第百六十七話◆朱莉編:海、パンツ、ふんどし、パンスト
第百六十七話
初夏なんてとっくに終わって七月。一年生は今年から夏休みに入るちょっと前に友好を深めるために山へと向かうそうだ。何で山なのだろうかと首をかしげ、先生に尋ねたのだが『校長が決めたことだから』と言われた。
生徒会の連中が説明をするということで体育館に集められる。壇上では生徒会長が一生懸命説明しているがそんなもの俺は聞かなくていいので知り合いを探していた。
竜斗がいて、その近くには何故か、朱莉がいた。竜斗がいるのは別にいいのだ。大体あいつは生徒会なんだからいたって不思議じゃないし、いないと逆に変だ。朱莉は生徒会に入っていないと思っていたのだが何であんなところにいるのだろう。
集会が終わり、俺は教室へと帰る列から抜けだすと朱莉のところへと向かった。
「なぁ、なんで朱莉がいるんだよ」
「ああ、それはあたしも今度の研修に参加するからですよ」
大きな丸メガネを光らせながらそういった。
「そうなのか」
「ええ、ゴミ拾いってことになっていますけどね」
なっていますということは何か裏があるのだろうか。不思議に思っていると顔を近づけられる。
「提案があるんです」
「あ、何のだ」
「今度の山研修、あたしと一緒に行動してくれませんか」
「ははぁ、何か企んでるな」
竜斗のほうをちらちらとみている。奴は生徒会長と何か話をしているようでこちらの話を聞いていないようだ。
「まぁ、その時になったら詳しく話します」
それだけ言って去ってしまった。しょうがない、今から朱莉に問いただしてもどうせ答えてくれないだろうしその時を待つことにしよう。
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合宿だか、なんだか知らないがとりあえず泊まりに行くのだから必要なものを買い足さなくてはいけないということでパンツを買いに行くことにした。いや、パンツ以外のものはあるから大丈夫なのさ。
駅前の安い衣料品店にやってくると見知った顔を発見した。
「あれ、澤田じゃんか」
「あ、零一先輩。どうしたんですか」
その手には水着が握られている。ふむ、そういえば合宿中は海に遊びに行くとも言っていたような気がしないでもないな。去年は海に行ったときパンツを忘れるというお馬鹿なことをやらかしてしまったからなぁ。ノーパンツライフはもうこりごりである。目の前に海があるというのに泳ぐことができないという残念な話。そういえば、夏休み開けたらプールの改修工事が終わるっていっていたっけなぁ。
「俺はパンツを買いに来たんだよ」
「え、ブリーフですか」
「いや、トランクス」
「ええっ」
やたらと驚いているようだがいったい、どうかしたのだろうか。
「何だ、どうかしたのか」
「男は黙ってブリーフだってパパが言ってましたよ」
もはや顔も思い出すことのできない澤田パパが俺の頭の中で手を振っている。
「いや、パンツの好みは人それぞれだろ」
「そうですけど、で、でも、これを機にブリーフに………」
そういって俺にブリーフをさしだしてくる。しかも、赤い。
「いや、俺は………」
「零一君、零一君には意外とふんどしも似合うかもしれませんよ」
どこからわいて出てきたのか朱莉が手にふんどしを持って立っていた。おいおい、ここってふんどしも売っているのかよ。
「大体、なんで朱莉がいるんだよ」
「夏樹ちゃんと一緒に水着を買いに来たんですよ。あたしはちなみにトランクスのほうが見るならいいかと思います」
「むっ、ブリーフですっ。零一先輩にはブリーフしか似合いませんっ」
「夏樹ちゃん、向きになっても状況はかわらないと思います。想像してみてください。頭にブリーフをかぶった零一君と、頭にトランクスをかぶった零一君を」
「待った、お前はなんで俺の頭に下に履くものを装着させるんだ」
「ちなみに、男もパンストをつけますよ」
「嘘つけよ」
「頭にかぶって銀行へ行くんです」
やれやれ、ここにいると頭がどうにかなっちまいそうだ。澤田のほうをみると先ほど朱莉が言ったようなことを想像しているようでもなさそうだった。
「零一先輩、これ、付けてください」
「ん、トランクス………」
よく見るとでかでかと文字が書かれている。しかも『俺のパンツはお前専用』と書かれている。いったい、どこのだれが作ったんだよっ。
結局、意味不明なパンツを買わされ、俺はため息をつきながら帰宅することになったのだった。もちろん、準備からして大変な状態なのにいざあっちに行って意外と楽だったと思える事は皆無といっていい。
更新するのが遅かったのは今回の話が異様に短かったからですね。朱莉が零一にあう、終了といった具合です。さすがにこれは短いだろうということで読み直し、やり直しだったというわけです。次回も朱莉編、続きますよ。五月十四日金曜、二十二時九分雨月。