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第百五十二話◆夏樹編:イタチごっこ

第百五十二話

 結論から言うと、なんだか寂れたような定食屋を澤田が見つけ、此処がいいといったために俺達二人はそこへ入ることにしたのだった。

「また今度零一先輩の手料理は味わいたいと思います」

「まぁ、そうだな」

 俺達二人のほかに客は三人しかいない。テーブル席は埋まっていたために年季の入った畳に陣取る。いぐさの匂いなんてしない代わりに言葉にしづらい匂いがしたような気がした。

 数分後、やる気のなさそうな店長がやってきて俺達二人を見る。

「……えっと、俺はとんかつ定食」

「私はえびフライ定食です」

 店長は厨房のほうへと消えていき、ぼろいテレビではゴールデンウィーク中の遊園地の光景が流れていた。

「何処に行っても人、人、人だな」

「そうですね……ところで、零一先輩」

「ん、なんだよ」

 お冷を口に含む。うん、冷たくておいしいな。

「あの、竜斗先輩とはどんな関係なんですか」

 一瞬、澤田に吹きかけてしまいそうだったが何とか飲み込む。きっと、吹きかけたぐらいでは話を誤魔化すことができないのだろうな。

「……え、あ、ああ、野々村……竜斗ね。友達だな」

 脳内で男子学生服の竜斗が手を振っていた。

「あの、友達ならその、押し倒したりとか……するんですか」

「……」

 さて、何と言おうか……正直に言ったら野々村の面倒なことをだらだらと喋らなければいけないし……ここは適当に言っておこう。

「プロレスごっこだよ、プロレスごっこ。俺らはそれをしていたんだ」

「プロレス……ごっこですか」

「ああ、そうだよ。ほら、小学校の休み時間、男子がじゃれあっているのを見たこと無いか」

「ん、そういえば……見たことがあるかもしれません。でも、もう、先輩達は高校生ですよね」

 いくら何でもしないでしょうと言外に含ませている。

「……うぐっ、い、いやな、竜斗が久しぶりにプロレスごっこをしてみたいって言い出したんだ。しょうがなく、俺も付き合ってやって……」

「で、ほっぺたにちゅうされたということなんですか」

「……事故だ。あれはな、事故だよ、事故。あの後お互いに一生懸命唇と頬をたわしでこすったもんだ」

 あの後、竜斗は夜まで居つきやがった。しかも、俺の部屋に泊まるとか言い出す始末である。

「まぁ、何だ。俺も怖気が走ったもんだぜ」

 嘘をつくのはどうかと思ったのだが、仕方がない。これだけ言っていれば澤田なんてすぐにだませる……

「……」

 最近は物騒だからな。そう簡単に信じてはくれないようだ……完全に俺を疑っている目つきである。

「と、ともかくだっ。なんだか変な勘違いをしているようだが……偶然なんだ」

「心の底からそういえますか」

「ああ、誓ってやってもいいぞ」

「零一先輩って悪意が無いように見えてありますからね。詐欺師です」

 不貞腐れたように澤田にそういわれた。何でだろうか。

「おまたせしやした」

「あ、ほら、料理が来たぜ」

「……」

 店長さんがじきじきに料理を持ってきてくれてこの場は何とか収まった……かな。



――――――――



「じゃあ、昼からどこに行こうか」

 今から何処かに行こうにも無計画だしなぁ。

「……プロレスごっこ、しませんか」

「は……」

 今、澤田が絶対に言わないようなことを言った気がする。

「あのな、プロレスごっこなんて男子と女子がするものじゃないだろ」

 頭の中で竜斗が俺に手を振っていた。

「やっほ~あのさ、零一くん、おれ、女だよっ」

「………」

 オーケー、わかっている。そんなことは本当にわかっているし、お前と俺は過去一度としてプロレスごっこなどしていない。安心しろ、だから俺は澤田に堂々として言えるのだ。

「何か、何か私に隠していることがありませんか」

「え……」

「私の目、見てください」

「ああ、わかった」

 俺はしっかりと澤田の目をしっかりと見た。俺は嘘なんてついていないっ。

「零一先輩、目をそらさないでくださいっ」

「………」

 絶対絶命、四面楚歌、蛇に睨まれた蛙、前門の狼後門の虎……は違うか。

「お、零一となっちゃんじゃないか」

「満……」

「ん、何、そんなに嬉しそうな顔をしてさ」

 いや、まさか満が生まれて初めて天使に見えるとは思わなかったぜ。

 ちらりと澤田のほうを見ると恨みがましそうに満を見ていた。なるほど、やはり俺を追い詰めていたと思っていたのか……

「あれ、もしかして僕はお邪魔だったのかな」

 珍しくそんなことを言う。いつもは呼ばれていないくせして飛び出すのによ。

「少しだけ」

 澤田がここでまさかの肯定宣言。俺は澤田がこんなこと言うの珍しいなぁと思いつつ、満がショックを受けていないか見てみた。

「あ、そ、そうなんだぁ……冗談だったのに凹んじゃったよ……」

 やっぱり、凹んでいたのか……。

「あの、満先輩」

「ん、何さ」

「零一先輩から満先輩の噂はかねがね聞いています……話を聞く上では満先輩と零一先輩は仲が良い親友という印象を受けました」

「そうだねぇ、確かに……ま、僕はどっちかというと悪友って感じだけどね」

「よくもまぁ、自分でいえるもんだな」

「だって、本当じゃないか」

「ま、そうかもな」

「それで、聞きたいのですが……もしかして、零一先輩は男が好きなのですか」

「「え」」

 澤田から凄い言葉が出てきたぞ。そして、満よ……お前は何でそんなに嬉しそうなんだ。

「ぷっ、あははははっ……おいおいおい、零一、大変なことになってるじゃないかっ」

「あ、ああ……確かにそうだな」

「へっへっへぇ、なっちゃん、残念ながら零一は男好きじゃないよ。零一の部屋には……」

 残念とか言うなっ。あとな、それ以上先は言わせんよ。

「あの、何で零一先輩は満先輩の口をふさぐんですか」

 俺の両手をかいくぐり、満はにやっとした。

「ちいっ」

「戦いとは二手、三手先を考えるものだ……なっちゃん、零一の部屋にはなっちゃんのような心が清いお子様が見てはいけない男の神秘がたくさんあるんだよ。それとね、絶対に零一のアパートには一人で行っちゃいけないよ」

「あの、何でですか」

「それはね、なっちゃんがまだ中学生だからさ。飛び級しても君は中学生なんだ。その点、零一は高校生だからね……気をつけなよ」

「馬鹿か、てめぇはっ。澤田に何を教えているんだよっ」

「はっはっは、生きていればまた会うこともあるだろう。さらばだ」

「……あ~もう、面倒な奴だ」

 あいつは救世主にはなることが出来ないだろう。いや、なったというのなら俺が潰す。

「先輩、私……零一先輩の住んでいる場所に行きたいです」

「……」

 俺はため息をついた。


さて、次回でとうとう打ち止めです。ん~そこで、皆様に一つお願いが。この小説の問題点をよければあげてもらいたいのです。自分で考えてもさっぱりなものならやっぱり人に聞くのが一番ですからね。岡目八目とたぶん、一緒のはずですし。感想でもメッセージでも構いませんのでよろしくお願いいたします。四月二十九日木曜、十九時十四分雨月。

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