第百七十二話◆佳奈編:裏表
第百七十二話
「じゃあ、第一問」
「なんだよ」
満は紙に目を通したのちに質問を開始した。
「雨乃零一には付き合っている彼女がいる」
「お前、そんなことを俺にわざわざ聞こうっていうのかよ」
「ああ、改めての質問だね。言っておくけど、僕が個人的に知りたいってわけじゃないから安心してくれよ」
「何を安心するんだよ」
やれやれ、面倒な質問だな。
「いるわけないだろ。いるなら何が悲しくてお前と一緒に図書館にいるんだよ」
「ああ、そうだよねぇ」
「だよなぁ。なんで、なんで俺たちには彼女が出来ないんだろうなぁ」
「まずは二人で鏡を見てから残念だったと叫ぼうか」
二人してため息をつく。
「で、まだほかにも質問あるのか」
「あるよ、僕としてはこれから校庭の脇をいちゃいちゃしながら歩いているカップルを強襲したいと思っているんだけどね」
「よし、話が終わったら行くか」
「ああ、行こうか」
こうして、俺たち二人は友情を深めあった。
「よし、次の質問だけど…………零一、僕がこんなことを言うのもなんだけど佳奈つん家に戻ったほうがいいと思うんだ」
「はぁ、どういう意味だよ」
「そのままの意味だよ。二年生に進級するときは一人暮らしなんてやめて、戻ったほうがいい」
「…………」
余計な御世話だと言いたかったが満は満なりに俺の事を考えてくれているのだろうし、むげに怒鳴るのも子供だと思った。
「これで質問終わりっ。さぁ、繰り出そうか」
「ああ、そうだな」
俺たち二人は立ちあがって図書館をさっさと後にするのだった。
―――――――
「ただいま~」
「え、れ、零一………」
「あ~、その、なんだ。たまにはこっちに来て夕食でも作ろうかなって思っただけだぜ。いや、たまには、一緒に食事をするのも悪くないって思っただけだぞ。別に、一人がさびしかったわけじゃねぇ」
「もう、強がってさ」
「そりゃお前のほうだろ。満にわざわざ頼むなんてよ」
「な、何のことかしら。私は知らないわ」
「はっ、言ってろよ。さて、今日はハンバーグでも一緒に作るか」
「え、う、うんっ」
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夏の暑さは今まで通り。もう少しで夏休み。まぁ、今度の祭りに佳奈でも誘って行ってみるとしようか。
笑いながら一緒に夕食を採る『家族』を見てそう思った。
これで最終回…そう言えたらよかった。昨日、電柱の上にカラスがいました。なんとなく、嫌な予感がして車道の真ん中を通って避けると…自分が本来通ったであろう場所に白いナニカが降ってきました。季節ハズレの雪でしょうか…。五月十九日水曜、八時四十四分雨月。