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第十一話◆:理由が知りたいお年頃

第十一話

「ただいま帰りました」

 そういってみるがやはり、誰もいないようだった。比較的整理整頓されているリビングを通り抜けて隅っこの部屋を開ける。そこが、俺に割り当てられた部屋だった。

「ふぅ……」

 制服をハンガーにかけてちょっとした机に手を置いた。変な話というか、何と言うか……俺には不思議なことだらけだった。いや、変な奴と知り合いになる機会が多すぎるというのも充分不思議なことだがその根底にあることだ。

 どう考えてもおかしい。親戚が引き取ってくれたおかげで今此処に俺はいるのである。それにはとても感謝しているし、様付けで呼んでも構わないぐらいだ。だが、子どもを引き取って育てるというのは実に大変なことで、お金がかかることなのだ。だから、ほいほいと子どもを引き取って育てるというのは少し、怪しい気がする。

 俺だったら、子どもを引き取ることはしないだろう。たとえ、親戚の子が路頭に迷ったとしても手は差し伸べないかもしれない。他の親戚が引き取ってくれるだろう、そう思うから。すごく親しくしていた親戚なら引き取ってくれることはあるだろう。だが、こことはほぼ無縁といっていい。それこそ、俺が小学校低学年のときに一度、俺の家に来たときぐらいしか会っていないはずだ。そのころにはすでに親父達はいなかったのでうちのじいちゃんがこことの対応をしていた記憶があり、そのときに俺は佳奈と遊んだような…記憶がなくはない。

「あら、零一君帰っていたの」

「え、ああ、はい」

 ぼーっとしていたら扉が開けられていて鈴音さんが立っていた。鈴音さんは佳奈の母親だがぜんぜん似てなくて優しい人である。

「何か考え事でもしていたのかしら」

「……ちょっと」

「相談事なら乗ってあげるわよ。私が駄目なら達郎さんにでも相談なさったらどうかしら」

「え、あ……そうですけど。いえ、ちょっと聞きたいことがあるんで今日の晩にお二人が揃ったときに話させて貰います」

 そう、わかったわ。それだけ残して鈴音さんは部屋から出て行った。



―――――――



「じゃあ、私明日早いから」

 そういって午後十一時を過ぎた時点でリビングから佳奈の姿が消える。俺はそれを待っていたかのように二人の名前を呼んだ。

「鈴音さん、達郎さん」

「お、なんだ」

 新聞を見ながらついでに、テレビを見ていた達郎さんがテーブルへとついた。そして、鈴音さんもお茶を用意してくれて定位置へとつく。

「どうした、いつもと表情が違うぞ」

 とぼけたような感じの達郎さん。あえて突っ込まずに話をすることにした。

「あの、何で俺を引き取ってくれたんですか」

 そういうと二人とも見合わせたような顔をする。

「そりゃあ、あれだろ、お前が困っているからだろうよ。源二さんが行方不明になったんだからな」

 源二さんとは俺の祖父である。殺しても死なないような人だった。

「そうよ、だから引き取ったのよ」

「それで満足か」

「……」

 本当にそれだけなのだろうかと思ったが、これ以上二人を困らせたくは無かった。変に疑り深くなったのは何故だろう。

「……はい、えっと、引き取ってくれてありがとうございます」

「よせよ、そんな事を言われると……ほら、見ろよ。アレルギーが出ちまっただろう」

「じゃあ、私はお風呂に入ってくるわね」

 そういって鈴音さんがいなくなった。

「……まだ、納得してねぇ顔してるな」

「ええ、まぁ」

「まったく、素直すぎるのもどうかと思うけど、疑りぶけぇと友達なんてできねぇぜ」

 そういって新聞を再び広げる。

「これから言うことは独り言だからな……」

「え……」

「あの日、借金を背負い込んだ俺らが最後に門を叩いたのがお前の家だった。それまで、正直言って会って話をした事なんてなかったよ。だけど、当時の俺達は藁だって掴みたかったんだ」

「……」

「当時、すでにお前の両親は行方不明だったから金は借りられなかったんだがな、源二さんは快く金を出してくれた。そして、お前を見ながら『もし、この子が成人する前にわしがどうにかなったらそのときはこの子を引き取って欲しい』って言われたんだよ。可愛い孫だからってな」

「そうだったんですか……」

 心の隅にじいちゃんの顔が浮かんだ。

「嘘、だけどな」

「え、嘘……」

 にやっとした表情で新聞を折りたたむ達郎さんがそこにいた。

「ああ、嘘だ。嘘嘘、お前が思いつめたような表情をしていたからちょっと冗談してやったんだよ」

「……ひ、酷いですね、達郎さんっ」

「ま、深く考えるな。親と思っていいからよ」

 そういって片目を瞑る。やれやれ、いっぱい食わされたというわけか。

 バタンという音がして佳奈が出てきた。

「……ちょっと忘れ物したわ」

「……おう、そうか」

 そういって再び戻っていった。

「ああ、そうだ……お前、佳奈についてどう思ってるんだ」

「え……」

 達郎さんの顔が近づいてくる。

「どうって……どうも特には思いませんけど……それがどうかしたっすか」

「……ちっ、何かあるだろうよ。美少女だ、とか、抱きしめたいとか、奥さんにしたいとかよぉ」

 父親の前でそんなことを言えるはずが無い。抱きしめたいって……ありえねぇ。

「じゃあ、あれだな。まずはハードルを一つ設定してみるか」

「ハードル……って、何っすか」

「……まぁ、あれだ。まず、佳奈を見て可愛いと思うかどうかだな……で、どう思う」

 どうもこうも……

「可愛いんじゃないんですか」

「何だよ、その投げやりな感じは」

「いや、別に投げやりじゃないっすけどね。可愛いと思いますよ。笑えば。普段は常にピリピリしてて近づきがたいオーラが出てますし、話しかければ怒られたような気がします」

「なるほどなぁ、だけど其処があいつのいいところだぜ」

「そうっすかねぇ」

 それがいいんだろうよぉ、そういうが、やはり、納得できなかった。

「お前もよぉ、少しは佳奈に優しくしてやりゃあ、佳奈も優しくしてくれるんだよ」

 もう、なんだか適当に流したほうが良いんだろうなぁ。


→流す。


 ちゃんと対応する。


 勿論、流す方向で。


今回で第十一回目。なんとなく、節目の……って、早いか。ともかく、努力とは女又力力で、構成されていますので……たとえ、話が全く出てこない。そういわけで、今回はここで退かせてもらいます。二月二日火曜、七時三十八分雨月。

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