第百十六話◆02編:強化、改造されたゼロツー
第百十六話
「若造、今日、学校が終わったらニアと一緒にうちに来い」
「え……」
朝、玄関を開けたらそこに爺さんがいてそういわれた。今日の放課後から冬休みである。
「あ、ああ……そりゃ別にいいけど……」
「ゼロツーもついでにつれて来い」
「わかった」
気がついたときには爺さんの姿がなくなっており、改めてあの爺さんは何者なのだろうかと悩まざる終えない結果になったりする。あの人、何者なのだろう……知っているお方、ご連絡お願いします。
――――――
「零一ぃっ、帰るぞ」
「え、お、おう……」
放課後、俺のところにニアがやってきた。なんとなく嫌な予感がしていたために逃げようかな、友達と遊びに行ってしまおうかと思ったのだがこういうときに限って笹川はすぐに図書館に行っているためにおらず、満は今日も『告白部』で乾ききったこの高校生活を潤いのあるものに変えようと躍起になっている。本は友達、女が大事という俺を放置しての行動である。
「じゃあ、帰るか」
「帰ろう……ちゃんとゼロツーも持ってきてるな」
「ああ」
ケータイを見せる。黒い、二つ折りのケータイだ。ぼろくても実際、中身は最新機種を超えるんじゃないかと思われる謎の電子生命体が潜んでいる。
『はい、今日も大人しくしていました』
画面に文字が表示され、ついでに言うのならば受話口からも声が出てくる。まぁ、サウンドのところから声が出ていないだけまだましなのかもしれないな。
「じゃあ行くぞ」
「おうよ」
――――――
あっさりやってきたニアの家。ただいま改造中という看板が立てかけられていた。
「……」
「何ぼーっとしてるんだ、入るぞ」
「あ、ああ……」
出来上がりが楽しみといえば楽しみなのだが……なんだろう、不安と希望が入り混じって(不安が九、希望が一)複雑な心境である。
「ところで爺さんは何処なんだ」
「多分、応接間にいると思うぞ。下の研究室は今は立ち入り禁止だし、離れの自分の部屋は取り壊したからなぁ。入るのに面倒だって言っていたから」
「……」
それなら普通の扉にしておけばいいものを。今度やってきたとき離れが秘密基地の一部になっていたら俺はどういった反応をすればいいのだろうか。
「じーじ、ただいま。零一をつれてきたぞ」
「おうおう、今帰って来たのかぁ、わからなかったぞ」
ウソをつかないでほしい。玄関の引き戸は磨硝子なのでぼんやりとだが相手の姿は確認できるはずだ。
「若造も来てくれてよかったよかった」
「……で、俺に何か用なのかよ」
そう尋ねると爺さんは首を縦に動かさずに横に動かしやがった。
「正確にはゼロツーが必要じゃ。お前さんは今回おまけ。ゼロツーの大幅改修を施すのが目的じゃ。そういうわけでお前はニアと遊んでおいていいぞ」
爺さんが笑う。気がつけば俺の手をニアが掴んでいた。死んでも放さないぞという決意がにじみ出る表情である。
「わーい、じゃあ零一、あっちで遊ぼう」
「え、あ、ちょっと……」
ニアに腕を引かれる。何でだろう、結構がんばって踏ん張っているというのにまるで赤子の手をひねられているかのような錯覚を覚えるぜ。
――――――――
「……もはや別物だな」
大幅な改修を終えて俺の手元に戻ってきた白くて二つ折りのケータイ。
「まぁ、そうじゃな。今回の改修によってスピーカーからも声を出せるようにしておるぞ」
『雑音の無いクリアな音をゼロワン様の耳にお届けします』
「……そんな家電製品のキャッチフレーズは言わなくていいぞ」
待ち受け画面のゼロツーもより表情がわかりやすくなった気がしないでもない。いや、それが何かの得になったのかと誰かに尋ねられたとしても俺は首をひねった挙句に横に振るだろうな。
『私は永遠のゼロワン様の待ち受け画面ですね』
「いや、いずれお前は身体が出来たらそっちに移行するだろうがよ」
「まぁ、仮住まいじゃがいいじゃろうな。男と女、一緒にいると嫌でも相手の悪いところが見えてしまう。ゼロツー、若造の世話をお前に頼んだぞ」
『ありがとうございます、ダニエル様。これでぺらぺら喋ることができます』
う~ん、面倒なことにならなければいいんだけどなぁ。しかも、ついでに言わせてもらえば俺がゼロツーの世話をしている気がする。
どうも、雨月です。ゼロツーの話は完全に論外です。彼女はヒロインなのですがヒロインではないはずだったのです。気がついたら零一の携帯電話に滑り込み、日常生活に影響を及ぼすまでの成長っぷり……恐ろしい子。ともかく、あまりにヒロインが登場しすぎるとかなり話を回転させるのが難しくなってくるのは当然です。そこは作者の腕なのでしょうが自信ないということで、仕方ありません。話を作っていれば勝手に出来てしまうものなので実は作者も投げやりだったりします。いえ、適当に作っているわけじゃあないんです。まぁ、言い訳ですけどね。さて、次回からは冬休み編がスタートします。一回十二月の頭に戻っちまったのが一つの原因なのですがそうしないと剣を登場させるのがほぼ無理となったのでしかたありませんねぇ。では、また次回。




