第百二十八話◆佳奈編:終わりへと続く、三つの言葉
第百二十八話
遭難に終わって特訓中の友人に助けられるという摩訶不思議な一日を体験して俺は帰宅した。満身創痍ではないのだが体力的には限界が近い。また今度一緒に登山に行きましょうねと言った剣に俺が遠慮しておくといったのは当然のことなのかもしれない。山なんて、もう行くものか。美人は遠くから見るのが一番だし、山もそれと同じなのではないかと俺は思う。
「た、ただいま~」
「お帰り~」
間延びした返事がリビングのほうから向かってくる。玄関から入り込んだ外灯の光がリビングや風呂などに通じる廊下を抑え目に照らす。時間帯としてはまだ夕方なのだが空は雲で覆われ、雨の所為なのかわからないが暗闇だ。もう、夕方というよりも夜といっていいかもしれないな。
「遅かったわね、山に行くって言っていたけど……遭難でもしていたの」
ソファーに寝転んで耳掃除をしながらテレビを見ている。全く、羨ましいものだな……
「ああ、遭難してた」
「そうなんだ」
「……」
やってしまったという顔になった佳奈に俺は突っ込む気にもなれず、一つため息をついて自室へと入る。いつものように片付いている………というよりは物が少ないだけの部屋はなんとなく寂しいものだった。扉を隔ててテレビのある部屋が隣にあるというのにテレビの音はひどく遠い場所から聞こえてくるような気がしてならなかった。
後ろでに扉を閉めて荷物を部屋の隅のほうへと乱暴に投げる。
「……くっだらねぇ」
「悪かったわね、くだらなくて」
部屋の中でぼそりと呟いただけのはずなのにしっかり聞こえていたらしい。意外と地獄耳なんだな……ああ、耳掃除をしたおかげか。俺も今度しようかな……まぁ、それはおいておくとしよう。
カーテンを閉めるために窓へと近づく。窓の外は弱かった雨足が強くなってきたようでざーっという音が聞こえてくる。ニアの家で傘を借りてきて本当によかった。傘の柄の部分に『押すな、危険』と書かれた赤いボタンがあったりするが……俺は押してはいない。
「……はぁ」
なんとなく、そう、なんとなく……本棚に手を伸ばして日記帳を手に取る。この日記帳は佳奈の家にやってきた日からつけており、三日で諦められている。言い訳ではないが、日記帳がなくなっていたために三日分しかつけることが出来なかったのだ。
「……『一人暮らしがしたい』か」
『私の、私達の家族になってほしいの』
「……」
本当、どうしたものだろうか。誰かに聞いたって答えてくれるわけでもない問題だ。俺が自分で決めなくてはいけない問題。
「……一人暮らしか」
あの時は此処に居場所が無い、本当の居場所なんかじゃない……そう思って一人暮らしがしたいと思っていた……だけど、今は違う理由で一人暮らしがしたくなった。
「……ゼロツー、鈴音さんに電話をかけてくれ」
『了解しました』
俺はゼロツーにそう命令したのだった。
「……」
きっと、時間にしたら二十秒もかからなかったはずだ。俺はコール音がしている間に様々なことを考え、悩んで、これが本当に正しいことなのか答えを出そうとした。
『もしもし、零一君どうかしたのかしら』
「あ、鈴音さん……あの、俺……」
鈴音さんの声を聞くまでにこの後の行動が正しいものなのか、ただ単に迷惑なことなのかを決めることさえ出来なかった。
「俺、一人暮らしがしてみたいんです。俺にとって此処が必要な場所なら、恋しくなるって思いますから。……その時はまた、此処に戻ってきます。図々しくて我がままで……すみません」
『………』
鈴音さんは無言だった。何かを考えているのか、それとも呆れているのかは俺にはわからない。ただ、雨の降る音だけが異様に大きく聞こえるだけだった。
「駄目だったら俺……あの」
『わかったわ、達郎さんにも話してみる。それから部屋を探しに行きましょう』
「鈴音さん……ありがとうございます」
『だけどね、きちんと佳奈に話しておかないと駄目よ』
「はい、これから……話に行きます」
電話を切り、俺は静かにゼロツーを机の上においた。
「ちょっと、行って来る」
『健闘を祈ってますよ』
「……別に報告に行くだけだから大丈夫だろ」
俺は異様に静かになったリビングへと続く扉を開けるのだった。
「あのさ、佳奈……お前に話したいことがあるんだ」
「何よ」
そこには、少し拗ねたような表情の佳奈がソファーに座っていた。
さて、どうやって切り出したらいいのだろうか……
一、『俺、この家を出て行くよ』
二、『話がある。俺にとっては大切な話だ』
三、『佳奈、お前といて楽しかった』
うーん、なんだか皆様に言いたい事があったのですが、ど忘れしてしまいました。ともかく、第百三十話で佳奈のエンディングです。今骨子案が出来たところです。これから推敲してそれから投稿となると思います。ま、ぼちぼち頑張るとしましょう。あまり頑張りすぎると疲れてしまいますから。そういえば、第三回小説コンテスト?があるみたいですねぇ。四月十四日雨月。