第百四十一話◆竜斗編:竜斗、夏樹を落とす
第百四十一話
「やぁやぁ、皆さんおそろいで。来てくれて嬉しいよ。あのさ、君たちって結構知りたがりな性格をしているのかな。ん、ああ、一つ、演劇をしようと思ってね。おれの言葉に臨機応変に対応してくれればいいんだ。ほら、気になる女の子が別の男にちょっかいを出されていたら男は過剰に反応したりするだろう。知り合いだったら無理やり割り込んできたり……ね。この意味がわかるかな。そうだね、もし、零一に気になる子がいたそのとき、彼は間違いなくおれに何かを言ってくると思うんだ。友達の好きな人を当てるのって楽しいからね。皆も乗っかってくれるとおれも嬉しいな……そっか、協力してくれるんだ。うんうん、ありがとう」
――――――
もう少しでゴールデンウィークという四月の終盤。ある朝、教室へと向かう廊下の途中で男子生徒が女子生徒を口説いていた。いやいや、よくよく見てみたら両方とも俺の知り合いだった。前者は男子じゃなくて女子生徒の野々村竜斗、後者は澤田夏樹だ。
「ねぇ、君の名前って澤田夏樹だったよね」
「え、あ、は、はい……」
澤田のあごに人差し指と親指を当て、目をしっかりと見ている。ああ、羨ましいやつだ。あれは美男子がしなければ成立しない口説き方法。俺も一度でいいからやってみたいなと想像を膨らませる。やろうと思えばやれるのだが、ほっぺを思い切り叩かれるだけだ。
「小さくて可愛いね、おれ、君みたいな子、好きだな」
おっと、朝っぱらからロリコン宣言だ。これもまた、見た目が怪しい奴が言えば変態と罵られるかもしれないが竜斗ほどの美形であれば許されるものである。美形羨ましいなぁ、おい。
「そ、そんな……私なんて……」
「そう、そういう謙虚なところも凄く可愛い、抱きしめたいぐらいだ」
「………」
ああ、なんだか澤田が見ていて可哀想になってきた。あれ、絶対に竜斗のことを女だって気がついてないからあんなに顔を赤くするんだろうなぁ……でも、もし、竜斗のことを女だときちんと認識していて顔が赤かったら……澤田の趣味が理解できないと俺は思うのだろうな。
「一先輩、何を立ち止まっているのですか」
「お、やっと来たか剣……ほら、朝から熱心に愛を語り合っている二人組がいるぜ」
剣が俺の指差した方向を見ると目を細めた。そして、鼻で笑う。
「……朝から不純ですね。澤田さんがあのような方だとは思いませんでした」
「いや、まぁ、澤田は悪くないんだけどな。男のほう、よく顔を覚えておいてくれ」
「……ええ、わかりました」
剣はじっと見てからため息をついた。
「興味ありませんね」
そういって、澤田と竜斗がいるのを無視する形でその横を通り過ぎる。
「おっと、邪魔が入ったようだからまた、昼休みに話そうね」
「は、はひぃ……」
どうせ、俺たちがいたのには気付いていただろうに片目を瞑る。俺のところまで来るとやけに顔を近づけてこういった。
「まず、一人目だね」
それだけ残して去っていった。
やれやれ、そんなに賭け事がすきなのかねぇ。
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昼休み、澤田が机に突っ伏していた。なんだか、ものすごくがっかりしたような感じである。
「どうかしたのか、澤田」
「……初めて会った時は病室まで来てくれたのに……所詮、私は遊びだったんですね」
「は」
ばちーんっ
がばっと顔を上げて、俺の頬をはたき、教室を出て行ってしまった。ワン、ツー、スリーのステップでヒット&アウェイという戦法を取って逃げられたのである。
「何々どうかしたの」
「今、雨乃先輩が飛び級生に頬を叩かれたんだ」
「………」
俺は何故、自分が叩かれたのかよく理由がわからなかった。残ったものは真っ赤な紅葉だけである。
「………あれ、一先輩……その頬どうかしたのですか」
廊下から教室へと入ってきた剣が笑っていた。こいつが笑うところを見たのは初めてかもしれない。
「……澤田に叩かれた」
「ああ、それは大変でしたね」
「お前、笑っているだろ」
「……そんな、心外です。私が人の不幸を見て笑う人間に見えますか」
「鏡を見て来い。今ものすごくお前、嬉しそうだぞ」
気のせいですよと剣が言ったのだが……なにやら、変に臭うな。こいつ、何か知っているのではなかろうか……。
ただいま、後書きの思考中です。ああ、そういえば選挙の時期になったようですね。外を選挙カーが通っています。うるさい、とまではいいませんが対立している相手が近づいていると声が自然にあがり、うるさくなってくる……一度でいいから立候補者に『日本にある莫大な借金はどのようにして出来たのか』と尋ねてみたいものですね。さて、話がずれましたが竜斗の存在が零一とそれに関係するもの達にとってどのような結論を生み出すのか……楽しみにしていてください。たまには、リミッターをはずすのもいいかもしれませんねぇ。四月二十四日土曜、九時二十二分雨月。