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第百六十九話◆朱莉編:愛の巣と指きり

第百六十九話

 合宿中、朱莉は俺につきっきりだった。

 部屋の割り決めだってかなり、おかしい。

「え、なんで俺と朱莉が一緒なんだよ」

「仕方がありませんよ、部屋数が足りなかったんですから」

 一人用の部屋に二人で泊まらなくてはいけないという事態。当然、一人用のベッドだが大きさはダブルベッド級だったりする。

「これなら、二人で寝れますね」

「…………マジかよ」

 まぁ、当然荷物を置くだけで今度は夕食時間。

「零一君、はい、あ~ん」

「あのな、俺は一人で食事ぐらい出来るぞ」

「そんなの、わかっていますよ。愛を深めるためにやっているんです」

 周りの生徒たちは俺たち二人をなんだか違う世界の生命体のような目つきで見て居やがった。ちくしょ~、見世物じゃねぇぞ。

「零一先輩、不謹慎ですよ」

「そうですよ」

 澤田、剣からそう言われる。

「ほら、二人もそう言っているぞ」

「あたしたちよりも若いですからね」

 なんだか悟ったような顔つきでそういう。そんな朱莉の態度に対して澤田と剣は俺をにらんでいた。え、なんで俺が睨まれるんだ。

 そして、お風呂。さすがに風呂は男子と女子にわかれているためにどうしようもなかったわけだが、俺たち二人の部屋には風呂が備え付けられていた。

「あたしたち二人は残念ながらここです」

「えぇっ、広い風呂に入りたいっ」

 大浴場があるって言っていたのにっ。天然だって言っていたのにっ。

 その旨を伝えるとなぜか、朱莉は笑っていた。

「安心してください、あたしもたまに天然が入っているっていわれるときがありますから」

「そっちの天然じゃねぇよっ」

 抵抗むなしくずるずると朱莉に引きずられて脱衣所へと連れて行かれる。くっ、きっと心の中では『朱莉とお風呂っ。げっへっへ、ラッキー』とか思っているからこんなにずるずると引きずられるんだろうな。心の中の悪魔め……。

「さ、服を脱ぎましょうね」

「やめろっ、服ぐらい自分で脱げるわっ」

 俺も男だ。こうなったら覚悟を決めるとしよう。

「タオルはつけろよ、絶対にっ」

「わかってますよ」

 若干、俺をからかっているようだ。

 さっさとタオルを腰に巻く。もちろん、朱莉のほうを見たりはしていない。心の中の悪魔が『嫁さんの一糸纏わぬ姿を見ちゃえよ』と言ってくるが………ん、よくよくみたら心の中の悪魔、白い翼だ……こいつ、もしかして天使のほうかよ。じゃあ、俺の心の中の悪魔はどこだ………『まてぇいっ、もしかしたらもっといい女が彼女になるかも知れんぞ』ってこいつかよっ。言っていることが朱莉に対して失礼だが、悪魔だから仕方ないのかもしれないな。

「さ、行きますよ」

「あ、ああ」

 気がつけばしっかりとバスタオルをつけた朱莉が俺の手をまたもや引いていた。長い髪はあげられてまとめられており、眼鏡も当然はずしている。胸の谷間が気になって気になって仕方がない。

 二人で湯船につかるとお湯が流れていく。ざーっという音を聞きながらため息をつくと隣の朱莉が笑っていた。

「どうかしたのか」

「まさか、二人で肩を並べ、お湯につかるなんて思いもしませんでした」

「俺もだよ」

 誰がこんな展開を考えていたのだろうか。普段から妄想している奴でもこうはうまくいくまい。出来すぎていると否定してしまうはずだ。

「どこかに落とし穴でもあるのかもしれないな」

「どうでしょうね。あったとしても二人ではまるだけですよ」

「はぁ、元気だな、朱莉は」

 その後は特にピンクな出来事が起こらなかった。なんだか、朱莉の積極性がなくなった感じがするのだ。逆に『え、何もしないのかよ』っと天使がつぶやくぐらいだった。

 二人して置かれていた浴衣に袖を通す。重ねて言うのだが、何もなかった。

 そして、適当に話していると就寝時間がやってきた。

「じょ、冗談抜きでお前が隣か」

「ええ、隣ですよ。役不足ですか」

 くしで髪の毛をときながら横になる。俺もそれにならうことにしたが、その前に朱莉に待ったをかけられた。

「電気、消してください」

「あ、ああ」

 電気を消すと本当に真っ暗でわからない。なんとか横になると隣のほうからため息が聞こえてくる。

「今日はここまでです。指切りしましょう」

「え」

 どういう意味だよと言い返そうとしたがそれよりも先に朱莉が口を開いたようだ。

「後、十秒以内にあたしに指切りしてください。もちろん、一発勝負ですよ」

 愉快そうにそういう。

「あのなぁ、こんな暗い中出来るわけないだろ」

 そういって小指を立てて暗がりで振り回す。すると、絡んでくる小指にあたった。

「あ、出来ましたね」

「本当だな、まさか出来るとは思わなかった」

 指切りのまま、少しの時間が過ぎると寝息が聞こえてくる。俺も眠ることにしよう。



―――――――――



 健全な男子生徒ならば隣に女子生徒が眠っているならば何かやらかしそうだったが俺は疲れていたためにそういったことをやろうとは思わなかった。

 気がついてみれば朝になっていて、目の前に谷間があろうと俺はあくまで冷静を装うさ。そして、目を閉じよう。これは夢だ。

 せめて、朱莉が目を覚まして急いで着替えてくれるまで瞑っていよう。


ね不足です。好きな動物はずみ、好きな文房具はりけし、好きな女性のタイプは年上のおえちゃんです。ああっ、本当にね不足ですっ。むい、むい。こんなくたびれたあとがきを書いている時点で疲れているとわかるでしょう。ええ、でも、負けるわけにはいきません。次回はやっぱり佳奈編になるかと思われます。全員の序章が始まった時出来れば感想を頂けると嬉しいですね。よし、ね不足解消。五月十六日日曜、八時二十九分雨月。

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