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第百二十六話◆剣編:山に登ろう

第百二十六話

 休日、俺は一人で登山すべく(十回ほど自分に言い聞かせた)近くにある山に登ることにしたのだ。なに、たまには山登りもいいだろう。お弁当も自分で準備したのだからやる気は一応あるのである。もっとも、そのやる気も風前の灯といっていい。雨が降りそうな天気のために、もし家を出るまでに雨が降ればやめようというものだ。

「そろそろだな」

 いつも、剣がやってくる時間帯に出ることにした。これならばマラソンだって堂々とサボることが出来るはずである。



ぴんぽ~ん



 ほら、やっぱり今日も欠かさずやってきた……

「はいはい、ちょっと待ってくれよ」

 玄関の扉を開けてびっくり。いや、ちゃんと剣がいたのさ。だけど、だけど……その背中にはリュックサックがあったのである。しかも、登山は登山だけどとても本格的なもので簡易テントのようなものまで……山に篭もるつもりなのだろうか。

「え、えーと、その装備は何なんだよ」

「登山するための装備です。同行します」

「………」

 シンプルイズザベスト……わかりやすくて、地球に優しい……かは知らないが俺にとってはあまり優しくない答えだったりする。

「よく考えてみれば近くに山があるのだから無理して海に行く必要なんてなかったのですね。雨乃零一先輩に言われて始めて気がつきました。盲点です」

「俺も盲点だったと思ってるよ」

 まさか、お前がついてくるなんていうなんてよ…。

「さ、では参りましょう」

「……ああ」

 登山日和なのかはわからなかったが日が出ていなかった。おかげで、寒い…そして、俺らが遭難したのはそれから三時間後のことである。



―――――――――



「迷いましたね」

「そうだな、迷ったな」

「とりあえず、斜めに下っていけば道に着くのではないのでしょうか」

「……どうだろうなぁ。携帯電話だって持ってきてねぇし」

「雨も降ってきそうですし」

 剣がそういうと、天から何かが降ってきた。それは、俺の頬に当たると冷たくはじけた。

「……降って来たな」

「そうですね。とりあえず、濡れないところに移動しましょう。木々がありますけど、やっぱり濡れてしまいますから」

 俺としてもその考えに異論は無く、二人で雨を凌げそうな場所を探した。

「あそこにしましょう」

「お、どれどれ……」

 それは大きな石が斜めに傾いたような場所だった。地面近くがちょうど抉れており、二人程度なら入れそうである。

 なんとなく湿った地面に腰を下ろし、葉を落とした木々を通過して灰色に染まる空を見上げる。

「……」

「……」

 俺も剣も無言だった。なんだか、非常に居心地が悪くて仕方がないのでこの空気を払拭するために俺は一つの提案をした。

「あ~そうだ、そろそろ昼だろうから飯食おうぜ」

「……そうですね、私、お弁当を作ってきましたよ」

「俺も一応持ってきた」

 遭難しているのなら食料はちびちびしていかないといけないのだろうが大丈夫、何とかなるさ。いや、何とかしてみせる。

 まぁ、新たな決意は置いておくとしてお互いにリュックの中からお弁当箱を取り出すことにした。

「はい、どうぞ」

「おお、剣って料理も出来るんだな」

 鶏のから揚げ、卵焼き、タコさんウインナー、黒豆、塩鮭、おにぎり、ミニハンバーグなどなど……

「雨乃零一先輩のお弁当も及第点ですね、人として」

「……そうかぁ、充分だろ」

 卵焼きと冷凍食品二品、それとりんごを切ったもののスタンダード……だと思うものである。

「そういえばよ、何でお前はいちいち『雨乃零一先輩』なぁんて呼び方をするんだよ」

 どうぞといわれたので剣のおかずをつつきながらそういう。

「雨乃零一先輩は雨乃零一先輩に他なりませんから。雨乃先輩では雨乃佳奈先輩と被ってしまいます」

「じゃあ、零一先輩でいいじゃんか」

「それもなんだか……おかしい気がしたので。なれなれしい気がします」

「………」

 毎朝家にやってきてチャイムを鳴らすほうがなれなれしいのではないのだろうか。ともかく、剣の中ではそういったことに敏感なのだろうか。

「なれなれしさが無くなったらどうなるんだよ」

「そうですね……やはり、零一先輩もしくは……」

 黙りこむ。どうかしたのだろうか……

「もしくは……なんだよ。気になるだろ」

「一先輩って呼びます……変でしょうか」

 変じゃないさ、凄く変さ……とは口が割けても言えなかった。零が抜けてます。

「……一、先輩か……まぁ、お前が呼びたいって言うのなら呼べばいいさ」

「じゃあ、今後は一先輩と呼びますね」

「あ、ああ……」

 早速呼ばれたよ…。


山、そこにそびえ立つのならば登るのが人間のロマンです。よく人間の人生に例えられることがありますが、自分がどうすればいいのかわからなくなったらそれは遭難してしまったと言うことなのでしょう。そんなときは立ち止まって考え、自分の意志で行動しましょう。他人の言葉で動いて失敗してしまった時、それは自分の責任ですから。さて、次回の予告です。『羽津山の秘境に潜む神秘、調査隊に迫る黒い影』を多分やります。

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