第百三十五話◆佳奈編:戦う二人
第百三十五話
実際の年齢よりも幼く見られる少女、雨乃佳奈は携帯電話を片手にどうしたものかと悩んでいた。
「……あ~駄目駄目だ、今日も電話しちゃったら毎日電話していることになるじゃないっ」
雨乃零一が一人暮らしを始めて一週間が経っているのである。三十分近く毎回毎回電話をしているのだ。
「……で、でも、一週間ぐらいで人間って決意が揺らぐかもしれないし……べ、別にいいよね」
誰かに言うでもなく、そういってから雨乃佳奈は携帯電話のコールボタンを押すのだった。
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炊事、洗濯、料理を一人でやるのは本当、大変だ。まぁ、以前やっていたわけなのだがこの一年間鈴音さんなどに甘えていたのだなぁと改めて再認識させられた。
一週間の節目ということで、贅沢をしようとハヤシライスのルーを一箱分入れたら一人で食べれる量ではなくなってしまった。
「……さぁて、どうするか……」
『一人で消費しようにもこの量では二日以上かかると思われます』
「そうだよなぁ……」
絶望的な気持ちになりながらもこれらを捨てる事無く消費しなくてはいけない。お弁当にハヤシライスを持っていくには何か違った容器に入れなくてはいけないだろう。
「う~む」
そんな時だった。ちゃぶ台の上におかれていた携帯電話が鳴り響く。
「もしもし、何だ、佳奈か」
『何だとは何よ』
不機嫌そうな声が返ってくる。そのとき、俺はピンと来た。
「あ、もう晩飯食べちまったか」
『え、いや、まだだけど』
「それならさ、これから食べに来ないか。ちょっと作りすぎちまって大変なんだよ。一人じゃきついからなぁ」
『え、しょ、しょうがないわねぇ。わかった、今から行くわ』
佳奈がそういってくれて俺はほっとした。ん、でもよくよく考えてみたら佳奈ってあんまり食べるほうじゃないものなぁ……どうしたものだろうか。
――――――
「えっと、この量を二人で食べ終えなきゃいけないってことなの」
「そう、そういうことなの。私もとっても苦労しちゃうのよ……」
「気持ち悪いわ、色々な意味で」
ため息をつく佳奈の背中を押してテーブルに座らせる。
「まぁ、別に全部食べろなんて絶望的なことは言わないからな」
そういうと再び佳奈はため息をつくのだった。まるで、馬鹿を見るような目である。
「あんたねぇ、業務用のルーを入れるなんてどうかしてるわよ」
「そ、そうだよなぁ。最初は一人でいけると思ったんだよ」
「……はぁ、やっぱり馬鹿だ。とりあえず、いただきます」
そういって佳奈はスプーンを右手に敵に襲い掛かるのだった。
「よし、じゃあ俺もいただきます」
こうして、二人で一生懸命業務用ハヤシライスのルーを減らすために戦ったという……
――――――――
「うごぅっ……あ、いかん、寝ちまったか…」
気がついたら外は真っ暗だった。向かい側では佳奈が眠っており、静けさだけが辺りを包んでいる。
「……くしゅんっ」
佳奈がそんなくしゃみをして、春なのに少し冷えていることにも気がついた。冬物のコートを佳奈の肩にかけて風呂掃除へと向かうことにした。
湯をはったところで佳奈が眠っているところへ戻ると佳奈の姿が無かった。ついでに言うのならコートも何処かに消えていた。
「……」
密室の佳奈、消失事件。
そんな題名が頭の中に作り出されるが消失した人物はすぐさま発見された。
「………こりゃ、俺は床に寝ないといけないな」
「……すぅ」
俺の布団の中に入って眠っていたのである。やれやれ、困ったものだな。
書き連なった後書きが手違いですべて削除…これ程悲しい事はないっ……四月十九日八時五十六分雨月。




