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第百六十四話◆剣編:添い遂げる剣

第百六十四話

 うだる様な暑さで目を覚ますものの、夢の世界と現実世界を行ったり来たりする朝の時間。きっと母親が俺を起こしに来ているならば間違いなく、あと五分だけ寝かせてくれぇと言っていただろう。

 くだらない考えをうつつを抜かしながらしていると優しく揺さぶられる。

「一先輩、朝ですよ」

「あと五分だけ~」

 友人の妹である剣の声が聞こえて、もう一度身体を揺さぶられる。はて、いったいぜんたいなんで剣の声がするのであろうか。

 驚いて顔をあげると隣には正座をして、黄色いエプロン着用の吉田剣その人が座っていた。

「いつまで寝ているのですか。起床時間は既に過ぎていますよ」

「そうなのか」

 時計を探して時刻を確認してみると確かに、いつも起床する時間よりだいぶ遅れているようだった。しかし、遅刻をするような時間ではないのであわてる心配はない。

 あくびを一つ、拵えると隣の剣が立ち上がった。

「朝食はできていますから顔を洗って来てください」

「あいよ」

 剣の後を追って俺は自室を後にする。暑さのせいであまり寝たような感覚がないが、朝食を作る手間が省けたのでうれしいものだ。いやぁ、剣の料理を食べる日が来るなんてなぁ。

 洗面台で顔を洗うことによってほてっていた顔が水のしぶきを浴びて覚醒していくのを感じる。目の前の鏡を眺めると冴えない自分がそこにいた。俺の髪型はいつものようにぼさぼさだ。ちょっとは髪型に気を配ったほうがいいのかもしれないがどうせ、彼女なんていないから身だしなみなんかに力を入れたところで意味なんてないだろ。自分を格好良く見せたいというのならバンジージャンプでもやれと俺は言いたい。きっと男が上がると思うぜ。

「一先輩、いつまでかかっているのですかっ。朝食が冷えますよ」

「わりぃ、今行くわ」

 せかされて朝食へと向かうことにする。俺の髪型については彼女が出来てから考えるとしよう。

 朝食の用意されている部屋に入ると味噌のいいにおいが漂ってくる。

「うまそうだな。メニューはなんだよ」

「見ての通り、お味噌汁に焼き魚、白飯、漬物ですよ」

 湯気を立てながらお茶を入れているのだが、暑い中熱いお茶を飲みたくないと思ってしまう。

「なぁ、麦茶はないのかよ」

「先輩は私が入れたお茶が飲めないというのですか」

「いやいや、そういうわけじゃないぜ。うん、暑い時に熱いお茶を飲むのはよくあることだよなぁ」

 朝から怒らせるのはいろいろとよろしくないであろう。前に置かれたお茶を一気飲みしようと頑張った。

「あっちぃっ」

 もちろん、できなかったので吹き出してしまい、その挙句にこぼしてしまった。

「ああ、もう、何をしているのですか」

 俺の隣までやってきてせっせと濡れた個所をふいてくれる。ありがたいがなんだか恥ずかしい思いにさらされてしまう。

「も、もういい。そろそろ食べないと遅刻するかもしれないだろ」

「そうですね、食べましょうか」

「いただきます」

「頂きます」

 剣が作った朝食はどれも平均を上回る様な出来で合格点だった。特に味噌汁に関しては文句なしにうまかった。

「剣、おまえ料理がうまいんだな。味噌汁に至っては作り方を教えてほしいぐらいだ」

「それは簡単です。愛情が入っているからですよ」

 危うく、吹き出しそうになった。

「げほっ、あ、愛情っ」

 いや、吹き出してしまったと訂正しておこう。

「そうです。料理を作る時は食べてくれる人のことを第一に考えて料理をするものでしょう」

「なるほどなぁ、言われてみれば確かにそうかもしれねぇ」

「しかし、あくまで愛情は最後の調味料ですからそれまでの工程をしっかり踏んでおかないと味は半減してしまいます」

 もう一度味噌汁を飲む。ふんふん、なるほど、愛情が必要なのか。

「他に何か知りたいことはありませんか」

「ああ、そうだ。もうひとつ聞いておくわ」

 俺は箸をおいて剣をしっかりと見た。

「お前、なんで此処にいるんだよ」

「え、何を言っているのですか。一先輩が言い出したことですよ」

 俺は一生懸命、思い出すことにしたのだった。


朝からついてないことばかりで大変です。この前パンクしたのにまたパンク…前回は後輪で次は前輪…。とても大切な(会社なら会議、学生さんならテスト)ものがあるというのに…仕方ないから交通機関で移動しようと試みるも、目の前で発車…かれこれあとやく二十分待ちぼうけ。五月十一日火曜、八時十一分雨月。

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