第百五十四話◆笹川編:メモリ
第百五十四話
ゴールデンウィークもあけて五月となったのだが、あまりいい天気とはいえなかった。
「……」
本屋前にたたずむ一人の女子高生。彼女の名前は笹川栞。文学部系戦闘民族であり、『鉄のブックマーク』という異名を持つ戦う女子高生なのである。
文学部系……という言葉を聞いてどんなことを想像するのかはわからないが、彼女にとって文学部系ということは文に関係するものなら何でもいいと考えていた。細かな違いは今回、置いておくとして彼女はメモリに自分で書いた小説や詩を入れていたのである。普段は絶対に落とすような真似をしないのだが、今日に限ってそれを落としてしまった。今日はちょっと様子が違っていたのだ。
それから数分後、曇り空をものともせず、傘も持たずに栞は上機嫌だった。
「……ふふ」
ようやく買うことが出来たラブコメのライトノベルを嬉しそうに手に持っているのだ。先日、最新刊が発売されたばかりで近場の本屋は全滅していたのである。どうやら、人気の作品だったようで出来るだけ早く読みたかった栞は行ける範囲の本屋全てに連絡をいれ、最後の一軒でようやく手に入れたのである。
駄目な主人公が成績優秀、運動神経抜群、戦闘能力S級の女子生徒に恋心を寄せられるが、主人公が駄目駄目な奴なのでその恋心に気がつかないという話だった。
「帰って早く読もう」
そう呟いても尚、彼女は自分が落とした大切なものに気がついていなかった。そして、落とされたメモリを拾う一人の少年がいたりする。
「……ん」
その少年は留年した少年だった。
―――――――――
「ん~これってパソコンのあれだよなぁ」
パソコンにくっつけてデータを呼び出す何だっけ。外部記憶装置……だったかな。
本屋の前で拾った黒いそれはただただ黙っているだけだった。そりゃそうだ。喋ることなんてないだろうし。
『ゼロワン様、その端子なら私にさせますよ』
「おお、そうか。じゃ、挿していいのか」
さっそくケータイをいじろうとする俺に02が待ったをかけた。
『あ、先に言っておきますがもしかしたらコンピュータウイルスが仕込まれているかもしれません』
「えぇっ」
『先日、戯れに作ったウイルスをネットにばら撒いてしまったとダニエル様が言っていました』
「……」
あの爺さん、何を考えているんだよっ。
『まぁ、それ以外のウイルスなら大丈夫ですのでどうぞ、挿したいなら……挿してください』
「普通に言えよ、普通に……」
端子をむき出しにしてケータイにつなげる。ん、普通のケータイにこういった端子ってさせたっけ……まぁ、いいか。
「で、どうだ。読み込めたか」
『どうやらこれは……詩や小説がぎっしりと詰まっているものですね』
ふんふんとしばらくの間ディスプレイ上で02が唸っていた。さて、しばらくの間って一体全体どのくらいなのだろうか。実際に辞書で調べてみたところ、少しの間、しばし、暫時、当分の間と出てきた。
『なかなか奥深い内容でした』
約二時間、02はうんうんと唸りながらデータを読み取っていたようだ。
「そんなにかかるものなのか」
『いえ、読み込み自体はそんなにかかってはいませんが、何度も何度も文章を読み直し、コピーをして、ついでに添削をしておきました』
「……」
これが一体全体誰のものなのかは一旦おいておくとして、何も書いたことも無い奴に添削なんてされたくないだろうな。
『ゼロワン様、やはりこういうものは落ちていたところにおいておいたほうがいいのではありませんか』
「ん~、まぁ、そうかもしれねぇけどよ。今日の夕方から雨が降るとか言っていたし……」
ちなみに、すでに外では雨が降っていた。
『では、雨が降った後においてくるということですね』
「いや、それはそれでなんだかおかしいだろ。俺がそこに立っていれば誰かが話しかけてくるかもしれないだろ」
『お人よしですねぇ』
「俺はお前のほうがお人よしだって思えるけどな」
勝手に人のデータを読み取ってコピーし、添削までする……お人よしって言うより、お節介だな。
小説を書かなくなって一週間と二日が経ってようやく話が何とかまとまりました。いやぁ、前は授業中に妄想で小説を書いていたんですけどねぇ。たまには違う刺激も必要かもしれないと思ってゾンビをやっつけるゲームを買ってみました。ショッピングモールで三日間サバイバルするやつです。きっとこれですばらしい小説の内容を思いつくはずですね。安泰です。やる気が回復すれば内容なんてすぐさま思いつくでしょうから見ていてください、休載から復活したら早速リミッターを解除して飛ばしていきますから。五月一日土曜、八時零三分雨月。