第百三十四話◆朱莉編:湯野花朱莉の宣戦布告
第百三十四話
俺は気がついてしまった。年末からずっと剣といてしまった為、彼女の思考に共感できるようになってしまったのである。俺から言えることは一つ『友は類を変える』ということだ。ほら、俺って周りの影響を受けやすい……流されやすい、人間だから。
「……、一先輩どうかしたのですか」
「え、いや、何も……あのさ、剣」
「何ですか」
「ありがとな、俺、お前のおかげで真人間になれた気がするわ」
「はぁ、それはよかったです」
いまいち実感が持てないような顔をしていた。
「元から真人間だったと思いますけど……お役に立てたのなら私も嬉しいですよ」
ああ、遂に俺も普通の人間になることが出来たんだなぁ……人間って変わることが出来るんだ……俺の未来は明るいぜ。
~零一、剣により改心・END~
「ちょっと待ってくださいっ」
のほほ~んと剣と一緒に帰っていると朱莉がやってきてそんなことを言ったのである。
「零一君、この程度のことであなたの追跡癖が治ってしまうのはあたしとしては困りますっ。吉田剣ちゃんと言いましたねっ。零一君には人を追跡するような追跡癖があるんですよっ」
一気にまくし立て、俺を睨みつける。その目には『どうだ、言ってやったぞこの野郎っ。これで吉田剣は今日から敵になるぞ……うひゃひゃひゃ』そんなことを語っていた。
それに対して剣はかなり冷静な顔をしていた。てっきり、木刀で追い掛け回されるとでも思ったんだけどな。
「そうなのですか、一先輩……あの、何で真剣白刃取りの構えをしているのですか」
不思議そうな剣に、なんだか怒っている朱莉……。
「くっ、一先輩だなんて……二人の仲はそこまで…」
おかしくなってしまった朱莉のことは放っておくとして…ここでウソはあまりよくない気がした。
「ああ、そうだ。以前は人を追跡する癖があったな」
「以前は……ということは、今はどうなのでしょう」
「今は剣のおかげでそれもなくなった。だからさっきお前にお礼を言ったんだよ。ありがとうな」
「………いえ、それは一先輩の心の中にも正しく生きようとする気持ちがあったからですよ」
「そうか……剣、やっぱりお前は凄いよ」
「ありがとうございます」
照れるでもなく、胸を張るでもなくいたって普通だった。
「じゃあ、帰るか」
「そうですね」
こうして、俺たちはまた歩き出したのである………夕陽を背にして。
~零一、剣に全てを告白する・END~
「だから、待ってくださいっ」
朱莉は再び俺たち二人の前に立ちはだかった。うん、なんだか悪役みたいだ。
「あたしは零一君が追跡癖をなくすと困るんですっ。仕事だってまだあるのにっ」
「お言葉ですが……ええと、湯野花朱莉先輩でしたか。私利私欲のために友達を使うのはいけないことですよ」
それまで黙っていた剣がようやくここで口を挟んだ。ん、よくよく考えてみたら二人より俺のほうが喋っていない気がするな。
「後輩なのにかわいくありませんね…。あたしは零一君と何かを共有していたいだけなんですよっ」
「それなら別に人を追跡するような変態チックなことでなくてもいいのではありませんか」
「ちょっとアウトローな方が燃えます」
ああ、朱莉が危ない人間に見えてきてしまって仕方がない。これも、剣の近くにいたことによる弊害なのだろうか……
「吉田剣ちゃん、今日ここで、あたしは貴女に宣戦布告しますっ」
「望むところです」
夕陽を背景になんだか少年誌的な展開に発展している。
「おいおい、朱莉……お前が剣に腕っ節で勝てるわけないだろ」
「ふっ、零一君……残念ながらこんなの暴力ごときで解決できるほど生易しい問題ではないんですよ」
「ええ、そうです。私は暴力を振るわない人間に対しては暴力をふるいません」
正義の鉄拳を下しますけどね……と剣が続けて言ったが聞こえないことにしておいた。つまり、満は剣の目に映っているとしてもそれは……悪の存在なのではないのだろうか。かわいそうに。
「じゃあ、どうやって決着をつけるんだよ」
「そんなの、相手ももうわかっていることですからいちいち口に出すことなんてありません。あたしはこれで失礼します」
それだけ言って俺たち二人に背中を見せて去っていった。
「……何あんなにむきになってるんだ、朱莉は……」
「一先輩、私達も帰りましょう。なんだかんだで遅くなっていますからね」
「そうだな」
よくはわからないがこれでいいのだろう……と自分に言い聞かせておいた。
「で、どういった決着をつけるんだ」
「簡単なことです。きっと、あの湯野花朱莉先輩が卒業時点で一先輩に追跡癖を再び出すことが出来ればあの方の勝ち、逆に出すことができていなければあの方の負けと言うことです」
「なるほど~」
そんなの気がつかなかったなぁ。
「あれ、朱莉からメールだ…」
――――――――
「うぅ~、まさか勢いであんなことを言ってしまうなんて……だ、だけど、それで零一君があたしの事を気にかけてくれるようになってくれればいいのですが……もしかして零一君、自分より年下のこの方がきょ、興味あるんですかねぇ」
湯野花朱莉は携帯電話を取り出してメールを打つ事にした。相手は先ほど別れた二人組みの片割れである。
「……年下の子に興味があるんですかっと……送信」
心臓の鼓動が早くなっていくのを実感しながら永遠とも思える時間を待った。
「もし、もし返ってこなかったら……きっと、剣ちゃんとのおしゃべりに夢中になって……」
一人でぶつぶつと朱莉が言っていると、メールが送信されてきていた。恐ろしいと思いながらも『同級生のほうが興味あるなぁ』という返事を期待する。
「……『朱莉は年下じゃないだろ』……」
何故、そのような言葉が返ってきたのか朱莉には理解できなかった……だが、先ほどまでの心臓の鼓動は通常時と変わらなかった。
「……やっぱり、色々と鈍くなっているようですねぇ」
一つ、ため息を朱莉はつくのであった。
ゲームに多分必要なことは自分ルール、つまり『縛り』なのかもしれませんね。たとえば、格闘ゲームだったら絶対に必殺技は使わないで対人戦を戦い抜くとか、シューティングだったら自分の機体を強化せずに最後まで……と言った感じでしょうかね。うん、まぁ、今回はこんなところでしょう。ゲームなんてしたこと無いよという人も世の中に入るでしょう。そんなあなたにもトランプなどでも縛りはできますよ。四月十八日日曜、九時五十七分雨月。