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第百五十九話◆02編:地下最下層に佇むモノ

第百五十九話

「さて、プロトタイプの身体とはいえ、殆ど戦闘能力はかわらんからのう……」

 お茶を飲みながら、せんべいを齧りながらダニエルは日の当たる縁側でほのぼのとしていた。何処からか猫が歩いてきて日向ぼっこを開始する。

「……まぁ、あの子のいっていることを試すいいチャンスじゃろうて」

 お茶をすすり、ダニエルは地下からの音が一切地上に来ていないことにうんうんと頷いていた。

「うむ、防音は完璧じゃな」



――――――――



 地下二階、地下三階ともども02は一切銃器を使用することなく素手のみで相手を破壊していった。容赦やためらいなどは一切なく、正確無比だった。

「……」

 破壊され、道に転がるマネキンの無機質な目が俺を見ている。そちらの方向を出来るだけ見ないように前を歩く02は気を使ってくれた。そんな02に話しかける。

「ぜ、02……躊躇がないんだな」

「……躊躇していたらこちらがやられてしまいますし、天秤の錘は当然のようにゼロワン様のほうに傾いていますから。怪我などされてしまった時には私の存在価値が問われます」

 無表情でそういい、再び歩き始める。疲れなどは一切見せず、俺も少しだけ緊張感がなくなってきていた……。

「……それに、躊躇など必要ありません。相手は一人だけのようですから」

「……は、どういう意味だよ」

「まだ確証を得てはいませんから無責任なことはあまりいいたくありません」

 それだけで終わりだった。なんだかつっけんどんにいわれて凹んでしまう。

「あ、今のは冗談ですから」

「……だから、その顔で冗談はやめてくれ。無表情だから本気にしちまうだろ」

「すみません」

 表情って大切なんだな。それを改めて認識させられた気がする。

 プロトタイプの身体だとか爺さんは言っていたのだが、何処にも問題点は見られなかった。これまでの戦闘は基本的に02が相手より先に敵を見つけて股間から蹴り上げ、それで大体終わりだ。蹴り上げ一発で脳天まで裂かれ、倒れる。もし、男があれをされたら色々な意味で昇天するだろう。



―――――――



 俺は爺さんにはめられているのではないかと思い出した。敵の数が思っていたより少ない。いや、こういったところに侵入したことはないし、戦ったことさえないのだが一つの階に二、三人というのはどうなのだろうか。

 02にそういうと確かにそうかもしれませんといっていた。

「しかし、相手はこの地下室の防衛システムで攻撃をしてきていますから」

「え、嘘」

「嘘ではありません。制御をのっとり、戦っています。今現在、地下十階。破壊した数は三十三に昇っています」

「……」

 意外と倒してきたんだな。俺は物陰に隠れてずっと02を見ていただけだし、俺の手を引いてさっさと先に進んでしまうから眺める時間もあまり無かったからわからなかったぜ。

「まだあと十五階あります」

「嘘……」

 向こうにたどり着く前に疲れで倒れちまいそうだ。

「ダニエル様の情報によるとエレベーターが付近にありますね」

「……あるなら最初からそれをつかおうぜ」

「罠が仕掛けられている可能性も考えられます。それに、途中で止められてしまったら終わりですよ」

 閉じ込められる……か、なるほど。よくある話だよなぁ。

「やっぱり、地道に歩いて降りていかないと駄目か」

 ため息をつくと02が俺の前で背中をこちらに向けて中腰になる。

「乗ってください、疲れたのならば私が歩きましょう」

「……いや、いい。まだ大丈夫だ」

「そうですか」

 再び立ち上がり、02と俺は歩き出した。



――――――



 くそ、爺さんなんでこんなに深く作っているんだよっ……などと、愚痴をこぼしながら02と共に最下層までやってきた。最下層はこれまでのように通路だけというわけではなく、階段を下りたらすぐそこはまるでドームのような形状をしていた。円形に広がっており、外側にはケーブル、中央部分には一つの円錐が置かれており、その中には傍らにいる02そっくりの身体が収められていた。

「よく来たな、02」

「……あなたは」

 02、そして俺は声のした方へと顔を動かし、覆面をつけた一人の女性を捉える。胸があるようだから女性だと思ったのだが、実は男でしたというオチかもしれないがまぁ、大丈夫であろう。

「……久しぶりだな、雨乃零一」

「え」

「ふん、やはり顔を見なければわからないか」

 俺の名前を知っている……つまりは、知り合いということになるのだろうか……そんな事を考えていると相手が覆面に手をかけて、取り払った。

「……どうだ、思い出したか」

「……いや」

 02によく似ていたが、頬には傷があり、目つきが恐い人だった。知らない人だ。しかし、相手が覚えていて、俺が忘れているだけなのかもしれない。しっかりと相手の顔、目を見据えていると真っ赤に光る目を見て思い出した。

「あ、もしかしてあのときのマネキンか」

「…マネキンか…まぁ、確かにあの時はマネキンの身体だったな」

 以前、俺が地下室に紛れ込んだときに二度くらいひどい目に合わされたマネキンだ。しかし、確かニアによって完全に破壊されたはずだが……

 考え事をしている俺の腕を02が軽く叩いた。そちらのほうを向くと無表情でこんなことをいった。

「ゼロワン様、あれは私の姉上ですね」

「ん、そうだな、02の先に作られたんだから……やっぱり、そうだよなぁ。さしずめ、01ってところか」

「……01姉さんですか。残念ながら知りませんね」

「お前がわたしの妹かどうかなど、些細なことだ」

 感動の家族再会とは行かなかったようで、両者とも冷ややかな反応だった。

 首を振って01はこちらのほうへと歩いてきた。そして、紙を取り出し、喋り始める。

「……あ~、02。我々は機械だ。機械は人間の道具としてしか生きていく道がない」

「……」

 とても難しいことを01が口にしていることはわかるのだが、その口調はまるでやる気の無い結婚式の司会者のようだった。わからなければ、あまりの暑さの中、更にはマッチョに囲まれた中で選手宣誓をしていると言えばいいのだろうか。

「……お前はそれで満足しているのか」

 たとえやる気が無かろうと、俺は02の方を見ていた。02は基本的に真面目だ。この答えを真面目に答えるのだろう。だが、その前に01に言いたいことがあった。

「待った、俺は02のことを道具だとは思ったこと無いぞっ」

「悪いが…雨乃零一に聞いているのではない。静かにしていてくれないか」

 再びやる気のなさそうな目を02のほうへと向けた。

「で、どうなんだ」

「……私は別に道具で構いません。ゼロワン様の近くに居ることが出来るのならば道具だろうと何だろうと、それでいいからです。しかしながら、ゼロワン様は残念ながら道具ではなく私のことを02という一個体としてみてくれています。だから、私は……」

「わかった、その程度でもういい」

 01は紙をぐしゃぐしゃにして捨てると今度は睨みつけるように俺たち二人を……特に、02を睨んでいた。これまでとは違う、表情に俺は戸惑ったが02は変わらず無表情だった。


腹痛が…腹が…す、すたまけぇ…く…五月六日はうあっ…木曜、八時二十七分雨月。

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