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第百三十話◇佳奈編:エンディング『笑いの絶えない家族』

実際は百二十八からの続きです。

第百三十話

 迷う事無くというか、俺は佳奈に向かってはっきりと考えを伝えることにした。俺はここにいてはいけない、やはり、この人たちとは家族になれないと思うのだ。理由なんてわからない。わかっていればこんなに悩まなくて済むんだろうな。

「あのな、佳奈……俺、お前に言わなくちゃいけないことがあるんだ」

 出来るだけ相手を刺激しないように始める。はっきりと考えを伝えるといっておきながら早速の方向転換だが気にしないで欲しい。俺は臆病者なのだから。

「待って、その前に……私から言いたいことがあるの。うん、私が先に……零一にちゃんと伝えておかないといけないの」

 学校指定のシャツにブレザー……きっと今日は学校に行っていたのだろう。その出で立ちで佳奈は俺の目の前に静かに立った。俺より身長が低い佳奈を見下ろしながら佳奈の言葉を待つ。

「零一がいいたいことってこの家を出て行くってことなんでしょ」

「……ああ、そうだよ。何でわかったんだ」

 いや、違うとか適当なことはいえない。大切な話だから、尚更ウソとかごまかしはやめておきたかった。もしかしたら、この家に戻ってくることなどもう無いのかもしれないからだ。

「言ったでしょ、私、零一のことなら何でもわかるんだから」

「……嘘つけよ」

「本当だもん。だけどね、きっと零一は私の考えていること……わからないでしょ」

 以前もそんな事を言われた気がした。既視感、だろうか……。

「どうだろうな。やってみれば出来るかもしれない……出来ないのかもしれない」

「どっちなのよ」

「やってみる。俺の目を見ろよ、佳奈」

「………うん」

 俺は佳奈の、ちょっとあどけない顔をじっと見る。

「あのね、零一」

「何だよ、今集中しているんだから邪魔を……」

「好きよ」

「……は」

 気がついたら軽い衝撃が俺を襲っていた。軽い衝撃だったはずなのだが、不意を打たれたのでそのまま後ろに倒れてしまった。しっかりと後頭部を床にぶつける。もしも、俺の後ろが何も無かったら今頃落ちて死んでいたことだっただろう。

「いってぇな……」

 俺と共に倒れた佳奈は馬乗り状態だった。下から佳奈を見上げるような形。さっきとは違う立場。

「ごめん、だけどね……私はもう、零一を放さないから、放したく……ないんだ」

 俺の胸倉をしっかりと握っている。非力で、振りほどこうと思えば振りほどくことが出来るはずなのだが、俺にはそれが出来なかった。

「はぁ、どういう意味だよ」

 さっぱり意味がわからない。大体、何で俺は佳奈に押し倒されたんだ。こいつが考えていることなんて俺にはわからないな。

「さっきも言ったでしょ」

「って……何をいったんだ」

 後頭部の痛みがようやくひいた。しかし、それと同時に何かとても大切な言葉も忘れてしまったようだ。生まれて初めて、言われた言葉。

「もう、一回で聞き取ってよっ」

「あのなぁ、佳奈が俺を押し倒したから悪いんだろ」

「それは……謝るけど、あのね、言うほうも恥ずかしいの」

 頬に手をおいて顔を真っ赤にする。何を今更……男を押し倒しておいて『恥ずかしいの(はぁと)』はないだろ。

「で、何なんだよ」

「……零一、私はあなたのことが大好きよ」

「……え」

 今、聞き間違いをしてしまった気がする。佳奈はしっかりと俺を見据えており、目をそらそうとすると顔を固定された。

「……あ~、悪い、聞き間違えたかもしれない。もう一度言ってくれ」

「好き、貴方のことが」

 聞き間違いなどではなかった。

「……本気で言っているのかよ」

「うん、本気だって……教えてあげる」

 俺は佳奈に顔を固定されて、ついでに身体も佳奈が乗っているので自由に動かせなかった。佳奈は、すごく優しい顔を俺に向けてくれている。



――――――――



「ただいま~」

「佳奈、零一、今帰ったぞ~」

 鈴音、達郎が家に帰宅し娘と居候をしている少年の名前を呼ぶ。

「お帰り~」

「……」

「ん」

 達郎は娘である佳奈の声を確認はしたのだが居候の少年、零一の声を聞き取ることが出来なかった。

「あれ、零一はいないのか」

「そこにいるわよ」

 佳奈が指差した先には床に座り、部屋の片隅をじっと眺めている零一がいた。

「お~い、もしもし……」

「……」

「佳奈、零一に何かあったのか」

「ん~、さぁ、何か人生論でも変わる何かがあったんじゃないのかな~」

 何かを思い出したのか頬を染め、手をおいて笑っている。零一がそれに反応することも無い。

「……あ、そういえば零一……お前、一人暮らしがしたいんだってな」

 そういうとまるでさび付いたロボットのように零一は首を動かして達郎のほうへと目を向ける。

「………達郎さん、その、あの、えっと……凄く申し訳ないのですが、俺、一人暮らしやめます」

「は……一体全体どうしたんだ。鈴音から聞いた話じゃちょっとやそっとじゃくじけないような決意だったって聞いたんだが……」

 達郎は鈴音のほうを見やる。すると、鈴音は佳奈と零一を交互に見つめて一人合点がいったかのように頷いた。

「佳奈、よく引き止められたわねぇ。なんだか、零一君の寿命が縮まっているような顔しているもの」

「……そうかなぁ」

 しきりに照れている佳奈が何かをして零一を止めたのは間違いないようだ。しかし、達郎には自分の娘がどのような手段をもってして男の決意を止めたのか理解できなかったりする。

 ともかく、晩飯を食べることにしよう。達郎は佳奈と零一をテーブルに座らせることにしたのだった。

 夕飯を食べているときに達郎はふと、まえまえから思ったことを零一に言ってみる。

「零一、お前になら佳奈をやってもいいぞ」

「ぶほっ、げほ、げほ、げほげほげほげほ……」

 盛大に噴出してむせている。言った本人ではあるのだが、達郎は驚いて鈴音は笑い始めた。佳奈は顔が真っ赤になりながらも零一の背中を擦っている。

「れ、零一……大丈夫」

「あ、ああ……」

 普段だったら『ははは、遠慮しておきますよ、達郎さん』などというような奴だったはずなんだけどなぁと達郎は考えるのだが、あいにく彼にはすでにアルコールが入っていたため、まぁいいかで終わらせてしまった。

「よし、零一、俺のことを今後お父さんと呼ぶように」

 そして、酔いが進んで話は加速していったのである。

「……ほ、本気で言っているんですか……」

「ああ、俺はいつも本気だ。ま、佳奈がお前のことを気に入ってるなら結婚も視野にいれていいぞ。そうしたらお前は婿養子確定だな」

 腕組みをしてうんうんと達郎は頷く。

「……か、佳奈と同じことを言うんですね」

「ん、何か言ったか」

「いや……何も……あ、そ、そういえば……皆に言うのを忘れていました」

「何だ」

 達郎が代表をして尋ねると零一は頭を下げるのだった。

「あの、これからもよろしくお願いします。居候が続きますんで」

「何を馬鹿なことを言ってるんだよ。ここはお前の家だよ」

「そうよ、零一君」

「零一、私とあんたは家族になるんだからね」

「……ああ、そうだな」

 佳奈と零一は二人で笑っている。それを見て達郎はため息をつくのだった。

「もし、もし……本当に零一が佳奈と結婚したら尻の下にいるんだろうなぁ……俺みたいに」

「達郎さん、今何かいいましたか」

「はははは……いいや、何も」

 他の誰が見ても家族ドラマのワンシーンにしか見えないだろう。そこには笑うもの達しか(苦笑が一名)いないのだから。



~佳奈END~



さて、ようやくエンディングを終えたというわけですね。いや、ここまで長かった〜。次回はまた新しい春です。四月十六日八時四十八分雨月。

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