理に佳奈を追い出したりは出来なかった。
「零一、気が早いかもしれないけど来年もまた夏祭りに連れて行ってよね」
夕飯の後片付けをしながら佳奈がそういう。片付けは佳奈、食器洗いは俺としっかり役割分担をしている。分担でもしなければ佳奈はすぐにサボろうとするか散らかそうとするのだ。
「あ~はいはい、また来年夏祭りに行こうな」
さて、どんな夏祭りだったかなぁ。
――――――ー
「ねぇ、もう行こうよ~」
浴衣でも着てくればよかったのに何故だか知らないが頑なに家に帰ろうとしない。
「祭りってさぁ、なんだか日が暮れたあたりから楽しいって思わないか」
「どうせ本当は暑いから行きたくないだけでしょ」
「まぁ、そうともいうなぁ」
俺は寝転がって暑さをしのいでいる。このアパートのクーラーは調子が悪いため、つくときとつかない時があるため、つかない時は必然的に地獄を味わう。エアコンを見つけた時はすっごく嬉しかったのだが本当、ぬか喜びだったな。
「佳奈は暑くないのか」
「全然っ」
なんで暑さを感じていないのだろう。はっ、まさか暑さを感じることが出来ないほど頭がどうかしてしまったとか………。
かわいそうに、高校二年生でこれからもっと勉強が激しくなるだろうと思われる時期に適切な日射病対策を行わないとこうなってしまうのか。
「なんだか馬鹿を見ている目で私のことを見てないかしら」
「見てないよ、ぜ~んぜん、見てないから」
「行こうよ、早く」
早く行かねば露店が逃げる、楽しさが逃げる、射的の的が逃げると………逃げるわけでもないのにやれやれ仕方がない。正直、暑さが逃げてくれるまで俺はここにいたかった。
立ちあがって準備を始める俺を佳奈はずっと見ていた。
「しっかしねぇ、お前、お金持ってるのか」
「え、こういうのって男の人が出してくれるんじゃないの」
「そんなわけないだろ」
そりゃあ、彼氏だったら出すかもしれん。しかし、俺と佳奈はそういった関係ではない。
「ええ~」
意外とケチだな、そう思いながら金を出さない俺も結構ケチなほうかもしれない。いや、これにも切実なわけがあってここに佳奈がやってきたおかげで夕飯代やおやつ代が倍になったのだ。当然、払ってやりたくても払えないという理由がある。
「ま、別にぐるぐる回るだけでも十分楽しいからな。さっさと行くとするか」
「うん」
佳奈の横顔はすごくうれしそうで俺と同い年には全然見えなかった。もし、こいつと俺が家族ならば俺が兄で佳奈が妹ってところだろうか。
「迷子になるなよ」
「なるわけないでしょ」
―――――――――
「佳奈、お前もしも来年迷子になったときはどうするんだよ」
「そ、それは零一がしっかりと手をつないでくれないから悪いんでしょ」
俺が悪いのだろうか。しっかし、あれはすごかったな。押し寄せる人に流されてどこかへ行ってしまう佳奈。俺は俺で既に人の流れから出ていたので助かったが佳奈は流されてしまって次出会ったのは十分後ぐらいだ。
「ともかく、普段から人の間をぬって進めるように鍛えておいたほうがいいぞ。意外と役に立つからな」
「そんな恥ずかしいこと出来るわけないじゃないっ」
ふむ、慣れないうちは怖いお兄さんの胸に飛び込んでしまったりするからな。ああ、あの時俺がもしも高校生だったら今頃ごみのようにぽいと捨てられていたりするかもしれない。子供だからと見逃された時は本当にほっとした。まぁ、その危機感がここまで俺を育ててくれたようなもんだけどな。
「佳奈、この皿をそこに並べて乾燥機かけておいてくれ」
「はいはい」
手渡した皿が滑り落ちて、床に落下。プラスチック製だったために破損するのだけは免れた。
「………やっぱり、俺がするわ」
「だ、大丈夫よ。今度はしっかりとつかむから」
今度は佳奈がつかみ損ねたとしても落ちないように俺がしっかりとつかんでおくことにした。すっと伸びてきた佳奈の手はしっかりとつかむ………俺の手を。
「あ、ご、ごめん」
「いや、なんで俺の手を掴んでいるんだよ」
「そ、その、間違っちゃって………あ~もうっ、駄目、いろいろと限界よっ」
それだけ言うと玄関のほうへと走って出て行ってしまう。いろいろと限界がどうのこうのと言っていたが何の限界なのだろうか。トイレに行きたかったとか………いや、違うかな。それだったらトイレに直行しているはずだし………
「一体何が限界なんだよ」
呆然と立ち尽くす俺の質問に答えてくれる人は皆無だった。
ああ、なんだか最近更新スピードが落ちているような………と思っている方、確かに落ちていますよ。ええ、落ちてます。しかし、これにも切実な言い訳があるんです。レポート、宿題、他の小説などなど、なかなか作業がはかどらないということなのです。さっさと零一を二年生に上げないとこのままいったらまたもや休載に………今できることは一つだけ、目の前に提示された課題をすべて終わらせるだけなのですっ。六月四日金曜、十三時五十三分雨月。




