第百五十話◆竜斗編:売るに売れない、捨てに捨てられない絆
重大発表があります。後書きにて、詳しいことは説明します。
第百五十話
荷物搬入用のエレベーターにて脱出することができた俺たちはそのまま裏口の鍵を開けて建物の外に出る。人が全く通っていない裏路地に面していたため、まだここまで追っては来ていないようだ。
「しっかしまぁ、何とかなるもんだな……で、ビルから出たのはいいけどこれからどうするんだよ」
「……このままアパートまで逃げる。そして、零一くんの部屋で……」
「ん、どうした……」
竜斗がいきなり立ちどまる。
「まぁ、ある程度までことは運んでいたようだが、甘いな、まだまだだ」
俺たち二人の前にひとりのおっさんが立ちはだかった。変な威圧感を出しており、対峙するだけで只者ではないと感じさせる……そんな人物だ。
そして、この人は怒っていると誰が見てもわかるような、そんなオーラを出していた。隣にいた竜斗を見ると目が釣り上がっていた。どうやらこっちも何故だかはわからないが怒っている様だった。
「糞親父っ」
そう叫んだかと思うといきなり殴りかかったのだ。これはもう、怒っているとしか思えないだろう。
「お、おい竜斗っ」
そんな事を言ったのだが、竜斗には聞こえていない。相手に体でぶつかるようにして殴りにかかったのだ。
「親にはむかう糞ガキがっ」
「がっ」
そういっておっさんは竜斗をぶった。飛ばされてきた竜斗が俺にぶつかり、尻餅をついてしまう。
「いててて……あんた、いきなり何するんだっ」
「うるせぇなっ。お前だって父親に反抗したら殴られるだろうがっ」
「あいにくだけど、俺には父親なんていないねっ。しかも、女の子を殴るような父親だったらこっちから願い下げだっ」
そういうとおっさんの目が研ぎ澄まされた。これまで怒り狂っていたようだったが、あっという間に冷静な顔つきになる。
「……ほぉ、竜斗が女だって知っているのか……しかもその面……なるほどな、竜斗、おれはお前にどうも今回ばかりは負けちまったようだな…」
俺の知らないところで話が進んでいるようで、俺と関係はしているが理解できない感じだった。
「お、おれがお前なんかに負けるわけ無いだろ、糞親父っ」
「糞は余計だ、糞は……あ~あ、ったく、糞ガキ共め……お前ら二人のせいで野々村のっとりは失敗だ。ま、お前が自分で撒いた種だ。どう決着がつくのか見せてもらうぜ」
さっさと姿を消した。あれが竜斗の父親か……一癖ありそうな人間だな。
「……糞親父め……」
「竜斗、血が出てるぜ……ほら」
「ありがとう……」
竜斗はハンカチで血を拭う。白いハンカチはあっという間に血を吸って朱色のしみを作った。
「……行こう、まだ終わってはいないから」
「そうだな」
よろよろと立ち上がる竜斗を手助けし、俺達はまた、逃亡者になったのだった。
――――――――
俺の部屋に潜伏して約五時間ほど経っただろうか……その間、俺の部屋のチャイムが鳴らされたのだが、無視した。どうやら、ここまで探しに来たようである。
俺の知らない着信音が部屋に鳴り響く。
「……糞親父からだ」
凄く嫌そうな顔を俺に向けたのだが、取るか、取らないかは竜斗が決めることだ。俺が決めることではない……って、おい、何で俺にケータイを渡すんだよ。
「……ったく……もしもし」
『さっきのガキか……喜べ、野々村家は負けを認めたぞ。馬鹿娘に伝えておいてくれ、お前の完全勝利だとな』
「は、はぁ、わかりました」
『それと、うちの娘を泣かせたらお前、覚悟しろよ……じゃあな』
ぶっきらぼうにそう告げられて切られた。竜斗に対してぶっきらぼうな親心、そして、俺に対しての脅迫宣言……
「……聞こえていたろ、お前の完全勝利だって親父さんが言ってた……うわっ」
「や、やったあっ」
竜斗が抱きついてきて、俺と共に倒れこむ。やはり、男とは絶対に思えない柔らかさだった。
「やった、やった、ありがとうっ。零一くん大好きっ。お礼は……そうだ、お礼はやっぱりキスしてあげるっ。キス、キスだよっ。ファーストキス、ん~っ」
「や、お、おいっ離れろって……」
迫り来る竜斗の顔を両手で挟んで抵抗する。い、いかん……こんなこと生まれて初めてだから口では拒絶していたとしても体が受け入れちまえと……くっ、これが噂に聞く理性との戦いってやつなのかっ。
そんな時だった。
ガチャ……
「ん」
「ん~……」
扉が開けられ、その先には佳奈、笹川、朱莉、剣、澤田がいた。しかも、確認するために頭を横に向けてしまっており、さらに、なんとか竜斗の顔を固定していた手が滑ってしまった。
「……あ」
頬に、柔らかいものがあたった。それが何なのか……理解できなかった。いや、わかってはいるんだが、それを今此処で認めてしまうのは非常にまずい気がしてならなかったのだ。窓を割った、しかも、先生の前で……そんな感じだ。
ぎぃっ……ガチャン
「……しまった、扉がしまったっ」
いつから、俺のアパートの部屋は自動ドアになったのだろうか……さび付いた扉はあっさりと閉まって、もう開かないような気がしてならない。
「あ、もうっ、顔を逸らさないでよっ」
「え、ちょ、ちょっと待て、お前の今の格好は……」
凛々しいタキシード姿だ。格好いい、美男子。そして、俺たち二人の立ち位置はどうだ。竜斗が俺の上に乗っかっている状態だ。何だよ、これは……
俺は、自分を客観的に見ることができる奴だと思っている。客観的に見てみよう……時には大切である。そして、結果としては危ない趣味を持った奴にしか見えないと断言する。
「……」
迫り来る竜斗の顔を押し返し、何とか立ち上がる。
「竜斗、とりあえず落ち着けっ」
「何で、だっておれを助けてくれた命の恩人だもんっ」
「いいから、今日は大人しく自分の部屋に帰ってくれっ」
今の俺は頭の中が真っ白だ。何も考えることは出来ない。ただただ、不安なまでに曇りきった窓の外にある空を眺めるだけが精一杯だった。
記念すべき第百五十話です。いやぁ、やっとここまでやってきたのですねぇ。よかったよかった。勝手に一人で盛り上がっていますよ。きりがいいですからね、早速重大発表をします。テンションあげていきましょうか……とりあえず、休載します。ん~、なんだか書いていて手ごたえを感じないというか何と言うか……自分で書いていて面白いといえるのならまだいいのですが、少し思うところがあるのでこの小説は一旦ここで終わりという形にしておこうかなと思ったのです。それじゃあ休載じゃないじゃないかっ……そう思われる方がいるかどうかはさておき、また別の小説を書いていきながら模索していこうかなと思った次第です。実のところ、いつ休載するのかすらわかっていません。予定に入っているだけです。かなり勝手な判断なのですが話数がたくさんあって面白い小説は他にもありますからそちらのほうを読んでいただけるといいのかもしれませんね。では、またいつかお目にかかる日がこれるよう精進してみます。あ、言っておきますけど一応、数話は続きますよ。四月二十八日水曜、二十時十四分雨月。




