第百四十五話◆竜斗編:勘違い、此処に極まり
第百四十五話
爺さんからようやく、ケータイが返ってきた。
「なぁ、今度は結構時間がかかったようだがどんなパワーアップが行われたんだよ」
「ん、ほれ、ケータイのボディーがスリムになっておろう。時間がかかったのは家でのごたごたがあった……ああ、それと、非常用バッテリーを中に内蔵、ハヤシライスのにおいもきちんと消えておるぞ」
鼻を近づけてにおいをかいでみるが、無臭だ。
「まぁ、そうだな」
「それと、画素数が増えて待ちうけゼロツーがより鮮明に……」
「相変わらずの二頭身ドット絵だけどな」
『あと、細かいところで改良がなされています。声にノイズが入りづらくなったというのがありますね……ああ、そういえば佳奈さんからメールがきていますよ』
メール本文が表示され『今日、一旦帰ってきて欲しいの』というものだった。
「まぁ、いいか……じゃあな、爺さん」
「ああ、明日は必ず此処に寄るように」
「わかった」
爺さんと別れて俺はとりあえず、佳奈の家に行くことにした。
―――――――
懐かしいと思いながらリビングの扉を開けるとそこには下着姿で押し倒されている佳奈と竜斗がいた。佳奈は俺を驚愕の表情で見ており、竜斗にいたってはやっぱり、曖昧に笑っているような表情だったりする。
「あ、れ、零一……あ、あのね、これは……」
なんだかものすごく佳奈が狼狽していた。顔を真っ赤にしている。ん~変な話だけど女が女を押し倒しても法律的には何ら問題がない気がする。でも、やっぱり男が女を押し倒したらそれはものすごく犯罪のにおいがするのだ。
「あ~、その、何だ。邪魔したな。また明日来るわ。明日、鈴音さんと達郎さんが帰ってきたら連絡してくれ」
「れ、零一っ……」
リビングの扉を開けて俺は脱兎のごとく逃げ出した。下着姿を凝視していたとばれたら佳奈にきっと馬鹿にされるに違いない。
―――――――
ひっきりなしに佳奈から連絡が来ているが無視して夕飯を作っているとチャイムが鳴った。
「は~い」
扉を開けるとそこには胸を張っている野々村竜斗がいたりする。
「お邪魔していいかな」
「別にいいぜ」
「そっか、それならお邪魔します」
まぁ、とりあえず客だ。一時的に料理をやめてお茶を出すことにした。
「で、わざわざ報告しに来たのか」
「うん、そうだよ。賭けはおれの勝ちってことでいいよね。零一くんの女子の知り合いは全部落としたわけだしさ」
「ん、全部……」
笹川、佳奈、朱莉、澤田、剣……。
「ははははぁ、それは甘いな」
『そうですよ、まだ私が残っています』
「ん」
ゼロツーに気付き、待ち受け画面でなにやら操作する。
「はい、これでおれの完全勝利だよ」
『口説かれちゃいました』
「いや、俺が言いたいのはそっちじゃねぇ」
ゼロツーが『ひどい』といったのは無視だ。
「まだ、いるんだよ」
「え……」
その『え……』は『あんなに女子の知り合いがいるのにまだこいつはいるのかよっ』という顔をしていた……と、思う。
「ニアってやつがいるんだ。そいつを落としたらお前の勝ちだって認めてやるよ」
いつの間に飲んでいたのかはわからないが空になっていた竜斗の湯飲みにお茶を注ぎ足す。
「へぇ、そんなに自信があるんだ」
「まぁな」
ニアはそこらの人間とは違う何かとても不思議なオーラを出しているし、只者ではない。竜斗の変装など一発で気がつくだろう。
「あんなくだらない茶番をニアに出来たら負けを認めてやるぜ」
「そっか、じゃあ明日決着をつけさせてもらおうかな…ごちそうさま」
そういってにっこりと笑う。むぅ、流石にこの表情だったら女だってわかるよなぁ……。
「どうだ、一緒に夕飯でも食わないか。二人分ぐらいならあるぜ」
「う~ん、せっかくの申し出だから食べていこうかな」
腰を浮かしかけていた竜斗が再び尻を床につける。
「……」
「ん、どうかしたの。もしかして、おれを押し倒したくなったのかな」
「いや……なんでもない」
俺は再び、料理に戻ることにしたのだった。
久しぶりのバイトで、しかも火を使う仕事の為暑いです。危うくこけてまるこげになるところでした…。四月二十五日日曜、十二時三十一分雨月。