第百三十六話◆日常編:迫りくる刺客
第百三十六話
「若造、ゼロツーを貸せ」
「うわっ、おどろいたぁ……」
ニアの爺さんが窓から入ってきた。俺、そのとき夕食中……驚いて残っていたあのハヤシライスを頭からかぶってしまった……
「あんた、忍者かよっ」
「……若造、現代に残っておる忍はわしの知る中では一人だけじゃ。行方不明、何処に行ったんじゃ、あの馬鹿垂れは……『煉獄』の機密文章を持ち逃げしおって…」
「いや、無理やり話をシリアス方面に持って言ってもわからねぇよ……で、ゼロツーか」
頭の上から引っかぶったハヤシライスをタオルで拭きながらゼロツーを渡す。
「ん、なんだかゼロツーがハヤシライスの匂いがするぞ」
「……一回鍋に落としちまった」
『あの時は死んでしまうのかと思いましたよ、ゼロワン様』
スピーカーから声が聞こえてくるが知らない知らない、聞こえない。ハヤシライスで溺死なんてありえないな。
「爺さん、ハヤシライスが残っているんだがどうだ」
「そうだな、もらって帰ろうか……いや、そういえばニアを呼べばいいんじゃな」
それから五分後、ニアがやってきた。
俺は初めて、忍術を目撃した……あれだけあったハヤシライスがあっという間に二人の忍者の胃袋に納まったのである。
忍者って凄いな……いや、忍者じゃないだろうけどさ。
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四月中盤の昼休み、放送委員の声が聞こえてきた。
『一年G組、雨乃零一君。至急、生徒会室まで来てください。繰り返します……』
「一先輩、もしかしておじいさんが見つかったのですかね」
剣が箸を握る手を止めてそういう。ちなみに、俺のお箸は動いていたりするわけだが。
「……どうだろうな」
もごもごと食べながら話をすると剣に睨まれたため、急いで飲み込む。喉に詰まって苦しんでいると夏樹が叩いてくれた。
「とりあえず早く行ったほうがいいと思いますよ」
「そ、そうだな」
剣、夏樹に言われて俺はそうすることにした。しかし、それならば俺のケータイに直接かかってきそうなものなんだけどなぁ。大体、生徒会室だし……なぜだろうか、不安が身体を覆いつくして仕方がない。それは何処か、死神から『あんた、あと一ヶ月きっかりで地獄に逝くよ』といわれるぐらい不安だった。
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ノックをするとどうぞといわれたためにさっさと開けて入る。しかし、中には誰もいない。
「……」
何だ、それなら何処から声がしたんだと辺りを見渡していると後ろで扉が閉まる音が聞こえた。後ろを振り向くと、扉に背を預けた一人の男子生徒が柔和そうな顔で笑っていた。
「はじめまして、雨乃零一くん」
右手を差し出してくるが、それよりも気になることがあったので尋ねることにした。
「……あんたが俺を呼び出したのか」
「うん、そうだよ。用事があったからさ」
眼鏡に色白、長身(百七十五ぐらい)で女子にモテそうな美男子、中性的な顔(満のような似非美男子ではない)感じの男子生徒だった。きっと、満がこの生徒を見かけたら襲い掛かるかもしれないな。
「あは、そんなに見つめられると照れるな……」
「え、ああ、悪い……」
本当に照れたように顔を赤らめているのでさっさと下を向く。男子生徒がてれた仕草をしたところなぞ、俺は見たくも無いね。
差し出されていた右手を掴み、上に下に振っておいた。
「俺は雨乃零一だ」
「うん、知っているよ。でも、おれの名前は知らないよね」
「……知らないな」
そっか、残念だねと笑う。う、うう……なんだがこいつを見ていると間違い探しを見ているような気持ちになってくる。
まぁ、それはおいておくとしよう。でも、どこかで見たことがあるような顔だった。
「生徒会のメンバーだろ。なんだか前に見たような気がしないでもないぜ」
「当たりだね。おれは書記長をやっているんだ。まぁ、生徒会長が一人で書記もかねているから実質雑用係だけど」
「ふ~ん」
「あれ、まるで他人事だね」
わかったように苦笑する。
初対面の俺にどのような反応を期待しているのかわからないが……そりゃあ、そんな事を言われて過剰に反応するほどなれなれしい奴ではない。
そんな時、ノックの音が聞こえた。
「んふふふっ」
「……」
いきなり笑い始めた野々村竜斗に俺は一歩後ずさる。身の危険を感じたのだ。こいつの近くに居てはいけない……そんな声が何処からか(多分、俺の心の奥底に眠っている誰かの声)聞こえてきた
「どうぞ、入ってください」
野々村竜斗はそういった。
そして、扉が開けられ……俺は信じられないことを体験したのである。
前話での後書き、リベンジです。この小説を書いて他人を尾行してみました。まあ、相手は店員でして……ブラックな冗談はこの程度…そんな話をしました。今回から登場したやたら馴れ馴れしいあやつの接近はいずれまた、説明する日がやってくることでしょうね。気がついてみたら四月ももう終盤です。五月病にならないように頑張りましょう。四月二十日八時四十