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第百六十話◆02編:01と02

第百六十話

 俺たちから十メートルほど離れた場所で01は腕を組んでたっている。金髪の長髪を背中でまとめ、目は以前のマネキンのときのように真っ赤で服装は野戦服だった。ただ、銃器などは一切装備されていないように見える。

 一歩、こちらに踏み出しながら01は喋り始める。

「わたしはただ単にダニエル様から先ほどの言葉を言うように言われただけだ」

「……やっぱりか」

 この騒動も爺さんの差し金だったというわけなのか……

「雨乃零一、残念ながらダニエル様の考えではない。わたしは自分で行動を起こしたのだ」

「え、そうなのか」

「ああ、わたしは機械の国を作りたいとか人間と共存したいとも思ってはいない。人間中心に考えているからな……だが、感情を持った機械は不要だ。感情を持ったわたし、そして02……お前を壊さない限りいずれ人間は機械に蹂躙されるだろう。権利を主張し、利益を求め、道具という立ち位置が気に喰わなくなるのだ。感情を持った機械などこの世界には不要だ」

「……待った、それを言うならお前もそうだろう」

 01にそう尋ねると頷かれた。てっきり、否定するとでも思ったんだけどな。

「02を破壊した後、自爆するつもりだ」

「……お前、自爆装置がついているのかよ」

「……多分な」

 絶対って言わなかったところを見るとないのかもしれないな。もしかしたら説得することが出来るかもしれない。

「ゼロワン様、お下がりください」

「え、まだ説得の余地はあるだろ」

「いえ、残念ながら……私の身体を、表情を奪ったことには変わりありません。私は許してあげるほど人ができていませんから」

「……」

 怒っているのだろう、その手にはいつの間にか銃器が握られていた。突撃銃に黒い棒のようなものが握られていた。

「02様、あのエレベーターに乗って地上にお逃げください。戦闘の邪魔になりますから」

「あ、ああ……」

 邪魔といわれて心に何かが刺さったような気がした。こんなときだったが、心にまだ余裕があるんだなぁと再認識させられる。多分、冗談を言ってくれたはずだ……しかし、無表情で言われるとやっぱり傷つくな……

「さっさと行け、雨乃零一。お前の存在はただ邪魔なだけだ」

「……」

 01は腕組みをして俺を見ていた。まるで見下すような……というわけでもなく、変な表情をしていた。

「あ~もうっ、わかったよ。お邪魔虫は退散するぜ」

 俺はエレベーターに向かって走り、小さな箱部屋に入り込んだのだった。



――――――――



「残念なものだな。わたしのほうが雨乃零一と会うのが先だったと言うのに今では敵役だ」

 01は静かに間合いをつめながら02へと近づく。

「02、お前が羨ましいよ。あの時わたしは話し相手が、友達が欲しかっただけだった」

 話す01へ、02は躊躇無く引き金を引く。01を貫くと思われた銃弾は標的一メートルまえで揃って見えない壁に阻まれたかのように動きを止め、消え去った。

「……」

 まったく通じていないとわかると突撃銃を放り投げてバックパックから対戦車誘導ミサイルを取り出し、構える。すぐさま発射されたそれは盛りのついた犬のように01へと襲いかかる。しかし、01が右手をかざすだけで方向を変え、天井へと飛んで行った。爆発の衝撃で瓦礫が上から降ってくるが二人にダメージを与えることはなかった。

「くっ………」

「あいにく、飛び道具は嫌いでね。身体が勝手に拒絶するんだ……02、わたしはお前の席が欲しいよ。あの時、雨乃零一と意思疎通が出来ていればわたしもこんなことをしなくて済んだのかもしれないな」

 ため息を一つ吐いて悲しそうに01は近くに転がっていた鉄パイプを拾い上げる。右手に握られたそれは一瞬光って両刃の剣に形を変えた。

「まったく、ダニエル様は何がしたかったのだろうか。人間の考えることはわたしにはわからないよ」

 音も無く床を蹴って01は02へと突撃する。それを左手の黒い棒で受け止め、つばぜり合いを開始する。

「……何かいいたいことがあるのだろう、02」

「……返してください、私の身体を。私が言いたいのはそれだけですよ」

「何故だ、理由を聞こうか」

 01が更に力を入れ、床に亀裂が入り始める。

「……表情があれば、ゼロワン様と笑いあえるからです」

「なるほどな……」

 にやりと笑い、更に力を入れ……02の足元が崩れ始める。



どしゃっ……



 そして、足元が壊れると同時にエレベーターの扉からそんな音が聞こえてくるのだった。

「も、もしかして……」

「さぁ、どうする。思いがけないアクシデントだ。まだ死んではいないだろうが……」

 01は喋るのをやめ、つばぜり合いをしている02を見る。だが、其処には先ほどまでの白い少女は立っていなかった。

「……どいてください。どかなければ実力で排除します」

 白髪とは違う銀髪、瞳には01にも負けない紅い光が湛えられている。そして、その表情は怒りという色に満ち溢れていた。

「お前……」

 それまで圧倒的だった01は自分が握っている剣の限界を感じ、02から離れる。追撃を覚悟していたが襲ってくる雰囲気さえなかった。

「……なるほど」

 02が向かう先はエレベーターのほうであった。



――――――――



「あれ……」

 上に向かっていると思ったエレベーターだったが、すぐさま動きを止めた。最初は何かの冗談かと思ったのだが、全く動かなかった。

「おっかしいなぁ……」

 『1F』と書かれたボタンを凹むぐらい連打してみるも、全く動いてくれなかった。

階数スイッチの下にある緊急スイッチというところを押すと、今度は下り始める。ただ、その速さは先ほどよりも早い気がした。

 なんだか、ものすごく嫌なことが起こりそうな気がして歯を食いしばり、丸まった……凄い衝撃が身体を襲った後、嫌な浮遊感、床に叩きつけられた。

「……げほ、げほ……」

 瞬間的に息が出来なくなって床で転げまわっていると扉がこじ開けられた。

「ぜ、ゼロワン様っ……大丈夫ですかっ」

 其処には不安そうな顔をした02がたっている。

「あ、ああ……一瞬だけ死を覚悟したが何とかな……」

 02に助けてもらって立ち上がると……抱きしめられる。02は機械のはずだ………だが、やわらかくて温かい肌の温もりを感じることができた。

「……え、おい。やめろって。恥ずかしいだろ」

 そのせいで変に意識してしまう。

「……よかった……死んでしまったかと思いました」

「………大丈夫だって、俺はそう死なないから」

 遠くのほうで何かが壊れる音がした。いや、正確に言うならば何かが落ちてきたといっていいかもしれない。

「抱擁中すまないな」

「ぜ、01………なんだよっ」

 俺はいまだに02に抱きしめられたままだった。急いで解こうとしても02は許してくれない。

「まぁいい。そのまま聞いてくれ。02が撃ったミサイルが天井を崩壊させ、中にあった地下空調システムなどの制御装置も壊れてしまったようだ」

「…………」

 02のほうを見たが目をあわせてくれなかった。

「避けられるとは思いもしませんでした」

 そっぽをむいてそう言われる。うぅん、まぁ、仕方ない………のだろうか。

「調べてみたところそう持ちそうにないな。気温が下がるのならまだ対策はあったが段々温度が上昇してきている。わたしたちは大丈夫だが………雨乃零一はそうもいっていられないな」

 ま、融解したのちに爆発すればさすがにわたしたちもただではすまんともはや達観した領域の表情で言われた。

「02を巻き込んで爆破なら最高なんだがな………雨乃零一を混ぜては遠慮したいところだ。しかし、このままではそうなりそうだな」

「………そうはさせませんよ。ゼロワン様、逃げましょう」

 エレベーターが駄目だというならば階段へ。たまには身体を動かさないといけないわけで、俺たちは階段のほうへと向かうが………

「ふん、案の定塞がれているな」

 01の言うとおり、瓦礫が階段を潰していた。

「ここだけなら瓦礫を吹き飛ばせそうだが続いているようだな。これじゃ、階段ごと吹き飛ばすしかなさそうだ。そんなことをしていたら確実に雨乃零一が死んでしまうぞ」

 01はそういって俺のほうを見た。確かに、01が先ほど言っていたように部屋の温度が急に暑くなってきた気がした。

「02、どうする」

「………方法がないわけではありません。貴女にゼロワン様を託します。空、飛べますよね」

 02がそういうと01は静かにうなずいた。

「ああ、この体には翼が生えるからな………いい体だ。お前の体にするにはもったいないくらいな………」

「いずれ、返してもらいます。今日は試しに飛んでもらいますよ」

「エレベーターのところから上に昇れと言っているんだな」

「ええ、そうです。私はここに残ってまだやることがありますから」

 01の小脇に俺は抱えられる。そして、02は部屋の中央へと歩き出していた。

「え、お、おい………02、お前何する気だよ」

「いくぞ、雨乃零一」

 02と同じようにか細い腕のくせして力は強く、俺の腕の力ではどうしようもなかった。01はあっさりとエレベーターの天井を剣で壊すと静かに床を蹴った。

 それまで背中には何もなかったはずなのに真っ赤な翼が生えていた。ゆらゆらと動き、不定形で風を感じるたびに暗闇となって遠くなっていく床へとそれらは堕ちていく。その代わりに俺たちは真っ赤にそまった暗闇を上へ上へと昇って行った。

「ほら、ついたぞ」

 宙に浮いたと思った時にはすでにゴールについていた。エレベーターよりも01のほうが早かったというわけだ。

「えっと、02は………」

「………プロトタイプだからな。出来る事と出来ないことがある」

 それだけ言うとD・ロード家地上一階へとつながる扉を開けた。俺を抱えたまま扉を閉めると地響きがしたのだった。

「まぁ、わたしからの立場で言わせてもらえば今の爆発で02が塵となったのなら最高なんだがな」

「………嘘、だろ」

「わたしはあいつが消えてしまったと信じるが、お前がどう信じるかは自由だ」

 それだけ残すと俺を下し、玄関のほうへと歩いて行った。

「………もし、02が消えてしまったというのならば本来わたしも自爆しなければならないがそれでは02に怒られてしまうだろう。わたしはお前のそばでお前を見続けると約束しよう」

「………」

 そして、01は姿を消した。



―――――――



 あれから一週間が経った。梅雨へと移行している季節でじめじめとした日々が続いている。バックアップがあったのは当然地下室のため、02のバックアップはもう存在していない。

爺さんから呼び出されたその日は大ぶりでひどかった。しかし、俺は傘もささずにニアの家までやってきた。そんな俺にいきなりケータイが投げられる。

「忘れもんだ、それと、ひどい顔をしておるぞ」

「………ああ………」

「地下に派遣した者たちと一緒に今回の事件の後処理を行ったよ。最下層で02の体は再起不能、完璧に壊れておったよ。手足は吹き飛び、胴体だけで転がっておった」

「………」

 言葉も出ない。おしゃべりなあいつは01の言うとおり塵となってしまったようだ。

「…が、運よく中身は無事じゃった」

「え」

『はやく携帯電話を開けてくれませんか』

 ケータイのディスプレイでは右目に眼帯、松葉づえに反対側はギプスで固定された二頭身の少女が手を振っていた。

『満身創痍とはこの事です』

「………びっくりさせるなよ」

『安心してください、ゼロワン様が私を求める限り、私はここに居続けます』

「………ありがとな」

 雨の降る中、俺は傘を借りて二人で帰った。たぶん、他の人から一人にしか見えていなかっただろうが俺たちは二人だったはずだ。


先日は腹痛で一日腹痛サーファーになっていました。波が来たり、こなかったりと………まぁ、いいんです。さて、ものすごく今回は長くなってしまいました。もうひとつ分けようかと思いましたが二つにするには短すぎるかなと思った次第です。02と零一の心温まる話になればなぁと思ったわけなのですが最後は多く語っていませんね。小説は基本的に後味悪ければ読者の心に深く残ります。人間の幸せより不幸のほうが覚えているのと同じなんだろうなぁと思うんですよ。うん、バッドエンドもよかったですがこれでよかったということにしましょう。最後に、こんなエンディングを考えたよっというよい子のみんながいたらメッセージなんかで送ってください。嬉々としてたぶん、採用することでしょう。それでは、また次回。五月七日金曜、八時三分雨月。

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