第十六話◆:雨と放課後
第十六話
こんな日に限って携帯電話を忘れてきてしまっていた。まったく、自分が不甲斐無いぜ。空から落ちる恵みの雨は当分、施しをやめてくれそうに無かった。きっと、今日明日、明後日程度は降り続きそうな感じだな。
「……はぁ」
どうしたものだろうか。この高校にも警備さんがいるよなぁ……いなかったら一日ここでぼーっとしてないといけないってことだな。空が晴れていれば屋上から助けを求めることだって可能だろうが校庭で部活をやっていた連中も全て非難しているためにどうしようもない。
ガチャリ……
うーん、やっぱり……あれか。扉を壊して校内に戻るしかないかな……壊すぐらいなら大丈夫だろう。たとえ、それが鉄製の門だったとしてもこのまま行方不明にされるのは面倒だ。
「零一、お前こんなところ何やってるんだ」
「のわっ」
転び、声の主を確かめる。
「に、ニア……」
其処にいたのは俺と同じぐらいぼろぼろの学生服を着た女子、ニア・D・ロードだった。整ったその顔立ちが一瞬だけ天使に見えた。
「ニア……お前、どうしてここにいるんだよ」
「帰ろうと思ったら零一が屋上にいるのが見えたから来ただけだぞ……ところで、屋上で何してたんだ」
「……置き去りごっこだ」
「ごっこ遊びか……それってニアは知らない遊びだな。どんなのだ」
「……一人がもう一人を置き去りにして、日付が変わる前に助かれば置き去りにされた奴の勝ち、助けが来なかったら置き去りにした奴の勝ちって非道なゲームだよ」
「よし、ニアもやるぞ」
「お前はやらなくていいよ……はぁ、ともかく助かった、ありがとう」
不思議そうに首をかしげていたが頷いた。
「お安い御用だ。ニアはただ扉を開けただけだからな」
「ああ、鍵もついでに開けてくれたんだろ」
「いや、ニアはひねって押しただけだぞ」
こうやったんだ、そういって実践してくれる。
「え、鍵とか……かけられてなかったのか」
「だから、かけられて無かったってニアは言ったぞ。ニアを疑うのか」
「い、いや、それならいいんだ……」
もしかして、だまされたのか……もしくは俺の勘違いかもしれないな。ともかく、助かってよかったぜ……
「よし、これからニアと遊ぼうっ」
「……その、悪いんだが今日は帰る。ちょっと疲れたからな。また今度遊ぶから…な、それでいいだろ」
そういうと不貞腐れたようで頬が膨らんだ。本当、変にガキっぽいところがあるな。見た目はすごくアウトローな感じなのに。
「わかった、だけど約束破ったら……」
拳を俺に向ける。
「わかったよ、嘘はつかないから安心しろっての」
「よし、それなら帰ろうっ」
―――――――
「ん、どうした零一っ。来ないのか」
「え、いや……あのだな、俺、傘忘れたから雨が止むまで待つから先に帰っていいぜ」
「む、ここにニアの傘あるぞ」
そういってニアは自分の傘を指差す。
「そうだけどよぉ……」
それって相合傘ってやつじゃあ、ないですか。いや、ね、確かに女子と相合傘っていいけど、嬉しいけどさ……
「ほら、こい。友達だろ」
「……わかったよ」
俺は、覚悟をきめることにした。
「やっぱり、帰り道は二人のほうが楽しいなっ」
「そうだな~(棒読み)」
「ん、なんだか零一元気ないぞ」
「そんなことないぞ~、とっても元気だ(棒読み)」
「そっか、それなら大丈夫だな」
男子生徒の視線が痛い。あの野郎…とか言っている連中の顔も見たくないな。こうなったらいっそのこと傘から逃げたほうがいいかもしれんな。
逃げる。
→居座る。
人生万事うまくいかないものなんですねぇ。そんなの最初からわかっていましたがせめて、自分の体調管理ぐらいうまくやりたいものです。虫歯で親知らずをぬかないといけないってどういうこったぁあああ。歯医者は怖くないが、親知らずをぬくってどういうこったぁっ。これは、これはぬいたものにしかきっとわからない……まだ、ぬいていないから雨月はわかりません。ああ、人生万事うまくいかない。クスリで散らしたり出来ないのだろうか…二月二日火曜、十四時二十七分雨月。