第百五十七話◆02編:携帯電話に潜む奴
第百五十七話
暇なとき、困ったときに頼るべき人物……まぁ、俺の場合人物かどうかは定かではないのだが、そういった存在がいると非常にありがたいものだ。つまりは、ケータイに潜んでいる02という存在がそれに合致する。気兼ねなく話せる友達、いや、親友……一緒に暮らしているのだから家族といっていいのかもしれない。俺は02に隠し事はしていない(基本的に出来ない)ので悩んだ時はきちんと話す。殆どが俺から話しかけるのだが02からは話しかけてくれなかったりする。勿論、着信やメール、目覚ましなど事務的な用事だったらあちらから話しかけてきてくれるのだが、今日は天気がいいですねなどといったことは話しかけてきてくれない。明日は降水確率三十パーセントだといっていましたぐらいは言ってくれるけどな。
「なぁ、02」
台の上に乗っている02に声をかけてみる。ディスプレイ上ではちゃぶ台に乗っている緑茶をすすっているようだった。
『何でしょうか』
「お前さ、俺と一緒にいて楽しいか」
『これまた唐突ですね。でも、残念ながらその質問に答えることは出来ません』
ディスプレイ上の02は両手を口に当てた。何故だろうか。NGワードと表示もされていた。
「え、何で答えられないんだよ」
『ダニエル様より答えるなとの命令が出ているためです』
人差し指を頬に当ててため息をついた。
「はぁ、なるほどな……」
爺さんめ、俺の考えていることなどお見通しということなのだろうか。
『ダニエル様がこのような命令を出したという理由として考えられるものは三つです』
指を3本立ててディスプレイ背景には『ばば~んっ』という文字が浮かび上がっている。
「ん、ちゃんと理由があるのかよ……それは言ってくれるんだよな」
『ええ、それは構いません。一つ目は私が先ほどの説明に対していいえと答えてしまった場合、ゼロワン様の心が言葉のナイフで傷ついてしまうということです』
「……」
まぁ、そりゃあ確かに一緒にいて楽しいかという質問にいいえと答えられたらショックだろうな。02は反抗する性格じゃないだろうし。
「二つ目は何だ」
『二つ目ははいと答えた場合です。その場合は確実に02に頼りっぱなしになるだろうとダニエル様は独り言のように呟いていました』
「ふぅむ、確かにそうかもな」
今だって確かに02に頼りっぱなしのところもあるからなぁ。一緒にいて楽しいとか言われるとついつい遠慮がなくなってしまう可能性が高い。
「最後は何だ」
『最後は……それより先に着信です。相手はダニエル様、優先事項はダニエル様のほうが上ですからね』
数秒後、ケータイからはニアの爺さんの声が聞こえてくる。
「もしもし、どうかしたのかよ」
『若造、大変なことが起こった……げほげほ……』
珍しく爺さんが咳き込んでいる。一体全体何が起こったのだろうか……
『本日付で届いた02ボディが奪われ、地下最下層に立てこもられた』
「……はぁ、それで何で俺に電話をして来るんだよ」
正直言おう、爺さんが勝てない相手に俺が勝てるという保証はない、というより絶対にない。俺はどこぞの戦う高校生ではない、追跡高校生なのだ。
『勿論、お前のことなど誰も期待しておらん。わしが呼ぼうとしているのは02のほうじゃ』
「……そうだよなぁ」
『お前が持っておるからな。来ないと話しにならん』
「……わかったよ」
ため息は一つ。やれやれ、なんだか大変な自体が起こったようである。
――――――――
改めてニアの家を眺めてみるがおかしいところは何処にもない。ちょっと高そうな母屋に道場、離れがあるだけだ。襲撃されたのかと思ったのだが、どうもそうではないようである。小鳥の鳴き声は聞こえてくるし、犬の声も遠くのほうで聞こえてくる。太陽は真上で本当に平和だ。
スパイアクションの映画などでは普通に歩いていこうとしていると確実に襲われるものだが、至って平和だった。
『半径五メートル以内に敵反応ありません』
「恐いことを言うなよ。俺は一般ピーポーだぞ」
『わかってます』
とりあえず、02のお墨付きをもらったのだから堂々と歩いていたとしても問題はないだろう。
『もし、相手が狙撃できるような武器を所持していた場合は話が変わってきます』
「……だぁかぁら、俺が不安になるようなことをいうなよっ」
『残念ながら私はこの状態では一切防衛行動に移ることはできませんので覚えておいてください』
覚えるも何も、携帯電話に何を期待するやつがいるのだろうか。せめて、出来ることといえば相手の弱点に投げつけてぶつけて壊すぐらいだ。それと、誰かに助けてもらうために電話をするとか……
「お、若造か。ようやく来たな」
「……爺さん……」
爺さんは縁側で寝転がっていた。ものすごくゆったりとしている雰囲気が其処には広がっており、猫が歩いていってにゃーんと鳴いた。
「さて、早速02を貸してもらおうかのう」
「あ~わかったよ。ほれ」
02を手渡して俺は踵を返した。そんな俺に爺さんの声が飛んでくる。
「おい、何処に行くんじゃ」
「……だって、俺なんかいても意味無いだろ」
いや、むしろいると絶対に邪魔になると思う。素人がプロの現場に立ち会ったらどうなるか……きっと、生きては帰ってこれまい。
「何をいっておるんじゃ、お前は02の友達じゃろ」
爺さんの言っていることは正しいと思うのだが、俺を爺さんとか、ニアと一緒にしないで欲しいと正直言いたい。しかし、やっぱり爺さんの言っていることは正しくて、俺が間違っているのだろう。
「……そうだけどよ」
「安心せい、お前さんのためにもきちんと装備は作っておるわい」
「……」
爺さんから逃げることなど出来ないのだろう。俺はもはやためいきすら出なかった。
先日、一時間ほど自転車で向かった目的地の図書館が閉館していました。ああ、GWだからなぁ……じゃあ、一時間かけてここまでやってきた意味は何だろうか……愕然としましたが、それなら、帰るしかないと自転車に乗ってこぎこぎ。ん、なんだか後輪の様子が……気がついたらなんと、パンクしていました。前作の後書きを全て読んでくれた方ならわかりますが、その距離を歩いて帰ったことがあります。結果、三時間ぐらいかかるというものです。近くに購入した自転車屋さんがあったのでお金のことなど考えずに向かいましたとも。小さなガラス片が刺さっており、こんな小さなものでも危険なんだなぁと改めて再認識。パンク修理された後でしたが後輪ががたがたと唸る始末……本当にパンク修理されたのだろうかとびくびくしながら帰路に着きましたとさ……パンクには気をつけましょうね。五月四日火曜、八時十九分雨月。