第百七十四話◆竜斗編:シラヨメ
第百七十四話
野々村竜斗の彼氏が俺、つまり雨乃零一という話はあっという間に学校中に広がってしまった。
しかし、明日から夏休みということで今日は簡単な式とHRだけ。学校に行ってもどうせ非難されるだろうという理由で学校をサボることにした。ふっ、俺も不良になっちまったな。
「ま、夏休みの宿題だけでも終わらせておくか」
すでに支給されている為、こういったものはさっさと終わらせるに限る。わからない問題は02に聞けば基本的に答えが戻ってくるのだがあいにく彼女は爺さんのもとへと戻っている為、尋ねることができない。
午前中、俺はずっと夏のお邪魔虫と一緒に遊ぶことにした。
ぴんぽーん
昼食をとろうかなと考えていた時間帯に不吉なチャイムが鳴り響いた。いや、別に不吉じゃないんだが、いやな予感がするんだよ。しかし、来るべき不幸の数を数えて、対策を練っておけば怖くないのかもしれないぜ。来るべき問題としてあげられるものは………
一、竜斗がやってくる。
二、その他の知り合いの女子が勘違いした状態でやってくる。
三、満が素っ裸で助けを求めてくる。
確率的には一が九十で残りで五パーセント、五パーセントだな。
「零一く~ん、いるんでしょ~。欠席したからプリントとか持ってきたよ」
なんだ、やっぱり一番か。ま、竜斗が来るぐらいならそんなに問題なんて起こらないな。
「はいはい、今開けるから」
俺は扉をあけて、また閉めた。
「ちょっと、なんで閉めるのさっ」
「お前、その姿に悪意を感じるぞ」
「ええっ、これのどこがっ」
あいつ、何を考えているのか知らないが………ウェディング姿でやってきやがった。扉を開けたら嫁がいた。そんな感じだ。
―――――――
俺の名前は雨乃零一。顔は普通で髪の毛はぼさぼさ、女子にはモテないが自分には自信があったりするのだ。いや、ナルシストじゃないぞ。
今、俺はぼろくて安いアパートで独り暮らしをしている。天涯孤独の身のため、仕方がない。友人はいないわけではないのだが、俺のことを『お帰り』と迎えてくれる人はいないのだ。
ある日、俺はいつものように静かな扉に鍵を入れる。
「ん、あいてる………」
鍵をかけ忘れたのだろうかと考える。どうせ、価値あるものはラジオぐらいだから盗られても平気だ。
静かに扉を開けるとブーケを手に持った一人の女性が立っていた。
「おかえりっ、零一くんっ」
シラヨメ、そんな言葉が頭に響く。夏の暑さと共に、俺のもとに一人の女の子がやってきた不思議な話。
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そんないいもんじゃないな。うん、でも、そんな出会いって憧れるかも。
「ねぇ、なんでそんなにぼーっとしてるのさ」
「ふっ、男にはいろいろと妄想したいお年頃って言うのがあるのさ」
「ねぇねぇ、そんなことよりこれ、似合ってるかな」
器用にくるくると狭い部屋で回る。よくもまぁ、回れるものだな。ん、よくよく見ると竜斗って佳奈より胸があるなぁ。
「ああっ、えっちな表情してるっ」
「してないっ。してないぞっ。そ、そんなことよりさっさとあがるんならあがれよ」
「はいはい、わかったよ。もう、零一くんは照れ屋だなぁ」
笑いながら俺より先に廊下を歩く。はぁ、まったく………とんだお嫁さんだ。
さて、全然収拾ついていませんがそろそろ畳みますかね。言える事は一つ、まだまだ力不足だったということです。五月二十日八時二十七分雨月。